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狼退治
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「狼退治ぃ?」
帰ってきたパーラと夕食を囲みながら今日あったことを話していると、アルメラ村でパーラが村長から受けた相談の内容を聞いた俺の反応が、先の言葉となる。
「うん。タミン村ってところで狼が出たらしいんだけど、それの退治に人を出してくれってアルメラ村に使者が来てね。で、ちょうど居合わせたってことで、美しい魔術師の私にも力を貸して欲しいってわけなんだよ」
パーラと村長の商談中にやって来た人間がそのタミン村の人間で、自分達の村の近くに狼が出たということでアルメラ村に助力を求めて来たとのこと。
…今の会話に美しいは必要だったか?
「ちょっと待てよ。狼ぐらいで魔術師の助けがいるのか?そのタミン村ってのがどんなとこか知らないが、猟師ぐらいはいるだろ。もしかして、群れがかなりでかいとか?」
別に狼を侮るわけではなく、この世界では魔物や大型の動物が脅威としては上と見られ、狼も一般人にとっては脅威ではあるが、冒険者や傭兵、猟師なんかであればそう怖い存在ではない。
もっとも、狼の怖いところは群れることにあるため、数によっては話が変わってくるが。
「そのあたりは私も聞いてみたよ。そしたら、猟師はいるし、群れでもない一匹狼が相手だって言われた」
「意味が分からん。だったらなおさら魔術師の手なんていらんだろ」
「それがさ、その狼ってのが兎に角大きいみたいでさ」
「大きいってどんぐらい」
「いや私もあり得ないって思うんだけど、その人が言うには、なんかちょっとした家より大きいらしいよ」
デカい。
どの家を基準にしているかはともかく、庶民の暮らす平均的な家屋よりもとなれば、体高は恐らく4メートルは超えてくる。
この世界の狼のほとんどは地球のものよりもいくらかサイズは大きいが、それでも馬を超えることは滅多にない。
しかし件の狼が4メートル超えの大物となると、普通の個体ではないだろう。
魔物に変異した狼というのも考えられる。
「そんなにデカいとなれば、もう騎士団とかの出動案件なんじゃねーの?」
「私もそう思ったんだけど、あの辺りに出張って来てくれる騎士団は今、ほとんどがマルスベーラに呼ばれててそんな人手はないって言われたらしいよ」
「マルスベーラに?なんで?」
この辺りを治める領主辺りにそういう命令が出たのだろうが、わざわざ地方にいる騎士まで集める理由とは一体なんだと言うのか。
もしや、なにかとんでもないことがペルケティアの主都で起きているとか?
「いやそれアンディのせいだからね。なんか司教の屋敷に天罰が下されたとかで、主都の方は混乱してるらしいよ」
あぁ、なるほど、それか。
心当たりはある。
今主都の方では、サニエリが神の怒りを買って天から雷が降ってきたという噂が市井で囁かれている。
国としては根も葉もない噂だと鎮めたいだろうが、一度人の口から吐かれた不安はそう簡単に消えることはなく、この機に乗じた不穏な動きなどを警戒して治安維持を手厚くしたいと考えたのだろう。
まぁその噂は俺が流したから、パーラの言うことはある意味正しい。
そもそも、サニエリへの意趣返しとして神の怒り云々を密かに主都で広めてみたのだが、屋敷へ落ちた雷は早朝にもかかわらずそれなりの人間が目撃していたようで、想像よりもずっと早く噂が成長してしまったのには俺自身驚いている。
「治安維持を目当てに地方の戦力を主都に集めたせいで、今回のタミン村に割く戦力がないわけか。まぁ領都にはいくらか残ってるかもしれんが、それは防衛用だから動かせんわな」
「そういうことだろうね」
かなり迂遠にではあるが、俺にも責任がないわけじゃないと思えてしまうのは、もう既に俺の手を離れた企みのせいで一つの村が困っているのを知ってしまったせいか。
この状況がペルケティア国内の各地方で同様に起きているとしたら、困っている村は他にもありそうだが。
「しかしそういうことなら、他の冒険者や傭兵とかにも依頼を出した方がいいんじゃないか?」
「あぁ、だめだめ。それも聞いたんだけど、タミン村ってあんまりお金がないらしくてさ、依頼は出したけど黄級以上の冒険者とかは受けてくれないだろうって。あと、領主が騎士団を首都に送るのに腕利きの冒険者なんかも雇って連れていっちゃったんだって」
狼のデカさから脅威度を考えると黄級以上が望ましいが、そのランクの冒険者を満足させられる金を用意できない上に、そもそも依頼を受ける冒険者の数が減っているのが問題なのだろう。
恐らく、マルスベーラまでの長い道のりを考えて、その間の斥候や護衛などに冒険者や傭兵を雇ったか。
騎士団の長距離の移動には、安全のために外部の人間を使うのはよくあると聞く。
しかし、こうして依頼が滞るほどに雇うのはやりすぎだな。
どうして匙加減というものを考えられなかったのか。
「なるほどな。だからアルメラ村を頼ったってか。冒険者は足りないが、なるべく急いで狼を片付けたいから」
「だと思う。とりあえずアンディに相談してからってことで、返事は保留にして貰ってるけど、どうする?断る?あんま乗り気じゃないでしょ」
流石、ここまでの会話で俺のテンションを読んでいたか。
「まぁ、正直言うとそうだ。よっぽど報酬がそそるもんでもない限り、今一乗り気には、な」
狼を脅威に感じているのは何となく理解したが、危険な存在だと薄々感じているのを退治するとなれば、生半可な報酬では働きたくない。
俺達にとって狼は単体だとさほど脅威ではないが、それも小屋サイズともなれば話は違う。
以前、俺達はチャスリウスでノルドオオカミと戦っているが、狼としては比較的大型の個体というだけでとんでもなくやり辛かったのだ。
それよりさらに大きいのを相手するとなれば、手に余ると言うのを恥じる気にもならない。
逆にパーラは乗り気だが、この辺は恐らく、畑仕事を抱えている俺と違い、最近は派手に体を動かす機会がほとんどないから、ここらで狼の討伐で暴れたいとでも考えているのかもしれない。
「そっかぁ。まぁ報酬はタミン村特産の野菜の種でって話は着けてたけど、乗り気じゃないなら仕方ないね」
「事情が変わった。受けよう」
報酬に金ではなく、今作っている畑に植える種、しかも特産品のというのは実に魅力的だ。
これをチョイスしたのはタミン村の人間ではないだろう。
まず間違いなく、パーラが俺を動かすのに十分なものとして向こうから引き出したと推測する。
現に今、パーラはしてやったりという笑みを浮かべているのだ。
「流石アンディ。そう言ってくれると思っていたよ」
