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第4話
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しおりを挟む湯円の他、羊肉の串焼きや、飴菓子なども一緒に食べた。船上で演じられる百戯を眺め、歌妓たちの艶やかな舞も楽しむ。
夜風は冷たかったけれど、仁瑶の傍にいれば寒さなど気にならなかった。
食べ物の他にも、子供用のおもちゃや布地、小間物に骨董、馬や家畜を売っている屋台もあった。大店では入り口を開けて呼び込みをしているところも多く、華やかな蘭灯の下はどこへ行っても賑やかしい。
夜も更けた頃、ふたりでひとつの天燈を買って、火を灯した。
周囲では既に多くの人々が、思い思いに天燈を空へと送っている。
「無病息災、学業成就に昇進、恋愛成就や夫婦円満、……翠玲殿は、どんな願いをしますか?」
「わたしは……」
なんと答えようか迷って、翠玲は口籠った。
(仁瑶様のお傍にずっといたいと願ったら、呆れられてしまうだろうか)
本来なら国の安寧を願うべきなのに、私慾が出てしまう。
どうしてよいかわからず面伏せていると、やわらかな笑声が耳朶をふるわす。
「口に出さなくてかまわないのですよ。願いが叶うとよいですね」
顔をあげれば、紫紺の瞳が弧を描いて翠玲を見ていた。
眼差しが絡んだだけで跳ねた鼓動が、仁瑶にも聞こえてしまわないだろうかと心配になる。
「私たちも、そろそろ飛ばしましょうか」
「……っ、はい」
促されて、仁瑶とともにそっと天燈を空に放した。淡い燈火が風に揺れながら、天へと昇っていく。
先に舞いあがっていた天燈と、後から追いかけていく天燈と。月影にいくつもいくつもやさしい輝きが加わり、夢のような光景に誰もが黙って空を見上げていた。
浮かんでいる天燈が遠ざかり、粒のようになってしまったのを見届けて、人々は帰路につく。
来た時と同様、仁瑶に手を引かれ、翠玲は夢見心地のまま歩いていた。
紅梅の匂いを纏った夜風が、裙の裾にじゃれていく。
(早く、仁瑶様に相応しい天陽種になりたい……)
今宵こそ女人の衣裳を身につけ、仁瑶に頼りきりになってしまったけれど、それでは下邪だった頃と変わらない。翠玲は仁瑶に頼ってもらえるような、仁瑶を守れるような存在になりたかった。
もう少し背が伸びて体格も天陽種らしくなって、仁瑶が自慢できるような男になれば、番にしてもらえるだろうか。うなじを咬むことを赦されて、仁瑶を愛することを赦してもらえるだろうか。
「仁瑶様、今日はありがとうございました」
王府の門が見えてきた頃、翠玲は少しだけうつむいたまま、仁瑶にだけ聞こえるように紡いだ。
「わたしはまだ未熟で、お仕えするには不充分ですけれど、仁瑶様の伴侶として相応しくあれるよう精一杯努めます。だから、……っ」
言葉の先が途切れたのは、仁瑶が不意に繋いでいた手をほどいたからだった。
困惑して顔をあげれば、どこか諦めたような色を滲ませた紫紺の瞳と目が合う。
「仁瑶様」
「よい伴侶になど、なろうとしなくていい」
発せられた声はひどく冷たかった。
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