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第4話
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しおりを挟む琅寧でも元宵節の祭りは行われていたものの、蘭灯ではなく松明を使う。広場を囲むように松明を掲げ、夜が明けるまで酒や料理を楽しみ、音楽を奏でて踊ったりする。王族も民も関係なく、時には一夜の契りを結ぶことさえあった。
琅寧とはまったく異なる雰囲気に、翠玲は一歩進むたびに目移りしてしまった。
よろけそうになったところを支えられ、隣を歩く仁瑶が可笑しそうに笑みをこぼす。
「大丈夫ですか? 転んでしまわないように、私につかまっていてください」
「は、はい……っ」
翠玲は羞恥に頬を染めながら、周囲の男女がそうしているように、仁瑶の腕に縋った。
仁瑶はいつにも増してやさしく、翠玲をまるで深窓の姫君のように扱ってくれる。人混みに慣れないおのれを庇い、妙な視線を送ってくる輩を牽制してくれているのだと気づくと、面映ゆくてたまらなくなった。
けれど、秋波を送られているのは翠玲だけではない。相手が仁瑶と知ってか知らずか、すれ違うたびに女人たちが熱の籠った眼差しを向け、それから羨ましそうに翠玲を一瞥していく。
市井の民のほとんどが范君種とはいえ、微行で訪れている天陽種も多い。仁瑶が誰かを見初めてしまうかもしれないと思えば、無意識に腕につかまる指に力が籠ってしまった。
仁瑶は、それを止まってほしいという意図だと勘違いしたのだろう。歩を緩めると、甘やかすような声で問うてくる。
「なにか気になる屋台がありましたか?」
「あ、……いえ、あの」
まさか見知らぬ女人に嫉妬していたとは言えない。
狼狽えていると、仁瑶は近くにあった屋台の傍へ翠玲を連れていった。
「少しお腹が空きましたね。湯円はいかがです? 琅寧ではあまり見ない甘味でしょう」
確かに聞き馴染みがなくて、翠玲は小さく頷く。
仁瑶は控えていた紅春とともに、甘い餡の入った湯円の甜湯を燕児と華桜の分まで買ってきてくれた。
素焼きの器に可愛らしくよそってある湯円に、ふたりも物珍しそうな表情を浮かべる。
「どうぞ、食べてみてください」
促されるまま匙で掬って口に運べば、もちもちとした生地の中からとろりとした胡桃の餡があふれてきた。
目をまるくした翠玲に、仁瑶はにこやかに微笑う。
「美味しいでしょう?」
翠玲は何度も頷いた。それからふたつめを口にして、仁瑶が器を持っていないことに気づく。
こんなに美味しいものをひとりで食べるのがもったいなくて、翠玲は逡巡した後、湯円を掬った匙を仁瑶の口もとへ差し出した。
「あの、……仁瑶様も、召しあがってください」
はしたないと怒られるかもしれないと思ったけれど、仁瑶はちょっと驚いた顔をしただけで、苦笑しつつも匙を含んで食べてくれた。
断られなかったことが嬉しくて、くすぐったさがこみあげてくる。
「実は、この店の湯円がいっとう好きなんです。あなたにも気に入ってもらえてよかった」
内緒話のように囁かれ、ほんのりと笑みを交わした。
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