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第2話
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しおりを挟む翠玲は恋慕に溺れるような人間ではないと思っていたが、もしかすると、国のために本心を押し殺していただけなのではないか。
永宵は翠玲にとってたったひとりの番だ。まして入宮当初は朝も夕もなく龍床に侍っていたのだから、嫌でも深い繋がりができる。
情に溺れまいとしても、発情期の下邪にはなにより番が必要だ。帝君と聞いただけで肌香が濃さを増すのだから、普段どんなに取り繕っていたとしても、本心では永宵の傍にいることを望んでいたのかもしれない。
こみあげてきた言いようのない感情に、仁瑶は低く自嘲した。
(……この身が下邪であることを、こんなにも憎らしく思う日が来ようとは)
仁瑶がいくらなだめても、翠玲を根本から楽にすることは不可能である。その事実がどうしてこんなにもつらいのか、膨れあがったおのれの感情の名に今更になって気づく。
初めて会った式典の席で、仁瑶もまた翠玲に心を奪われていたのだ。
されど、翠玲は仁瑶と同し性種の持ち主であり、なにより永宵が見初めていた。
(私が天陽だったら)
もしかしたら、異母弟よりも先に翠玲に求婚することもできたかもしれない。
すぐ傍で見守り、慈しみ、その身を愛する資格を得ることができたかもしれない。
――だが、仁瑶は下邪種で、翠玲は皇帝の妃嬪なのだ。
終わりのない発情に憔悴する翠玲を抱きしめ、慰めていても、永宵のかわりにはなれない。翠玲の熱を本当の意味で鎮めてやることはできないのだ。
(莫迦だな、私は)
初めて恋慕を覚えた相手が異母弟の番だなんて、間抜けにもほどがある。
(だけど、惹かれたのがこのかたでよかったのかもしれない)
もとより誰とも婚姻するつもりのない身。やたら天陽種に恋慕すれば、子を産めないことを嘆く羽目になる。ならば結ばれることが叶わずとも、遠目からでも見守り、支えることができるほうが幸福だろう。
「……小玲」
呼吸が浅く荒くなっている翠玲を抱きすくめ、仁瑶はやさしく囁く。
永宵が来れば、もう二度とこんなふうに翠玲に触れることはできない。翠玲の熱を慰めるのは番たる永宵の役目で、仁瑶はお払い箱だ。
「小玲、大丈夫。私がついておりますからね。……ずっとあなたを守っていますから」
名残惜しい心地で、汗ばんだ額にそっとくちびるを落とす。
刹那、翠玲が大きく肩を揺らし、呼気を引き攣らせた。
「す、――ッ」
翠玲様、と呼ぼうとしたくちびるがやわらかな感触に塞がれる。動揺しているうちに両唇をこじ開けられ、火傷しそうなほど熱い舌が搦められた。
「っ、ン、ん……ッ!」
口腔を貪るようなくちづけに背筋がふるえる。仁瑶は咄嗟に翠玲を引き剝がそうとしたものの、逆に腕を捕らえられ、牀榻に押さえつけられてしまった。
身動きがとれなくなった仁瑶の裾を翠玲の手が乱していく。膝から太腿をたどられ、くすぐったいような快感に仁瑶はたまらず喉を反らした。
「は、ぁ……っんン、ッ」
無理やりくちづけから逃れたのが気に喰わなかったのだろう。息をしようとしたくちびるはすぐにまた塞がれ、身をよじれば咎めるように襟もとに指がかかる。衣擦れの音とともに首につけていた皮革を外され、仁瑶は困惑した。
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