俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

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19話 俺と私のおしのび大作戦②

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 日も大分傾いて、残ったケーキを箱に詰めて持ち帰るサラを見送った後、お茶会の片付けの為にユーリンと他のメイド達に部屋から追い出された俺は庭の片隅にある東屋で赤から段々と青に染まっていく空を見上げた。
 俺の斜め後ろにはロイが後ろで手を組んで立っている。

 ロイの服を借りる話をするには最適の状況だ。
さて。どう切り出すか。
 急に「服を貸せ」じゃおかしい話だし、普通は拒否されるだろう。
 だからと言って「男の服を着てみたいの」は令嬢としてあるまじき行為だし。
 結婚前…結婚後もだけど、淑女が異性の服を着るなんてありえない。
 じゃあ何て言えばいい?

 サラから良い助言は貰ったものの、それを実行に移す事が一番の難題だ。

「お嬢様、何かあったんですか?」

 いつの間にか前に回って来ていたロイが不思議そうな顔で俺を見下ろしている。

「ちょっと考え事をしていたのよ」

 まさか考え事が「お前の服の事だ」とも言えずぼかして言うと、きょとんとしたそばかすだらけの顔を小さく右に傾げた。

「考え事…ですか?」
「そう。男の方の服って、動きやすそうだと思って」

 これなら違和感ないかな?と思いながら服の話をもっていく。
 わざと大げさにロイを上から下まで視線を這わすとロイはそのそばかすの頬を若干赤く染めた。

「ジロジロ見ないで下さい。確かに動きやすいですよ。女性の服よりは」

 ん?
 何か今引っかかったぞ?…

「『女性の服よりは』…?女性の服を着たことがあるの?」

 思わず引っかかった所を問いただしてみると、ロイは若干赤かった顔を一気に真っ赤に染め上げた。

「きっ着るわけないじゃないですかっ!!俺は男ですよ!!」

 あぁ。着た事があるんだな、と、鈍い俺でもわかるくらいの棒読みに動揺っぷりに同じ男として哀れみの視線を投げる。

「なっなんですかその目は!着てないですよ!?」

 哀れみの視線のつもりだったけど疑惑の視線だと思われたらしい。
 余計に狼狽しはじめたロイは両手をぶんぶんと胸の前で横に振り『着てない!』と否定しているけど…バレバレすぎだろ。
 でもこれは良い機会じゃないか?

「そう。着ていないのね。
 ねぇロイ?私、男の方の服に興味がありますの」

 俺の言葉に『着ていない』という嘘を信じて貰えたと思ったらしいロイは安堵の息を吐き出しながら「興味?」と聞き返してきた。

「ズボンというものをはいてみたいの。ロイの服を私に貸しなさい」

 立ち上がって左手を腰に当てて右手の人差し指でビシッとロイを指差し、お嬢様らしく強めの命令口調で言うも「ダメです」と即答された。

「あら、何故?」
「お嬢様は女性です。女性が足の形を露にするような服なんて着てはいけません。
 あと人を指差してはいけません」

 まるでユーリンやセイラが言うような理由を並べるロイ。
 まだこの邸に来て数日なのに、すでにグレイス公爵家の使用人心得的な物を習ったようだ。いらん知恵つけやがって。

「あら。じゃあ男性は女性の服を「着ていません」

 最後まで言う前に遮られた。
 何故うちの使用人達は最後まで主人の言葉を言わせないのか。ちょっと問題提起してもいいんじゃないかな。

 結局その後ユーリンが呼びに来るまでロイと「着たい」「ダメです」の言い合いを繰り返して終了してしまいロイから服は借りれなかった。

 まぁ仕方ないか…


 …なんてすぐ諦める俺じゃない。
 二日後の午前中は礼儀作法の家庭教師が来る日。
 礼儀作法の授業は午前中の全部を使う為にいつもならロイは王宮にある騎士団で訓練をしている。そしてその間はユーリンも掃除やら洗濯やらで側にいる事はない。

◆◆◆◆◆

 まぁ勝手に借りるしかないですよねー。
 ってことで二日後の今日、礼儀作法の授業中に先生に「ちょっとお手洗いに」と伝えて部屋を抜け出した。
 目指すはロイの部屋!

 ロイ達男の使用人の部屋は邸を出て裏に建っている離れにある。
 今日は予定通りロイは騎士団へ行ったし、他の使用人達も仕事中で使用人用の離れには誰もいないはずだ。
 あとは誰にも不信がられずにできるだけ誰にも見られずに離れに行く事だけが問題か…
 誰かに見られでもしたら「授業中でしょう」と叱られて部屋に戻されてしまう。

 できるだけ自然に見えるようにトイレに向う。
 トイレの横の通路を進むと使用人用の階段があり、その階段を使うと裏口に出る扉のすぐ側に降りれる。
 もちろん使用人用だから使用人に会う事はあるけど、今の時間は邸の掃除中のはずだからそこを通る使用人達は少ないはず。


 そして無事誰にも会わずに裏まで来れたけど…

 一応使用人部屋とはいえ、そりゃ鍵掛かってますよねー…

 ロイの部屋でドアノブを回してみるが開かず、はははと乾いた笑いを漏らしてしまった。
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