鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第1話

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「峯珠帝君から、我が主君への親書をお持ちくださったのですよね。この場での謁見が叶わず申し訳もありませんが、主君にはわたくしが必ずやお渡ししますゆえ、どうぞご安心ください」
 だが、善徳は首を横に振った。
「沈宰輔のお心遣い、誠にありがたく存じます。ですが、陛下へ直接お渡しすることが叶わなかった場合、親書は持ち帰るよう我が君より命ぜられておりますれば」
「それは残念なこと。そういえば、江宰輔は峯珠帝君から太上皇様へ宛てた親書もお持ちくださったとか」
 嫣寧が言葉を返すよりも早く、姚丞相が口をひらく。
 善徳は恭しく首肯した。
「然様にございます。我が君と太上皇様は、幼い頃からのご関係。太上皇様が玉座におつきになられたゆえにおふたりのご成婚は実現しませんでしたが、我が君は今もなお太上皇様の御身を案じております。此度は太上皇様のために、我が国随一の医師を連れてまいりました。どうか、診察をお赦しくださり、太上皇様のご健康を取り戻すお手伝いをさせていただきたく」
「っ――そんなことが赦されるはずがなかろう!」
 善徳の言葉を遮り、永璉が叫ぶ。
「しゃ、っ紗琰の治療にはホウ太医があたっているのだ。我が国の太医が治せぬのだから、紗琰の病は手の施しようがないほど悪化しているに決まっている! それを、まさか峯珠の太医ごときが治せるとでも⁉」
 その慌てぶりはひどく異様だった。
 姚丞相が首をかしげる。
「我が国の太医が太上皇様を治せぬゆえ、峯珠帝君が御自ら選び抜かれた医師を派遣してくださったのではありませぬか。孝賢王殿下は、せっかくの峯珠帝君のお心遣いを無にするとでも仰るのですか?」
「そのとおりです。孝賢王殿下の物言いは、まるで太上皇様が病でお亡くなりになってしまったほうがよいかのよう」
「それに、いくら宗室の長とはいえ太上皇様の御名を呼び捨てになさるとは。不敬にもほどがあるのではございませんか?」
 紗琰の異母兄二人も続き、他の官吏たちも口々に永璉を批難しはじめた。
 正庁に響くざわめきが大きくなり、永璉が頭を振って「黙れ!」とわめく。
 善徳が可笑しそうに笑った。
「この件は太上皇様の御身にかかわることですから、お決めになるのは太上皇様ご本人でしょう。太上皇様がいらぬと仰るのであれば、我が君も従う他ございません」
「ですが、江宰輔。太上皇様には、帝君と主治医しかお会いすることを赦されていないのです。包太医を呼びにいくか、帝君へお伺いをたてなければ、太上皇様のお住まいへ立ち入ることもできませぬ」
 姚丞相が眉根を寄せる。
 傍にいた大司馬が、すぐさま「誰か!」と声をあげた。
「ただちに包太医を呼んでまいれ!」
「待、っ――!」
 永璉が制止しようとしたものの、大司馬の命を受けた太監は聞く耳も持たず足早に出ていってしまう。
 姚丞相が嫣寧へ視線を向けた。
「右丞相は、帝君のところへ報告に行ってくださいますか」
「わ、わたくしは……」
「太上皇様のためゆえ、峯珠帝君の計らいに帝君もきっとお喜びになるでしょう。まさか、孝賢王殿下と同じように断ろうとするはずがありません」
 迷ってたたらを踏んでいると、早く行け、と目顔で諭される。
 嫣寧は逆らうこともできず、促されるままその場から駆け出した。
「姚泰晟! 貴様、っ貴様こそ不敬がすぎるぞ! こんなことでいちいち帝君の手を煩わせるな! 太上皇は誰にも会えぬほど容態が悪いのだから、峯珠の太医に診察などさせるわけが――!」
 背後では、怒気をにじませた永璉が姚丞相を罵る声が響いている。
 居並ぶ無数の官吏たちの目から逃れるように龍安殿を出て、嫣寧は後宮へ向かった。
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