妙にねっとりとした声で語りかけてくるパーラからは、企みが成功したことに愉悦を覚えているのが十分に伝わってくる。
「へっ、よく言う。俺が断らないようにと思って、種を報酬にさせたんだろう」
「さあ、どうかな。確かにそういう話もしたけど、最終的に決めたのは向こうだからね」
素知らぬ顔で音のならない口笛を吹く仕草には少しイラリとするが、まさか俺がこんな風に踊らされるとは、パーラも成長したものだ。
「それで、狼退治を引き受けるとして、俺はどうすればいいんだ?そのタミン村にいけばいいのか?」
「ううん、まずはアルメラ村に行って村長さんに引き受けるって話をしないとね。タミン村からの使者の人も、今日は村長さんとこに滞在するって話だし、何より私達が協力するならアルメラ村から人をやる必要が無いってのを伝えないといけないし」
元々タミン村が助けを求めたのはアルメラ村なので、俺達が後は引き受けるというのはアルメラ村に伝えないと色々と行き違いが出てしまう。
それに使者がまだアルメラ村にいるなら、俺達の飛空艇で拾ってタミン村に一緒に戻るってのが一番効率がいい。
「魔術師が二人行くってのは、タミン村の人にはいい知らせになるんだろうな」
「そりゃあそうでしょ。他の村に助けを求めたのだって、やむを得ないって感じなんだから。私らみたいな凄腕の魔術師が力を貸すなんて、望外も望外でしょ」
「自分で凄腕って言うのな。まぁ否定はしないが」
タミン村にしてみたら、剣を借りようとしてミサイルを与えられたという感じなのではなかろうか。
扱いきれるかはともかく、強力な力が手に入ったことをとりあえず喜んではくれるだろう。
翌日、俺とパーラは飛空艇を飛ばし、アルメラ村へとやってきた。
突然やって来た空飛ぶ巨体に見とれ、農作業中の多くの手を止めさせてしまったのは正直すまないと思っている。
村長宅の上空で飛空艇を止め、噴射装置で降りた俺とパーラはまず村長に話を通す。
俺もパーラもアルメラ村へは噴射装置を使って来たことしか無かったため、飛空艇でやってきたのにはかなり驚かれたが、しょっちゅうパーラが空を飛んでいるところを見て耐性が出来ていたのか、すぐに平静を取り戻していた。
近くに住むことを決めた時、一応ご近所に当たるし挨拶をと来て以来になるが、向こうはちゃんと俺を覚えていたようだ。
とはいっても、俺もペルケティアでは脛に傷がないこともないと自覚しているため、変装をしているので、向こうは本当の顔は知らない程度の間柄だ。
今の俺は鼻から額までが古い火傷痕のように皮膚の色が変わった特殊メイクを施しており、見間違えようのない特徴があると自負している。
名前と性別が一致していても、顔に分かりやすい火傷痕があるというだけで、人は別人だと思うものなので、サニエリやグロウズが俺を探してるとして、同一人物だとバレる可能性を出来る限り抑えられているはずだ。
村長一家と軽く挨拶をして、タミン村から来たという人との顔合わせをお願いすると、二人の男性が紹介された。
どちらも顔に刻まれた皺からそこそこ歳がいっているようで、老人と言っていい。
この二人が使者に選ばれたのは、その年齢からだと推測する。
今は畑仕事が本格的に動いている時期で、労働力たる若手を外へ出すよりも、力仕事には向かない老人達を送り出した方がいいと考えたのだろう。
それに、これは邪推かもしれないが、道中に盗賊や魔物に襲われてもいいような人選というのも…。
俺達が助力することを伝えると、訝しく思われたが、魔術師という肩書で納得させた。
早速二人を飛空艇に乗せ、俺達は一路タミン村へと向かうことになった。
その際、アルメラ村からも何人か若いのを応援に寄こそうと村長は言ってくれたが、それは丁重に断っておいた。
正直、まともな戦闘訓練を積んでいない素人が数人いたところで邪魔にしかならない。
俺とパーラがいれば大抵の魔物は相手できるが、威力の高い魔術を使うと素人を巻き込む恐れもある為、なるべく少数精鋭が望ましい。
残念ながらアルメラ村の人間には精鋭と呼べる人材は見当たらないため、同行させないのは妥当な判断だろう。
タミン村とアルメラ村は目と鼻の先というほどではないが、この世界基準では徒歩で四日ほどと近い方だ。
老人の足ならもう少しかかるが、飛空艇ならすぐだ。
昼前にはタミン村へと到着した飛空艇は、農作業中の人達が見上げる視線の中を飛び、指示された場所へ着陸した。
そこは刈り取った麦を乾燥させるための干し場で、もう暫くすれば木が組まれて大量の麦穂が吊られる光景も見られることだろう。
今はまだ空き地に過ぎないため、飛空艇を降ろすのに丁度いいそうだ。
飛空艇を降りると、飛空艇が珍しいのか村の人間が遠巻きに見守っている。
その中を一緒に来た二人に先導されて歩き、ひとまずタミン村の村長の家へ向かうこととなった。
道すがら、タミン村のことも話してもらった。
これは飛空艇の中でも聞こうと思っていたが、初めての空の旅に興奮していたので、後回しにしていたものを今しているわけだ。
タミン村は人口は100人を少し超える程度の大きさで、農業が主要な産業だが、アルメラ村のような大規模な穀倉地帯というわけではなく、他の多くの農村とさほど変わらない生産量しかないらしい。
むしろ、近場の森から採取される薬草類が名産と言ってもいいそうで、特に腰痛と肩こりに効くと有名なのだとか。
その薬草を採取するために森へ分け入った人間が、例の狼と遭遇したことによってこうして俺達がやってきたというわけだ。
ただ、こうして村を歩いていても、別段狼被害に怯えているという風でもなく、さっきも空から見た時は普通に村の外に広がる畑で作業している人の姿も多く見られた。
あくまでもアルメラ村で少し聞いただけだったが、どうも狼に怯えて過ごしているというのを想像していただけに、想像と違う光景に少しだけ戸惑いを覚えている。
そうしていると村長宅に到着した俺達だったが、家の前で妙な集団と出くわした。
農村には似つかわしくないほどに武装した数人の若い男女は、その身形からベテランというわけではなく駆け出しから一歩抜け出した程度の傭兵か冒険者と推測する。
一瞬、俺達と視線が交差したが、特に何かのバトルが発生することもなく、普通に村長宅へと入る道が出来た。
ここまで案内してくれていた老人は勝手知ったるゆえか、特に断りを入れることもなく扉を開く。
室内では、村長と思しき老人とガタイのいい女がテーブルを挟んで何やら話し合いをしていた。
女の方は恐らく外にいた集団のリーダーか何かで、代表して村長と打ち合わせでもしているところなのだろう。
「…ん?なんだい、あんたらは」
座り位置の関係上、最初に俺達に気付いた女がそう声を掛けてくる。
その声の調子から訝しんでいるというより、純粋に来訪者が気になってのものだと分かる。
褐色の肌に金髪という外見は、ソーマルガでよく見かけていた人達と特徴が近い。
