鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第4話

4-11

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 初夏の訪れに先駆けて催された選秀花の結果は、彩爛さいらんの民を驚愕させるものとなった。
 皇太后から下賜された芍薬を身につけ、参内したのは名門名家の令息たち五十余名。誰も彼もが評判の美男であり、鳳花の妻となるべく教育を施された者たちである。
 巷ではどこの家門の誰が入宮にゅうきゅうの栄誉を賜るか賭けが行われ、ちょっとした祭りのような雰囲気が漂っていた。
 鳳花の御代の選秀花には、通常行われる審査――声や礼儀作法、所作などを見極める品位礼節ひんいれいせつ、裁縫や刺繍の腕を確認する絲針裁縫ししんさいほう、琴棋書画や香などのたしなみを披露する諸芸婦徳しょげいふとく――に加え騎馬、弓術、剣術の腕も試される。不測の事態には鳳花を守ることができるよう、妃としての素養の他に高位武官に準ずる程度の実力が求められるのだ。
 かるがゆえに、庶民たちの間で有力候補として予想されていたのは、大司馬だいしばホワ氏の子息など武人の家門だった。
 唯一、文人の家門でありながら上位に推されていたのが琳氏で、茶宴の際にひとりだけ帝君からお声がけがあったという噂が広まったせいだった。すでに帝君に見初められているのなら、選秀花の成績がどうであろうと関係ない、というのが賭けた者たちの理屈だ。
 太上皇陛下の後宮には百名ほどの妃嬪妾妃が集められていたことを理由に、今回の選秀花でも少なくとも三十余名は合格するだろうという見方をしていた者も多い。
 賭けに参加する者もしない者も、誰もが予想を口にして盛りあがっていた。
 鳳花帝君がいくつの家門から妃を娶るのか、どんな令息を見初めるのかと浮足立っていた市中は、選秀花の終了と同時に合格者なしの触書ふれがきが出た途端、それまでの喧騒が噓のように静まり返った。まさかと目をまるくして気絶した者も続出し、引っ張りだこになった医者だけが嬉しい悲鳴をあげていたとかいないとか。
 雨嫻の父も、おのれの息子が帝君の目に留まったという噂を耳にし、入宮は確実だと思い込んでいたせいだろう。不合格の知らせを持って帰ってきた途端、その場で倒れた。
 雨嫻自身、選ばれなかった落胆は大きかった。
 春鶯園では並み居る権門勢家を差し置いて、おのれだけが帝君からじかに話しかけられた。下級貴族の出であることを卑下する必要はないと言われ、権門勢家の令息よりも雨嫻のほうが好ましいと褒めてもらえたのだ。ずっと恋うていた帝君からそんなふうに言葉をかけられて、期待しないはずがない。
 下賜された芙蓉石の戒指を握りしめ、そっとうつむく。
 選秀花から帰って以降、雨嫻は自室に閉じこもっていた。そうして何日かは朝から晩まで泣き濡れていたのだけれど、紗琰の言葉を反芻するうちに思い至ったことがある。
(帝君は、わたしを娶ると仰ったけれど、……選秀花で選ぶとは言わなかった)
 不合格となったことは悲しかったけれど、紗琰に嘘をつかれたとも思えなかった。
 第一、雨嫻を揶揄うだけなら、戒指まで下賜する必要はない。
(……たぶん、選秀花で合格させるという意味ではなかったのだろう。だけど、帝君は必ず娶るとお約束くださった。なにがあっても信じていてほしいと仰っていたのだもの)
 ならば、雨嫻は紗琰の言葉に従うだけだ。
 涙を拭い、博古架かざりだな小盒こばこに戒指をしまっていると、房室へやの外から声がかかった。
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