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第6話
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しおりを挟む囲場に着いたのは丑の刻を過ぎた頃だった。
天幕では永宵が待っており、翠玲に横抱きにされた仁瑶を見て眉を跳ねあげる。
「哥哥、大丈夫?」
仁瑶は反射的に、差し伸べられた手から顔を背けた。
常ならばあり得ない異母兄の反応に驚いた永宵だったが、すぐに気遣うような眼差しを向ける。
「ごめんなさい、疲れているよね。湯を沸かしてあるから、身を清めてゆっくり休んで。翠玲は余に報告を」
「はい」
翠玲は頷くと、仁瑶を紅春に託そうとした。
触れ合っていた熱が離れていくのを感じ、仁瑶はたまらず翠玲の肩にしがみつく。
「っ……いかないでくれ」
言葉が勝手に口をついた。
押し寄せてくる情動をとめられない。
仁瑶の理性は、最早ほとんど呑み込まれていた。
今はただ一時でも翠玲と離れていたくなくて、金銀花の香りをずっと傍近くに感じていたくて、仁瑶は必死に取り縋る。
翠玲は目をまるくしたものの、すぐに嬉しそうに微笑った。
仁瑶に頬を寄せ、甘やかすような声音で尋ねてくる。
「では、わたしが仁瑶様の湯浴みのお世話をいたしましょうか。帝君、報告は紅春に任せてもよろしゅうございますね?」
「かまわないが、……おまえ、弱っている哥哥に妙な真似はするなよ」
永宵は胡乱げに翠玲を見やった。
釘を刺された翠玲は「もちろんです」と頷く。
永宵と紅春が出ていくと、翠玲は華桜たちに澡豆や布、着替えなどを用意させた。それが終わると、翠玲は落地罩の向こうへ三人を下がらせる。
気配が失せるのを待ってから、翠玲は仁瑶の衣を脱がせてくれた。
帯をほどかれ、白絹の内衣に隠れていた肌が露わになる。
颯憐に触れられた時はあんなにも厭わしかったのに、翠玲の手はやさしくて、仁瑶はもっと触れてほしいと思った。
手を引かれて湯船に身を沈めると、茉莉花と白檀の匂いが湯気とともにふんわりと香る。
灯燭が揺れ、水音が心地よく響く。
翠玲は穏やかな笑みを湛え、殊更丁寧な手つきで仁瑶の躰を洗ってくれた。
「どこかお痛みがあったりいたしませんか」
やさしく澡豆を動かしながら、翠玲が問うてくる。
仁瑶は小さく頷き、すぐ傍の琥珀瞳と視線を搦めた。
伸びてきた指先に濡れた前髪をそっとかきあげられ、肌が戦慄く。わずかに睫毛を伏せれば、手のひらが頬の輪郭をたどった。
「翠玲……」
それを誘惑というならば、仁瑶はまさしく目の前の天陽種に向けて肌香を発していた。
下腹部の疼きとともに馥郁とした香りがあふれ、どちらからとなく額を重ねる。鼻梁がこすれ、あとは引き寄せられるままにくちびるが吐息を食んだ。
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