妙に野性的な色気を感じさせるその女は、外にいた連中に比べると幾分腕の経つ雰囲気を感じさせる。
「おや?お主らはアルメラ村に行ったはずではなかったか?」
「今戻った。…申し訳ない、村長。アルメラ村では助力を得られなかったよ。だが代わりに、この二人が力を貸してくれることになった」
村長が声を掛け、老人二人が俺を紹介する。
「…若いな。しかも二人だけとは」
「当てが外れたかね、村長さん」
助っ人が俺達だけと知り、落胆する村長へ呆れたように女が言う。
「まぁ助力が得られなかったのは仕方ないさ。狼退治はウチらに任せて、あんたらは朗報を待ってるといい」
得意げな様子でそう言い、女は壁に立てかけてあった大剣を背負って家を出て行った。
話は見えてこないが、どうやら外の連中は俺達とは別口で雇われたようで、狼退治のためにやってきたようだ。
すぐに外で話し声が聞こえたかと思うと、一際大きい声が上がって人の気配が遠のいていく。
どうやら狼退治に出発したようだ。
「村長、あの人達は…」
「うむ。少し前に商隊が来てな。その時に護衛としてついてきていた傭兵達だ。ちょうどここで契約が切れると聞いて、少し無理を言って雇われてもらった」
「商隊が?わしらとは入れ違いにか?」
「そうだな。お前達が発った日の夕方に来た。本当はその時にはお前達を呼び戻そうという話も出たが、助けはいくらあっても困るものではないのでな」
タミン村は大きな街道からは外れて存在しているが、それでもこの時期に商隊がやってくるとなれば、狙いは薬草の仕入れだろう。
だが今、村は狼騒ぎで薬草採取どころではないため、その商隊もほぼ手ぶらで引き返したのかもしれない。
さっきの連中はその際、村長が引き留めて残ってもらったわけだが、正直、よく雇い主がそれを許したものだ。
「しかし、アルメラ村の助けがないのは参ったな。わしとしては人を揃えて臨みたかったが…」
そう言って村長が零した溜め息は重いものだった。
「あ、いや、村長。言いそびれていたが、この二人はそのアルメラ村から強力な助っ人だ。なんと、どっちも魔術師なんだよ!」
「…バカを言え。とうとうボケたか?アルメラ村に魔術師なぞおらんわ。バカを言え」
距離的に一番近い村同士だ。
魔術師がいれば耳に入っているであろうから、バカと二回言うほど信じられないようだ。
この辺が潮時か。
「お二人さん、そろそろ俺達が話してもいいですかね」
頃合いと判断し、それまで黙っていた俺が口を開くと、村長の注目が俺の方へと向いた。
さっきまでは戦力として数えられない程度に若僧だったが、村人から齎された魔術師という情報を得たことで、その目にはやや強い光が灯っているように感じる。
「はじめまして。俺はアンディ、悪い魔術師じゃないよ、ぷるぷる」
「どーも、パーラです。ピチピチの魔術師です」
「…何を言っているんだ?こいつらは」
ふぅむ…どうやらウィットに富んだこの自己紹介は、村長に今一つ受けは悪かったようだ。
一転して可哀そうなものを見る目が向けられたが、自覚はあるので別にいい。
「ん゛ん゛!失礼、掴みはよくなかったようで。改めまして、そこのお二人の要請に応じまして、狼退治を請け負いました、アンディとパーラです」
「お、おう。今のは一体―」
「流してください」
急に居住まいを正したことに戸惑う様子を見せたが、さりげなく言うことで、何でもないことが幸せだったと思わせることに成功した。
改めてテーブルに着き、今タミン村で起きている狼騒動に関しての詳しい話を村長の口から聞くことに舌。
尚、ここまで案内してくれた老人二人は、その役目を全うしたとして既にいない。
決して死んではおらず、単に家に帰っただけだと言っておこう。
念のために。
既に一度さっきの女傭兵に説明していたからか、村長の口からは実によく纏められた内容で語られた。
事の発端は今から十日ほど前。
農作業の合間に薬草採取へ出かけた村人が、森の中で巨大な狼と遭遇した。
その時は遠くから姿を見ただけで、特に危害を加えられたということはなかったが、すぐに情報は村中に広まり、村長を始めとした村の大人達で対策が話し合われることとなる。
入り慣れた森に突然現れた巨大狼だが、分け入った人間と目が合ったにも拘らず襲い掛かってこなかったことから、魔物ではなく動物だと推測された。
しかし、遠目からでも分かるほどのサイズには警戒しないわけにはいかず、森の中で襲われるかもしれないとすれば今後の薬草採取にも影響があると考え、村人の過半数の賛成を得て討伐が決定された。
それがアルメラ村にやってきた先の使者二人に、さっき見た傭兵達の雇用につながったというわけだ。
「ちょっと待ってください」
「む、何かな?」
話しの途中で、気になる点が出来た俺は、村長の声を遮ってでも聞かずにはいられない。
「その巨大狼による被害はまだ何もないんですか?」
「うむ。森に入った人間も無事に戻ってきているぞ」
「森から出てきて畑を荒らしたり、街道をうろついたりといったことも?」
「ないな。少なくとも、そう言う話は聞かないし、見てもいない」
こいつはまた、予想とは大分違うようだな。
俺はてっきり、狼が人を襲ったか人間の生活圏を荒らしたかしたと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
単に狼を見て、それが怖くて森に入れないというだけであり、それがいきなり討伐にまで話が進むのは些か急すぎるのではなかろうか。
「だとしたら、事情は変わってきます。俺達は村の人達が狼の被害で困っていると思って来たんですよ」
「確かに直接の被害はないが、村人は怯えて森の中に入れず、薬草の採取もままならんのだ。ある意味、被害はもう出ていると言えんか?」
「それは人間側の言い分です。人間が森の恵みを得るように、狼も森からの恵みを得て暮らしています。何もしてないのに、怖いからと退治するという考えはどうかと思いますが」
俺達冒険者や猟師といった人種は、自分達の利益のために森の中に分け入り、獲物を手にするのも仕事の一部だ。
だがそれは、あくまでも生活のためにしているのであって、無暗に殺したりはしないし、狩った獲物には感謝の思いを捧げることも忘れていない。
対して、今回の狼はどうか。
確かにタミン村の収入源の一つである薬草採取が滞っている原因ではあるが、直接何かしたわけではない。
それを邪魔だからいきなり退治するというのは、流石にどうだろう。
「あんたらはこの村の人間じゃないからそう言えるんだ。わしらはあの森の薬草がなければ生きていけん。今あの狼をどうにかせねば、この先、村の収入が減ることもあり得る。そうなっては暮らしていけんよ」
タミン村の事情もまた鑑みると、狼の穏やかな暮らしを冒すのも必要なことと言えないこともない。
