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第4話
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そんな表情の変化を好もしく感じつつ、紗琰は笑み含む。身につけていた芙蓉石の戒指を抜いて手渡すと、雨嫻は戸惑ったふうに蛾眉を下げた。
「帝君、これは」
「約束の証に差しあげます。持っていてください」
なにか言いたげな雨嫻を目顔で制し、その場から立ち去る。
薄紅の花朶を眺めながら園林の外へ向かう間、紗琰は甘苦い心地で溜息を漏らした。
眼裏には、先程の雨嫻の姿が残っている。前世で寵愛していた時でさえ、あんなふうに花容が染まることはなかった。玉佩の持ち主として寵遇していたとはいえ、紗琰のほうから積極的に愛したことがなかったせいだと、今ならばわかる。
うなじを咬ませて肌を重ねても、今の嫣寧に対する思慕ほどのものを、前世の雨嫻には抱いていなかったのだ。雨嫻もそれを感じ取っていたから、紗琰への憎しみを募らせていったのだろう。
償いになるかどうかわからないが、過去のおのれが傷つけてしまった分、今度こそ雨嫻を慈しんでやりたかった。
逡巡しながら園林の門を出る。
甘やかな桜花の匂いが薄れ、そそいでいた陽光がふと雲に遮られた。
門前で待機していた輿に乗ろうとした紗琰は、駆け寄ってきた影に気づいて顔をあげる。
「哥哥」
花香よりももっと甘やかな声音で紗琰を呼んだのは、玉容をほころばせた瓊祥だった。
紗琰は輿に乗るのをやめ、瓊祥を傍へ招き寄せる。薔薇色の双眸を嬉しそうに細める姿は頑是なく、前世でおのれを組み敷き、散々凌辱した者と同一人物とは思えない。
「最近顔を見ていなかったが、息災か? 先日は皇后のところへ来てくれたそうだな」
尋ねれば、瓊祥は寸の間目をまるくして、そっとはにかんだ。
「発情期のせいで、なかなか外へ出られなかったのです。この間やっと落ち着いたゆえ、ちょうど皇后様からお茶のご招待をいただいたのでご挨拶に。今日は哥哥に会いたくて、探しにきてしまいました。ご一緒に桜を見てもよいでしょうか?」
紗琰よりも少しだけ背の低い瓊祥が、甘えるように腰に縋ってくる。身を寄せられるとふんわりと甘い香りが漂って、瓊祥の好む薔薇の花露の匂いが鼻先をかすめた。
「かまわぬが、春鶯園にはまだ諸家の令息たちがいる。発情期明けとはいえ、そなたが行ったらあてられてしまうだろう」
「でも、……哥哥はこのあとまた政務へお戻りになってしまうのでしょう? せっかくお会いできたのに、少しの間もお喋りできないのは寂しいです」
蛾眉を下げて上目遣いに見あげられると、瓊祥の艶容に思わず目を奪われてしまう。
齢十八にしては華奢な躰を、紗琰はそっと抱き寄せた。
「春鶯園ではなくて、龍宮殿の桜ではだめか? 私の休憩につき合ってくれると嬉しいのだが」
「本当ですか? 哥哥と一緒にいられるのなら、瓊祥はどこでもかまいません」
「では、龍宮殿まで散歩しながら行こうか」
身を寄せたまま言えば、瓊祥は嬉しそうに頷く。
前世での死は他ならぬ瓊祥から与えられたというのに、こうして目の前にしても、紗琰はどうしても彼を恨むことができなかった。
「帝君、これは」
「約束の証に差しあげます。持っていてください」
なにか言いたげな雨嫻を目顔で制し、その場から立ち去る。
薄紅の花朶を眺めながら園林の外へ向かう間、紗琰は甘苦い心地で溜息を漏らした。
眼裏には、先程の雨嫻の姿が残っている。前世で寵愛していた時でさえ、あんなふうに花容が染まることはなかった。玉佩の持ち主として寵遇していたとはいえ、紗琰のほうから積極的に愛したことがなかったせいだと、今ならばわかる。
うなじを咬ませて肌を重ねても、今の嫣寧に対する思慕ほどのものを、前世の雨嫻には抱いていなかったのだ。雨嫻もそれを感じ取っていたから、紗琰への憎しみを募らせていったのだろう。
償いになるかどうかわからないが、過去のおのれが傷つけてしまった分、今度こそ雨嫻を慈しんでやりたかった。
逡巡しながら園林の門を出る。
甘やかな桜花の匂いが薄れ、そそいでいた陽光がふと雲に遮られた。
門前で待機していた輿に乗ろうとした紗琰は、駆け寄ってきた影に気づいて顔をあげる。
「哥哥」
花香よりももっと甘やかな声音で紗琰を呼んだのは、玉容をほころばせた瓊祥だった。
紗琰は輿に乗るのをやめ、瓊祥を傍へ招き寄せる。薔薇色の双眸を嬉しそうに細める姿は頑是なく、前世でおのれを組み敷き、散々凌辱した者と同一人物とは思えない。
「最近顔を見ていなかったが、息災か? 先日は皇后のところへ来てくれたそうだな」
尋ねれば、瓊祥は寸の間目をまるくして、そっとはにかんだ。
「発情期のせいで、なかなか外へ出られなかったのです。この間やっと落ち着いたゆえ、ちょうど皇后様からお茶のご招待をいただいたのでご挨拶に。今日は哥哥に会いたくて、探しにきてしまいました。ご一緒に桜を見てもよいでしょうか?」
紗琰よりも少しだけ背の低い瓊祥が、甘えるように腰に縋ってくる。身を寄せられるとふんわりと甘い香りが漂って、瓊祥の好む薔薇の花露の匂いが鼻先をかすめた。
「かまわぬが、春鶯園にはまだ諸家の令息たちがいる。発情期明けとはいえ、そなたが行ったらあてられてしまうだろう」
「でも、……哥哥はこのあとまた政務へお戻りになってしまうのでしょう? せっかくお会いできたのに、少しの間もお喋りできないのは寂しいです」
蛾眉を下げて上目遣いに見あげられると、瓊祥の艶容に思わず目を奪われてしまう。
齢十八にしては華奢な躰を、紗琰はそっと抱き寄せた。
「春鶯園ではなくて、龍宮殿の桜ではだめか? 私の休憩につき合ってくれると嬉しいのだが」
「本当ですか? 哥哥と一緒にいられるのなら、瓊祥はどこでもかまいません」
「では、龍宮殿まで散歩しながら行こうか」
身を寄せたまま言えば、瓊祥は嬉しそうに頷く。
前世での死は他ならぬ瓊祥から与えられたというのに、こうして目の前にしても、紗琰はどうしても彼を恨むことができなかった。
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