俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

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7話 俺と私のオトモダチってナンデスカ③

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 あー…これ…ヤバイやつじゃね?…

「…お嬢さんに手荒な事は…」
「うるせぇババア!俺達に指図すんじゃねぇ!」

 不安そうな顔で婆ちゃんが懇願するようにマッチョ男に言うと、その後に出てきたハゲた男が婆ちゃんに怒鳴った。
 恐縮してそれ以上言葉が発せなくなったらしい婆ちゃんは、小さく息を吐いて俺に申し訳なさそうな顔をした。
 あれ?…今気付いたけどこの婆ちゃん、足がロッキングチェアと鎖で繋がれてる?…

 ふむ。安易に考えるなら婆ちゃんは仲間じゃないっぽい。
 これ、俺が逃げたら婆ちゃんが何かされるやつか…

「私をどうしたいのです?…私を誰か判っているのですか?」

 涙目でわざと少し震えた声を出して、『私強がってます!』感をアピールすると、男達はニヤリと笑った。

 男達は見える所に3人、多分奥に見張りとして数人いるだろう。
 とりあえず、現状把握をしなくてはいけない。

 まず1人目の男、マッチョ男は明らかに他の二人と風格が違う。
 身長もそれなりにあり、身体つきは見ての通り『マッチョ』だ。
 筋肉がかなり付いているのが服の上からでも見てわかる『使える筋肉』
 そしてなんか…熊っぽい。
 黒い髪はボサボサしてて、腰に付けている不思議なボアボアした布?が、熊っぽく見せている要因だと思う。
 話し方が抑揚がないのを見ると、結構頭が切れるタイプだろうと推測できる。

 そして2人目は婆ちゃんを怒鳴ったハゲ。
 ガリガリの身体は、腕とか骨の形がわかるくらいに細く、皮と骨だけにしか見えない。
 そして目がギョロっとしていて、背中がやばいくらい猫背だ。
 シャツから背中の骨が浮き上がっているのも見えて、ちょっと気持ち悪い。
 そして短気っぽい。
 ちょっとした事で婆ちゃんに怒鳴ったのもそのせいだろう。とりあえずコイツはカルシウムとか栄養取ったほうがいい。絶対。

 一番後ろから来た3人目は見た目はイケメンだ。
 但し、揉み上げから鼻と、顎にかけての青々とした青髭がその美貌を一気にダメなモノにしている。
 色白だから余計に青々としたそれは、まるでコントのようで…
 しかも、左頬のほくろから一本出ている長い毛が余計にダメなモノになっている。
 服に気を配っているようで、他の二人と違って街中にいたら人攫いや盗賊のようには見えない。

 さて。こいつらの分析は終了。
 あとはこいつらの目的だ。

 それには、俺の身分を知っているかによって男達の行動がわかる。
 金持ちなら誘拐して身代金を要求した方が良いし、身代金より奴隷として売る方が高くなるなら、誘拐より身バレの少ない奴隷として売る方を選ぶだろう。

 そして俺が『アンリエッタ・グレイス』と判っているならまた話が変わってくる。

 一つ目は『グレイス公爵家』への恨みがある場合。
 二つ目は『アンリエッタ・グレイス』が一番第一王子の第一夫人になる可能性が高い為、それを阻止したい…アンリエッタが邪魔な貴族。
 三つ目は兄『アラン・グレイス』への恨みがある場合。
 さて、どれかな…
 一番良いのは、公爵令嬢と知らず誘拐してからの身代金の流れが良いんだけど…安全だし、アンリの身体に傷も付かないだろうし。
 最悪なのは、アンリエッタと知っていての誘拐の場合…
 …場合によっては命が危ない…

「『私を誰か判っているのですか?』か…ってことは、イイトコのお嬢ちゃんのようですね…こりゃ、良い拾い物でしたね。お頭」

 ふむ。と俺の言葉に頷きながらヒゲ男がマッチョ男にニヤリと笑いかけた。

「だな。イイトコのお嬢ちゃんなら、たんまりと取れそうだ」

 よっしゃ!最悪な選択肢が消された!
 イイトコのお嬢ちゃんって言うって事は、アンリエッタと知らずにってことだし、今の話し振りからして身代金だけで助かるかも!!
 よし。大人しく捕まっておこう!

「でも中々本命には当たりませんねー」

 …本命?…誰か狙ってるのかコイツラ?
 ナイフに怯えて大人しい内にとばかりに、話しながらもサクサクと俺の手を後ろ手で縛り上げてるヒゲ男が大きな溜息を吐き出した。
 うう…腕にヒゲ男の息が当たって気持ち悪ぃ…つか、そこで話すんじゃねぇ…

「まぁな。まず、依頼の女がこの店に来るって確証もねぇしな。一応街の方は街の方で見張らせてはいるが…オイ。そいつは良い金ヅルだからな、強く縛って傷付けんじゃねぇぞ」
「まずこうしゃくけの令嬢とか、家から出ないんじゃないですかね。あ。じゃあちょっと緩めにしときますか?」
「ここまで怯えてたら逃げねぇだろうし、イイトコのお嬢ちゃんが走るとかできねぇだろうから縄は緩くしてやれ」

 …こうしゃく…け…?…
 …いやまて、きっとあれだ。公爵家じゃなく侯爵家だ。
 それに、公爵家だって、この国には四家あるから、グレイス家とは限ら…

「はぁい。まぁ、まずいたらすぐ判りますしね。
 青銀髪の縦ロールとか、そんなやつを見落とすわけがないですし」

 俺だあああああああああああ!!!!
 公爵家にも侯爵家にも青銀髪は何人かいるけど、縦ロールはこの国の貴族の中で俺しかいねぇえええええ!!!

「さて、お嬢ちゃん、オマエの家はどこだ?」

 言える訳がねぇえええ!!!
 言ったらデッドオアアライブとかマジで嫌だわ!!
 昨日前世の死を見て、今日今世の死を見るとかマジないわ!!!

 青褪めてブルブル震える俺の顔をマッチョ男が覗き込む。

「ふん。完全に怯えきって声も出ねぇか。とりあえず、アジトにでも連れてくかー」
「そうですね」
「おいババァ!今日の分の飯だ!もし兵士のやつらが来て俺らの事をチクりでもしてみろ!オマエの孫の命は無ぇからな!飯はちゃんと食えよ!いいな!!」

 疲れたとばかりにマッチョ男が言うと、ヒゲ男が頷き、ハゲ男が腰につけていた袋…多分食料入りを婆ちゃんに渡していた。
 孫を盾にしているくせに心配しているかのようにちゃんと食えとか…ツンデレかこいつ。
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