片方が可哀そうだからもう片方が悪い、ということなど世の中そうそうなく、大抵はどちらにも譲れない事情が存在しているものだ。
件の狼もそうなのかは分からないが、幸いと言っていいのか、いきなり退治しようという気にはならない程度に、俺とパーラは中立の立場でいる。
「そちらの事情も分かります。ですから、俺とパーラはもう少し狼の方を探ってみたいと思います。もし狼を追い払うことが出来るようなら、そうしてみたいんです」
ほとんどの狼は縄張りを持つが、同時に放浪の習性をも併せ持つ生き物だ。
人間か環境か、どちらかの要因で今持っている縄張りを放棄してでも余所へ移ることを選べる賢さもある。
それに実はこっちが本音だが、相手は巨大な狼ということだし、強さも相当なものだと判断すれば、戦うのはなるべく回避したほうがいいという考えもあった。
「…それはそちらの自由にしたらいい。正直、戦力としては当てにしていなかったからな。だが先の傭兵達は既に森へ向かっている。もう退治に動いているだろうから、邪魔だけはしないようにな」
俺達に魔術師としての見込みは出来たが、元々本命は傭兵達の方なのだろう。
さして期待していないという風に、言うことは全部言ったと村長も口を閉ざした。
俺達はもう期待に沿えない助っ人だし、これ以上時間を割いてもらうのも気が引けて、目的地となる森の場所を聞いて村長宅を後にする。
家から出ると、やはり傭兵達の姿はなく、まず間違いなく今頃は森の方へ行っていることだろう。
時間的には昼を大分過ぎたぐらいで、森まで彼らが何を移動手段としたかは分からないが、馬で行ったとしても恐らく今日は森の外で野営をするはずだ。
傭兵は主に商隊や旅人の護衛なんかを仕事としているが、森に入る経験が全くないわけではなく、場合によっては奪われた荷物や人質などを奪還するために、深い森を進むこともあると聞く。
あのリーダーがそうかはわからないが、まともな感性をしているなら、無計画に夜の森を探索しようとはしないだろう。
今から飛空艇を飛ばせば、森の外縁で野営の準備をしている傭兵達に合流できるかもしれない。
「―ってことで、今から森の方へ行くが、それでいいか?」
「ダメって言ったらどうする?…ウソウソ、いいんじゃない?私もさっきのアンディの言った事は分かるしね」
パーラにこれからの行動についてを話す。
村長の前では黙っていたパーラだが、俺の言い分には多少同調できるのは、やはり冒険者としての仕事を一緒にしてきたおかげか。
正直、森の中での追跡に関してはパーラを当てにしているので、断られたら説得するしかなかったが、その手間と時間が省けて何よりだ。
早速飛空艇に乗り込み、タミン村を離れて森のある方角へ飛んでいく。
途中、傭兵達を追い越さないように地上へも気を配っていたが、そういった影は見えず、森の外苑まで真っ直ぐにやってきてしまった。
そこには傭兵達が乗ってきたのか、馬車の荷台はあるのだが、馬と人が見当たらない。
まさか、この時間に森へ入ってしまったのか?
「アンディ、これ予想してた?」
「いいや。てっきり野営の準備をしてると思ってたんだが。普通、今から森に入るか?」
「普通はしないねぇ」
夕闇が迫りだしたこの時間帯は、森の中も大分薄暗く、馬を伴っての移動は危険が大分増す。
流石に森の中を騎乗して移動はしていないだろうが、荷物を持たせるぐらいはしているかもしれない。
馬のような体温が高く臭いもあり、移動すると音を立てやすい大型の生き物を連れていると、他の動物や魔物を引き寄せることがあるため、なるべくなら森の中は人間だけで移動するのがいいとされている。
「けど、偵察ぐらいはするかもよ。森の中に少し入って、痕跡か脅威を先に見つけておきたいってのはあるからね」
「全員連れて偵察って、それも変じゃねーか?」
普通なら斥候職を偵察に出し、残りは野営の準備にかかるものだが、全員が一遍に偵察に出るというのは流石に妙だ。
「いや、そうとも限らないよ。あの集団に追跡術を習得している人間がいなかったとしたら、全員でかかるのは間違いじゃない」
パーラに言われ、なるほど思わされた。
彼らは森を探索するのがメインの仕事ではなく、あくまでも傭兵に過ぎない。
偵察に向いた能力が不要とは言わないが、護衛任務では戦闘能力を重視して人数を揃えることもあるらしいし、そう言う点で今回は斥候職が不在だったのかもしれない。
元々商隊にくっついてタミン村に着た連中だし、普通にあり得る。
「そういうこともあるのか。なら、仕方ない。あの馬車がある場所で戻ってくるのを待つか」
「だね」
飛空艇を降ろし、馬車の傍で傭兵達が戻ってくるのを待つことにしたが、彼らがいつ森に入ったのか分からず、また何を基準にして戻って来るかもわからない現状、ただジッと待つ退屈な時間を暫く過ごした。
あまりにも暇すぎるため、パーラなんかは噴射装置の調子を見始めたぐらいだ。
今は俺の分をやってくれて、それも終わって物足りなさそうな顔をするパーラに、思わず吹き出しかけたその時だった。
「っ!アンディ!」
突然、森の方を見て叫ぶパーラの顔は、一瞬前とは打って変わって険しい。
視線を追って森を見るが、特に変化のない景色だ。
だが、俺では察知できない何かをパーラは感じ取ったのかもしれない。
「何かあったか?」
「悲鳴だよ!森の方から悲鳴が聞こえた!」
音に関してパーラは聴覚が発達した獣人にも負けない性能を見せるため、森の中から聞こえた悲鳴も敏感に拾えたのだろう。
「そりゃあ穏やかじゃねーな!パーラ!先行け!」
「うん!」
噴射装置を身に着け、パーラに追従して森の中を飛んでいく。
並ぶ木の群れを縫うようにして進む速度は、障害物のない空を行く時とそう変わらないほどだ。
俺もついて行くのに精一杯で、時折迫る木に激突しそうになるのを紙一重で躱している。
俺には聞こえなかった悲鳴だが、パーラをこうまで急がせるほどの何かがそこには秘められていたようだ。
例の狼が原因か、あるいはそれ以外かは分からないが、向かう先でどんな光景が生み出されているのだろうか。
何があっても対象出来るよう、気を引き締めておくとしよう。
帰ってきたパーラと夕食を囲みながら今日あったことを話していると、アルメラ村でパーラが村長から受けた相談の内容を聞いた俺の反応が、先の言葉となる。
「うん。タミン村ってところで狼が出たらしいんだけど、それの退治に人を出してくれってアルメラ村に使者が来てね。で、ちょうど居合わせたってことで、美しい魔術師の私にも力を貸して欲しいってわけなんだよ」
パーラと村長の商談中にやって来た人間がそのタミン村の人間で、自分達の村の近くに狼が出たということでアルメラ村に助力を求めて来たとのこと。
…今の会話に美しいは必要だったか?
