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Safe
しおりを挟むところでひとくちに『金庫』と言っても、大小機能も様々だ。いちゃいちゃしながらウィリウスと相談した結果、多少コストが嵩んでも良い物を設置しよう、という話になっている。というか、ウィリウスに後生だからと拝まれた。彼の感覚だと、エリクサーを滅多な場所に置いておくと怖くて仕方ないらしい。
俺としても面倒事に巻き込まれるのはごめんなので、うっかり見られない場所にしまっておきたい気持ちがある。予算の許す範囲で良い物を使いたい。
「んで、あてはあるって言ってたけど今からどこ行くんだ?」
「世話になってる鍛冶屋がある。組合の御用達だから仕事は確かだ。俺達なら普通に注文出来るし、多少時間や金が掛かっても変なとこに頼むよりマシだろ」
「なるほど。俺はよく分からんから任せるよ」
しゃら、と冒険者用のタグを鳴らす彼は、騒がしい街並みの中迷いなく進んでいた。ついでにお前の服も買うか、なんて呟くウィリウスの懐には、結構な額の資金が入れられている。俺は前回同様、ウィリウスの貴族っぽい服を借りて手ぶらで追従。コネでパーティーに入った従兄弟とかだと思われていそうだ。
ファンタジックな街並みは見ているだけでも楽しい。もう数回目だというのに、美しくディスプレイされた商品たちやもふもふの獣人なんかに視線が吸い寄せられてしまう。1人で歩く時はわりと自制が効くのだけど……ウィリウスがいるとどうも気が抜ける。
「ほら、シン。こっち」
「あ、うん」
よって、今日も手を引かれてお出掛けだ。世界観がそもそもエロゲでBLだからか、大の男が2人仲良くおてて繋いで歩いていても目立たないのは有り難いと思う。似たような状態で歩くペアは結構いるし、なんなら奴隷に首輪着けてほぼ全裸で連れ歩く奴もいた。誰も二度見しないんだぜあの絵面。顔隠してやって、ってお願いしたら怒るかな、ウィリウス。
組合の建物から右に逸れ、ぐるりと回って裏手の道へ。向こうの通りの騒がしさは遠のき、こちらは客引きもなく静かな市場だ。ずらりと店が並んでいるのは変わらないけれど、店頭に商品が並ぶこともなく、ごくたまにショーウインドウがあるくらい。職人街的な感じだろうか。
「ここだ。ダンジョン潜るならそのうちお前の装備も頼むだろうから、挨拶しとけ」
「うん」
通りに入ってすぐのところにあった店舗を指して、ウィリウスは言う。随分古めかしい店構えで、1人でいたら入らないだろうな、って感じのところだった。窓も小さくディスプレイもないので、なかなかハードルが高い。遠慮なくドアを開けてベルを鳴らしたウィリウスに続いて、ちょっと身構えながら扉をくぐる。
「らっしゃーい」
低い男性の声が奥から聞こえてきた。勝手に想像していたような、頑固で剣呑な店主ではないみたいでひと安心。ゲームでは店舗ごとの店員なんていなかったから……この店の人がどんな人物なのかは分からない。
「こんにちは」
「ああ、ウィリ坊っちゃん。どうも。そちらは?」
「俺の連れです。そのうち防具とか頼むと思うので、注文のついでに顔合わせを」
ふわっと温かい空気が流れてくる。裏手へ続く扉を開けて現れたのは、小柄で筋骨隆々な男性だった。たっぷりと髭を蓄えた顔に、意外と人の良さそうな笑みを浮かべている。ドワーフというやつだろうか、ファンタジー世界にはありがちな種族だ。
「おお、なるほど。どうも、鍛冶屋のドナートです。よろしく」
「シンです。よろしくお願いします」
にこにこと微笑む鍛冶屋さんは、人懐っこく握手を求めてきた。何も考えずその手を握って、固く立派な掌に驚く。モンスターの素材や金属をほぼ機械無しで加工しているんだから、そりゃあ鍛えられていて当然か……。
「あの、坊っちゃん……」
「いや、ほら……鍛えさせるから……」
ぎゅっと手を握ったドナートさんがなんか微妙な顔をしている。おず……とウィリウスを見るけれど、彼は全て得心したような顔で目を逸らした。
「今不名誉な情報が共有された気がする」
「な、ダンジョン潜るまでにもうちょい鍛えような……」
説明を求めてウィリウスを見る。そっと肩を叩かれた。どうも、ダンジョンに潜るには俺の体が貧相すぎたらしい。元内飼い奴隷なので許してほしい。
「まあ、今日はほら、別件だから」
「おや。どんな御用で?」
ウィリウスが話題を変えたので話は逸れた。が、武器防具の専門家から見て俺の体はダンジョン探索に向いていないらしい。お荷物になるのも困るし、やっぱ筋トレから始めるかぁ。
以前がどんなだったかは覚えていないものの、己の貧相さを内心嘆いている間、ドナートさんとウィリウスは商談を進めていた。後ろでおとなしく聞き耳を立てておく。冒険者の中でも比較的安定した連中や大きめのパーティーなんかでは、資材の保管庫を、と求める者も少なくないらしい。金庫が欲しいと一言言えば、話はさくさく進んでいく。
予算内で済ませたいと交渉する様を見て、設備について値切るのを見ていて、ああ、彼は冒険者で、貴族なんだな、となんとなく思った。ゲームではほとんどえっちしてダンジョンに潜って設備を増やしての繰り返ししかなかったけれど、実際生きているとこういうシーンも見られるんだなぁ、と。
ゲームの世界に来た、という事実を俺が静かに再認識しているのをよそに、彼らは俺の知らない単語をふんだんに使って会話していた。
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