「ちょっと待てよ。狼ぐらいで魔術師の助けがいるのか?そのタミン村ってのがどんなとこか知らないが、猟師ぐらいはいるだろ。もしかして、群れがかなりでかいとか?」
別に狼を侮るわけではなく、この世界では魔物や大型の動物が脅威としては上と見られ、狼も一般人にとっては脅威ではあるが、冒険者や傭兵、猟師なんかであればそう怖い存在ではない。
もっとも、狼の怖いところは群れることにあるため、数によっては話が変わってくるが。
「そのあたりは私も聞いてみたよ。そしたら、猟師はいるし、群れでもない一匹狼が相手だって言われた」
「意味が分からん。だったらなおさら魔術師の手なんていらんだろ」
「それがさ、その狼ってのが兎に角大きいみたいでさ」
「大きいってどんぐらい」
「いや私もあり得ないって思うんだけど、その人が言うには、なんかちょっとした家より大きいらしいよ」
デカい。
どの家を基準にしているかはともかく、庶民の暮らす平均的な家屋よりもとなれば、体高は恐らく4メートルは超えてくる。
この世界の狼のほとんどは地球のものよりもいくらかサイズは大きいが、それでも馬を超えることは滅多にない。
しかし件の狼が4メートル超えの大物となると、普通の個体ではないだろう。
魔物に変異した狼というのも考えられる。
「そんなにデカいとなれば、もう騎士団とかの出動案件なんじゃねーの?」
「私もそう思ったんだけど、あの辺りに出張って来てくれる騎士団は今、ほとんどがマルスベーラに呼ばれててそんな人手はないって言われたらしいよ」
「マルスベーラに?なんで?」
この辺りを治める領主辺りにそういう命令が出たのだろうが、わざわざ地方にいる騎士まで集める理由とは一体なんだと言うのか。
もしや、なにかとんでもないことがペルケティアの主都で起きているとか?
「いやそれアンディのせいだからね。なんか司教の屋敷に天罰が下されたとかで、主都の方は混乱してるらしいよ」
あぁ、なるほど、それか。
心当たりはある。
今主都の方では、サニエリが神の怒りを買って天から雷が降ってきたという噂が市井で囁かれている。
国としては根も葉もない噂だと鎮めたいだろうが、一度人の口から吐かれた不安はそう簡単に消えることはなく、この機に乗じた不穏な動きなどを警戒して治安維持を手厚くしたいと考えたのだろう。
まぁその噂は俺が流したから、パーラの言うことはある意味正しい。
そもそも、サニエリへの意趣返しとして神の怒り云々を密かに主都で広めてみたのだが、屋敷へ落ちた雷は早朝にもかかわらずそれなりの人間が目撃していたようで、想像よりもずっと早く噂が成長してしまったのには俺自身驚いている。
「治安維持を目当てに地方の戦力を主都に集めたせいで、今回のタミン村に割く戦力がないわけか。まぁ領都にはいくらか残ってるかもしれんが、それは防衛用だから動かせんわな」
「そういうことだろうね」
かなり迂遠にではあるが、俺にも責任がないわけじゃないと思えてしまうのは、もう既に俺の手を離れた企みのせいで一つの村が困っているのを知ってしまったせいか。
この状況がペルケティア国内の各地方で同様に起きているとしたら、困っている村は他にもありそうだが。
「しかしそういうことなら、他の冒険者や傭兵とかにも依頼を出した方がいいんじゃないか?」
「あぁ、だめだめ。それも聞いたんだけど、タミン村ってあんまりお金がないらしくてさ、依頼は出したけど黄級以上の冒険者とかは受けてくれないだろうって。あと、領主が騎士団を首都に送るのに腕利きの冒険者なんかも雇って連れていっちゃったんだって」
狼のデカさから脅威度を考えると黄級以上が望ましいが、そのランクの冒険者を満足させられる金を用意できない上に、そもそも依頼を受ける冒険者の数が減っているのが問題なのだろう。
恐らく、マルスベーラまでの長い道のりを考えて、その間の斥候や護衛などに冒険者や傭兵を雇ったか。
騎士団の長距離の移動には、安全のために外部の人間を使うのはよくあると聞く。
しかし、こうして依頼が滞るほどに雇うのはやりすぎだな。
どうして匙加減というものを考えられなかったのか。
「なるほどな。だからアルメラ村を頼ったってか。冒険者は足りないが、なるべく急いで狼を片付けたいから」
「だと思う。とりあえずアンディに相談してからってことで、返事は保留にして貰ってるけど、どうする?断る?あんま乗り気じゃないでしょ」
流石、ここまでの会話で俺のテンションを読んでいたか。
「まぁ、正直言うとそうだ。よっぽど報酬がそそるもんでもない限り、今一乗り気には、な」
狼を脅威に感じているのは何となく理解したが、危険な存在だと薄々感じているのを退治するとなれば、生半可な報酬では働きたくない。
俺達にとって狼は単体だとさほど脅威ではないが、それも小屋サイズともなれば話は違う。
以前、俺達はチャスリウスでノルドオオカミと戦っているが、狼としては比較的大型の個体というだけでとんでもなくやり辛かったのだ。
それよりさらに大きいのを相手するとなれば、手に余ると言うのを恥じる気にもならない。
逆にパーラは乗り気だが、この辺は恐らく、畑仕事を抱えている俺と違い、最近は派手に体を動かす機会がほとんどないから、ここらで狼の討伐で暴れたいとでも考えているのかもしれない。
「そっかぁ。まぁ報酬はタミン村特産の野菜の種でって話は着けてたけど、乗り気じゃないなら仕方ないね」
「事情が変わった。受けよう」
報酬に金ではなく、今作っている畑に植える種、しかも特産品のというのは実に魅力的だ。
これをチョイスしたのはタミン村の人間ではないだろう。
まず間違いなく、パーラが俺を動かすのに十分なものとして向こうから引き出したと推測する。
現に今、パーラはしてやったりという笑みを浮かべているのだ。
「流石アンディ。そう言ってくれると思っていたよ」
妙にねっとりとした声で語りかけてくるパーラからは、企みが成功したことに愉悦を覚えているのが十分に伝わってくる。
「へっ、よく言う。俺が断らないようにと思って、種を報酬にさせたんだろう」
「さあ、どうかな。確かにそういう話もしたけど、最終的に決めたのは向こうだからね」
素知らぬ顔で音のならない口笛を吹く仕草には少しイラリとするが、まさか俺がこんな風に踊らされるとは、パーラも成長したものだ。
「それで、狼退治を引き受けるとして、俺はどうすればいいんだ?そのタミン村にいけばいいのか?」
「ううん、まずはアルメラ村に行って村長さんに引き受けるって話をしないとね。タミン村からの使者の人も、今日は村長さんとこに滞在するって話だし、何より私達が協力するならアルメラ村から人をやる必要が無いってのを伝えないといけないし」
元々タミン村が助けを求めたのはアルメラ村なので、俺達が後は引き受けるというのはアルメラ村に伝えないと色々と行き違いが出てしまう。
それに使者がまだアルメラ村にいるなら、俺達の飛空艇で拾ってタミン村に一緒に戻るってのが一番効率がいい。
「魔術師が二人行くってのは、タミン村の人にはいい知らせになるんだろうな」
「そりゃあそうでしょ。他の村に助けを求めたのだって、やむを得ないって感じなんだから。私らみたいな凄腕の魔術師が力を貸すなんて、望外も望外でしょ」
「自分で凄腕って言うのな。まぁ否定はしないが」
タミン村にしてみたら、剣を借りようとしてミサイルを与えられたという感じなのではなかろうか。
扱いきれるかはともかく、強力な力が手に入ったことをとりあえず喜んではくれるだろう。
翌日、俺とパーラは飛空艇を飛ばし、アルメラ村へとやってきた。
突然やって来た空飛ぶ巨体に見とれ、農作業中の多くの手を止めさせてしまったのは正直すまないと思っている。
村長宅の上空で飛空艇を止め、噴射装置で降りた俺とパーラはまず村長に話を通す。
俺もパーラもアルメラ村へは噴射装置を使って来たことしか無かったため、飛空艇でやってきたのにはかなり驚かれたが、しょっちゅうパーラが空を飛んでいるところを見て耐性が出来ていたのか、すぐに平静を取り戻していた。
近くに住むことを決めた時、一応ご近所に当たるし挨拶をと来て以来になるが、向こうはちゃんと俺を覚えていたようだ。
とはいっても、俺もペルケティアでは脛に傷がないこともないと自覚しているため、変装をしているので、向こうは本当の顔は知らない程度の間柄だ。
今の俺は鼻から額までが古い火傷痕のように皮膚の色が変わった特殊メイクを施しており、見間違えようのない特徴があると自負している。
名前と性別が一致していても、顔に分かりやすい火傷痕があるというだけで、人は別人だと思うものなので、サニエリやグロウズが俺を探してるとして、同一人物だとバレる可能性を出来る限り抑えられているはずだ。
村長一家と軽く挨拶をして、タミン村から来たという人との顔合わせをお願いすると、二人の男性が紹介された。
どちらも顔に刻まれた皺からそこそこ歳がいっているようで、老人と言っていい。
この二人が使者に選ばれたのは、その年齢からだと推測する。
今は畑仕事が本格的に動いている時期で、労働力たる若手を外へ出すよりも、力仕事には向かない老人達を送り出した方がいいと考えたのだろう。
それに、これは邪推かもしれないが、道中に盗賊や魔物に襲われてもいいような人選というのも…。
俺達が助力することを伝えると、訝しく思われたが、魔術師という肩書で納得させた。
早速二人を飛空艇に乗せ、俺達は一路タミン村へと向かうことになった。
その際、アルメラ村からも何人か若いのを応援に寄こそうと村長は言ってくれたが、それは丁重に断っておいた。
正直、まともな戦闘訓練を積んでいない素人が数人いたところで邪魔にしかならない。
俺とパーラがいれば大抵の魔物は相手できるが、威力の高い魔術を使うと素人を巻き込む恐れもある為、なるべく少数精鋭が望ましい。
残念ながらアルメラ村の人間には精鋭と呼べる人材は見当たらないため、同行させないのは妥当な判断だろう。
タミン村とアルメラ村は目と鼻の先というほどではないが、この世界基準では徒歩で四日ほどと近い方だ。
老人の足ならもう少しかかるが、飛空艇ならすぐだ。
昼前にはタミン村へと到着した飛空艇は、農作業中の人達が見上げる視線の中を飛び、指示された場所へ着陸した。
そこは刈り取った麦を乾燥させるための干し場で、もう暫くすれば木が組まれて大量の麦穂が吊られる光景も見られることだろう。
今はまだ空き地に過ぎないため、飛空艇を降ろすのに丁度いいそうだ。
飛空艇を降りると、飛空艇が珍しいのか村の人間が遠巻きに見守っている。
その中を一緒に来た二人に先導されて歩き、ひとまずタミン村の村長の家へ向かうこととなった。
道すがら、タミン村のことも話してもらった。
これは飛空艇の中でも聞こうと思っていたが、初めての空の旅に興奮していたので、後回しにしていたものを今しているわけだ。
タミン村は人口は100人を少し超える程度の大きさで、農業が主要な産業だが、アルメラ村のような大規模な穀倉地帯というわけではなく、他の多くの農村とさほど変わらない生産量しかないらしい。
むしろ、近場の森から採取される薬草類が名産と言ってもいいそうで、特に腰痛と肩こりに効くと有名なのだとか。
その薬草を採取するために森へ分け入った人間が、例の狼と遭遇したことによってこうして俺達がやってきたというわけだ。
ただ、こうして村を歩いていても、別段狼被害に怯えているという風でもなく、さっきも空から見た時は普通に村の外に広がる畑で作業している人の姿も多く見られた。
あくまでもアルメラ村で少し聞いただけだったが、どうも狼に怯えて過ごしているというのを想像していただけに、想像と違う光景に少しだけ戸惑いを覚えている。
そうしていると村長宅に到着した俺達だったが、家の前で妙な集団と出くわした。
農村には似つかわしくないほどに武装した数人の若い男女は、その身形からベテランというわけではなく駆け出しから一歩抜け出した程度の傭兵か冒険者と推測する。
一瞬、俺達と視線が交差したが、特に何かのバトルが発生することもなく、普通に村長宅へと入る道が出来た。
ここまで案内してくれていた老人は勝手知ったるゆえか、特に断りを入れることもなく扉を開く。
室内では、村長と思しき老人とガタイのいい女がテーブルを挟んで何やら話し合いをしていた。
女の方は恐らく外にいた集団のリーダーか何かで、代表して村長と打ち合わせでもしているところなのだろう。
「…ん?なんだい、あんたらは」
座り位置の関係上、最初に俺達に気付いた女がそう声を掛けてくる。
その声の調子から訝しんでいるというより、純粋に来訪者が気になってのものだと分かる。
褐色の肌に金髪という外見は、ソーマルガでよく見かけていた人達と特徴が近い。
妙に野性的な色気を感じさせるその女は、外にいた連中に比べると幾分腕の経つ雰囲気を感じさせる。
「おや?お主らはアルメラ村に行ったはずではなかったか?」
「今戻った。…申し訳ない、村長。アルメラ村では助力を得られなかったよ。だが代わりに、この二人が力を貸してくれることになった」
村長が声を掛け、老人二人が俺を紹介する。
「…若いな。しかも二人だけとは」
「当てが外れたかね、村長さん」
助っ人が俺達だけと知り、落胆する村長へ呆れたように女が言う。
「まぁ助力が得られなかったのは仕方ないさ。狼退治はウチらに任せて、あんたらは朗報を待ってるといい」
得意げな様子でそう言い、女は壁に立てかけてあった大剣を背負って家を出て行った。
話は見えてこないが、どうやら外の連中は俺達とは別口で雇われたようで、狼退治のためにやってきたようだ。
すぐに外で話し声が聞こえたかと思うと、一際大きい声が上がって人の気配が遠のいていく。
どうやら狼退治に出発したようだ。
「村長、あの人達は…」
「うむ。少し前に商隊が来てな。その時に護衛としてついてきていた傭兵達だ。ちょうどここで契約が切れると聞いて、少し無理を言って雇われてもらった」
「商隊が?わしらとは入れ違いにか?」
「そうだな。お前達が発った日の夕方に来た。本当はその時にはお前達を呼び戻そうという話も出たが、助けはいくらあっても困るものではないのでな」
タミン村は大きな街道からは外れて存在しているが、それでもこの時期に商隊がやってくるとなれば、狙いは薬草の仕入れだろう。
だが今、村は狼騒ぎで薬草採取どころではないため、その商隊もほぼ手ぶらで引き返したのかもしれない。
さっきの連中はその際、村長が引き留めて残ってもらったわけだが、正直、よく雇い主がそれを許したものだ。
「しかし、アルメラ村の助けがないのは参ったな。わしとしては人を揃えて臨みたかったが…」
そう言って村長が零した溜め息は重いものだった。
「あ、いや、村長。言いそびれていたが、この二人はそのアルメラ村から強力な助っ人だ。なんと、どっちも魔術師なんだよ!」
「…バカを言え。とうとうボケたか?アルメラ村に魔術師なぞおらんわ。バカを言え」
距離的に一番近い村同士だ。
魔術師がいれば耳に入っているであろうから、バカと二回言うほど信じられないようだ。
この辺が潮時か。
「お二人さん、そろそろ俺達が話してもいいですかね」
頃合いと判断し、それまで黙っていた俺が口を開くと、村長の注目が俺の方へと向いた。
さっきまでは戦力として数えられない程度に若僧だったが、村人から齎された魔術師という情報を得たことで、その目にはやや強い光が灯っているように感じる。
「はじめまして。俺はアンディ、悪い魔術師じゃないよ、ぷるぷる」
「どーも、パーラです。ピチピチの魔術師です」
「…何を言っているんだ?こいつらは」
ふぅむ…どうやらウィットに富んだこの自己紹介は、村長に今一つ受けは悪かったようだ。
一転して可哀そうなものを見る目が向けられたが、自覚はあるので別にいい。
「ん゛ん゛!失礼、掴みはよくなかったようで。改めまして、そこのお二人の要請に応じまして、狼退治を請け負いました、アンディとパーラです」
「お、おう。今のは一体―」
「流してください」
急に居住まいを正したことに戸惑う様子を見せたが、さりげなく言うことで、何でもないことが幸せだったと思わせることに成功した。
改めてテーブルに着き、今タミン村で起きている狼騒動に関しての詳しい話を村長の口から聞くことに舌。
尚、ここまで案内してくれた老人二人は、その役目を全うしたとして既にいない。
決して死んではおらず、単に家に帰っただけだと言っておこう。
念のために。
既に一度さっきの女傭兵に説明していたからか、村長の口からは実によく纏められた内容で語られた。
事の発端は今から十日ほど前。
農作業の合間に薬草採取へ出かけた村人が、森の中で巨大な狼と遭遇した。
その時は遠くから姿を見ただけで、特に危害を加えられたということはなかったが、すぐに情報は村中に広まり、村長を始めとした村の大人達で対策が話し合われることとなる。
入り慣れた森に突然現れた巨大狼だが、分け入った人間と目が合ったにも拘らず襲い掛かってこなかったことから、魔物ではなく動物だと推測された。
しかし、遠目からでも分かるほどのサイズには警戒しないわけにはいかず、森の中で襲われるかもしれないとすれば今後の薬草採取にも影響があると考え、村人の過半数の賛成を得て討伐が決定された。
それがアルメラ村にやってきた先の使者二人に、さっき見た傭兵達の雇用につながったというわけだ。
「ちょっと待ってください」
「む、何かな?」
話しの途中で、気になる点が出来た俺は、村長の声を遮ってでも聞かずにはいられない。
「その巨大狼による被害はまだ何もないんですか?」
「うむ。森に入った人間も無事に戻ってきているぞ」
「森から出てきて畑を荒らしたり、街道をうろついたりといったことも?」
「ないな。少なくとも、そう言う話は聞かないし、見てもいない」
こいつはまた、予想とは大分違うようだな。
俺はてっきり、狼が人を襲ったか人間の生活圏を荒らしたかしたと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
単に狼を見て、それが怖くて森に入れないというだけであり、それがいきなり討伐にまで話が進むのは些か急すぎるのではなかろうか。
「だとしたら、事情は変わってきます。俺達は村の人達が狼の被害で困っていると思って来たんですよ」
「確かに直接の被害はないが、村人は怯えて森の中に入れず、薬草の採取もままならんのだ。ある意味、被害はもう出ていると言えんか?」
「それは人間側の言い分です。人間が森の恵みを得るように、狼も森からの恵みを得て暮らしています。何もしてないのに、怖いからと退治するという考えはどうかと思いますが」
俺達冒険者や猟師といった人種は、自分達の利益のために森の中に分け入り、獲物を手にするのも仕事の一部だ。
だがそれは、あくまでも生活のためにしているのであって、無暗に殺したりはしないし、狩った獲物には感謝の思いを捧げることも忘れていない。
対して、今回の狼はどうか。
確かにタミン村の収入源の一つである薬草採取が滞っている原因ではあるが、直接何かしたわけではない。
それを邪魔だからいきなり退治するというのは、流石にどうだろう。
「あんたらはこの村の人間じゃないからそう言えるんだ。わしらはあの森の薬草がなければ生きていけん。今あの狼をどうにかせねば、この先、村の収入が減ることもあり得る。そうなっては暮らしていけんよ」
タミン村の事情もまた鑑みると、狼の穏やかな暮らしを冒すのも必要なことと言えないこともない。
片方が可哀そうだからもう片方が悪い、ということなど世の中そうそうなく、大抵はどちらにも譲れない事情が存在しているものだ。
件の狼もそうなのかは分からないが、幸いと言っていいのか、いきなり退治しようという気にはならない程度に、俺とパーラは中立の立場でいる。
「そちらの事情も分かります。ですから、俺とパーラはもう少し狼の方を探ってみたいと思います。もし狼を追い払うことが出来るようなら、そうしてみたいんです」
ほとんどの狼は縄張りを持つが、同時に放浪の習性をも併せ持つ生き物だ。
人間か環境か、どちらかの要因で今持っている縄張りを放棄してでも余所へ移ることを選べる賢さもある。
それに実はこっちが本音だが、相手は巨大な狼ということだし、強さも相当なものだと判断すれば、戦うのはなるべく回避したほうがいいという考えもあった。
「…それはそちらの自由にしたらいい。正直、戦力としては当てにしていなかったからな。だが先の傭兵達は既に森へ向かっている。もう退治に動いているだろうから、邪魔だけはしないようにな」
俺達に魔術師としての見込みは出来たが、元々本命は傭兵達の方なのだろう。
さして期待していないという風に、言うことは全部言ったと村長も口を閉ざした。
俺達はもう期待に沿えない助っ人だし、これ以上時間を割いてもらうのも気が引けて、目的地となる森の場所を聞いて村長宅を後にする。
家から出ると、やはり傭兵達の姿はなく、まず間違いなく今頃は森の方へ行っていることだろう。
時間的には昼を大分過ぎたぐらいで、森まで彼らが何を移動手段としたかは分からないが、馬で行ったとしても恐らく今日は森の外で野営をするはずだ。
傭兵は主に商隊や旅人の護衛なんかを仕事としているが、森に入る経験が全くないわけではなく、場合によっては奪われた荷物や人質などを奪還するために、深い森を進むこともあると聞く。
あのリーダーがそうかはわからないが、まともな感性をしているなら、無計画に夜の森を探索しようとはしないだろう。
今から飛空艇を飛ばせば、森の外縁で野営の準備をしている傭兵達に合流できるかもしれない。
「―ってことで、今から森の方へ行くが、それでいいか?」
「ダメって言ったらどうする?…ウソウソ、いいんじゃない?私もさっきのアンディの言った事は分かるしね」
パーラにこれからの行動についてを話す。
村長の前では黙っていたパーラだが、俺の言い分には多少同調できるのは、やはり冒険者としての仕事を一緒にしてきたおかげか。
正直、森の中での追跡に関してはパーラを当てにしているので、断られたら説得するしかなかったが、その手間と時間が省けて何よりだ。
早速飛空艇に乗り込み、タミン村を離れて森のある方角へ飛んでいく。
途中、傭兵達を追い越さないように地上へも気を配っていたが、そういった影は見えず、森の外苑まで真っ直ぐにやってきてしまった。
そこには傭兵達が乗ってきたのか、馬車の荷台はあるのだが、馬と人が見当たらない。
まさか、この時間に森へ入ってしまったのか?
「アンディ、これ予想してた?」
「いいや。てっきり野営の準備をしてると思ってたんだが。普通、今から森に入るか?」
「普通はしないねぇ」
夕闇が迫りだしたこの時間帯は、森の中も大分薄暗く、馬を伴っての移動は危険が大分増す。
流石に森の中を騎乗して移動はしていないだろうが、荷物を持たせるぐらいはしているかもしれない。
馬のような体温が高く臭いもあり、移動すると音を立てやすい大型の生き物を連れていると、他の動物や魔物を引き寄せることがあるため、なるべくなら森の中は人間だけで移動するのがいいとされている。
「けど、偵察ぐらいはするかもよ。森の中に少し入って、痕跡か脅威を先に見つけておきたいってのはあるからね」
「全員連れて偵察って、それも変じゃねーか?」
普通なら斥候職を偵察に出し、残りは野営の準備にかかるものだが、全員が一遍に偵察に出るというのは流石に妙だ。
「いや、そうとも限らないよ。あの集団に追跡術を習得している人間がいなかったとしたら、全員でかかるのは間違いじゃない」
パーラに言われ、なるほど思わされた。
彼らは森を探索するのがメインの仕事ではなく、あくまでも傭兵に過ぎない。
偵察に向いた能力が不要とは言わないが、護衛任務では戦闘能力を重視して人数を揃えることもあるらしいし、そう言う点で今回は斥候職が不在だったのかもしれない。
元々商隊にくっついてタミン村に着た連中だし、普通にあり得る。
「そういうこともあるのか。なら、仕方ない。あの馬車がある場所で戻ってくるのを待つか」
「だね」
飛空艇を降ろし、馬車の傍で傭兵達が戻ってくるのを待つことにしたが、彼らがいつ森に入ったのか分からず、また何を基準にして戻って来るかもわからない現状、ただジッと待つ退屈な時間を暫く過ごした。
あまりにも暇すぎるため、パーラなんかは噴射装置の調子を見始めたぐらいだ。
今は俺の分をやってくれて、それも終わって物足りなさそうな顔をするパーラに、思わず吹き出しかけたその時だった。
「っ!アンディ!」
突然、森の方を見て叫ぶパーラの顔は、一瞬前とは打って変わって険しい。
視線を追って森を見るが、特に変化のない景色だ。
だが、俺では察知できない何かをパーラは感じ取ったのかもしれない。
「何かあったか?」
「悲鳴だよ!森の方から悲鳴が聞こえた!」
音に関してパーラは聴覚が発達した獣人にも負けない性能を見せるため、森の中から聞こえた悲鳴も敏感に拾えたのだろう。
「そりゃあ穏やかじゃねーな!パーラ!先行け!」
「うん!」
噴射装置を身に着け、パーラに追従して森の中を飛んでいく。
並ぶ木の群れを縫うようにして進む速度は、障害物のない空を行く時とそう変わらないほどだ。
俺もついて行くのに精一杯で、時折迫る木に激突しそうになるのを紙一重で躱している。
俺には聞こえなかった悲鳴だが、パーラをこうまで急がせるほどの何かがそこには秘められていたようだ。
例の狼が原因か、あるいはそれ以外かは分からないが、向かう先でどんな光景が生み出されているのだろうか。
何があっても対象出来るよう、気を引き締めておくとしよう。
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