1 / 1
プロローグ
しおりを挟む
3月11日。某高等学校の卒業式。
恙無く終了し、在校生卒業生が入り交じる校門前では、
一人の男が様々な生徒から声を掛けられていた。
「会長!今までお世話になりましたっ!!」
「はは、もう随分前に会長じゃぁなくなったんだけどなぁ」
「かいちょ~卒業しないでくださいよ~」
「会長ー!」
掛けられる声ひとつひとつに返し、手を振り、柔和な笑顔を浮かべ
少しずつ校門へと足を進めていく。
握手を求める中には教員も居た。同じ卒業生から写真を求められたが丁寧に断った。
校門も目前。沢山の人の輪から一歩踏み出し外れる。
彼らを振り返り、気持ちの限りを笑顔とともに言葉に込める。
「本当に、今までありがとうございました」
その言葉に先程までの引き止めるような態度から一転、励ましの言葉が送られる。
「遊びに来てくださいね会長!」
「今年も楽しい文化祭にしますから!」
「頑張ってくださいね~!!」
彼らに手を振り教員に頭を下げ、校門から、外へと出る。
そしてそのまま振り向くことはせずに、歩きだす。
遅れて後ろから着いてきた人当たりの良さそうな男は
そのまま隣に追いつき、声をかけた。
「若、頭から本家で待っていると連絡がきました」
「…あぁ。わかった」
先程とは打って変わって低く、力強い声で応える。
今までの僕はもう既に置いてきた。
もう、後戻りは出来ねぇ。
そうして『僕』は「俺」になった。
-----------
3月11日。同高等学校での卒業式中。
体育館で行われているそれを窓から少しだけ眺め、
お情けで貰ったような紙切れが収まった筒を片手に
裏門からそっと、帰ってくることのない学校から、一歩、外に出た。
そのままふらふらと、しかし迷いなく裏通りを進む。
目的地まであと少し。
何人かの人相のよくない男に取り囲まれた。
「おい、お前が『赤獅子』だな」
一際体格のいい男が進み出る。
「…なら、なんだ?」
「昨日は俺の舎弟が何人か世話になったなぁ」
「何でもいいが、俺は今機嫌が悪いんだ。---どけ」
「減らず口がッ!おい!やれぇ!!」
その言葉に男どもが一斉にかかる。
ある男は鉄パイプを片手に。
ある男は後ろから殴りかかろうとし。
ある男はタックルをしようと突進する。
四方八方から向けられた暴力は荒々しく、まさに命を刈り取らんとした力の塊は
一切合切目標物には届かなかった。
一瞬後、すべてが地に平伏していた。
おもむろに挙げていた足を下ろし、
革靴に微かに付着してしまった血痕を倒れているやつの衣服に擦るつける。
ピリリリリリ
唐突に鳴り響いた着信音に少しの戸惑いを見せた後、素早く携帯を耳に当てる。
「はい。…ええ…もちろん承知しております」
「近々本宅へと戻らせていただきたいのですが…」
「えぇ、はい、改めてご挨拶さしあげます。それでは、失礼します、父上」
画面の暗くなった携帯を数秒見つめ、チッと舌打ちをしてその場を後にした。
全てはもう遅いのだ。
そうして『俺』は「僕」になった。
恙無く終了し、在校生卒業生が入り交じる校門前では、
一人の男が様々な生徒から声を掛けられていた。
「会長!今までお世話になりましたっ!!」
「はは、もう随分前に会長じゃぁなくなったんだけどなぁ」
「かいちょ~卒業しないでくださいよ~」
「会長ー!」
掛けられる声ひとつひとつに返し、手を振り、柔和な笑顔を浮かべ
少しずつ校門へと足を進めていく。
握手を求める中には教員も居た。同じ卒業生から写真を求められたが丁寧に断った。
校門も目前。沢山の人の輪から一歩踏み出し外れる。
彼らを振り返り、気持ちの限りを笑顔とともに言葉に込める。
「本当に、今までありがとうございました」
その言葉に先程までの引き止めるような態度から一転、励ましの言葉が送られる。
「遊びに来てくださいね会長!」
「今年も楽しい文化祭にしますから!」
「頑張ってくださいね~!!」
彼らに手を振り教員に頭を下げ、校門から、外へと出る。
そしてそのまま振り向くことはせずに、歩きだす。
遅れて後ろから着いてきた人当たりの良さそうな男は
そのまま隣に追いつき、声をかけた。
「若、頭から本家で待っていると連絡がきました」
「…あぁ。わかった」
先程とは打って変わって低く、力強い声で応える。
今までの僕はもう既に置いてきた。
もう、後戻りは出来ねぇ。
そうして『僕』は「俺」になった。
-----------
3月11日。同高等学校での卒業式中。
体育館で行われているそれを窓から少しだけ眺め、
お情けで貰ったような紙切れが収まった筒を片手に
裏門からそっと、帰ってくることのない学校から、一歩、外に出た。
そのままふらふらと、しかし迷いなく裏通りを進む。
目的地まであと少し。
何人かの人相のよくない男に取り囲まれた。
「おい、お前が『赤獅子』だな」
一際体格のいい男が進み出る。
「…なら、なんだ?」
「昨日は俺の舎弟が何人か世話になったなぁ」
「何でもいいが、俺は今機嫌が悪いんだ。---どけ」
「減らず口がッ!おい!やれぇ!!」
その言葉に男どもが一斉にかかる。
ある男は鉄パイプを片手に。
ある男は後ろから殴りかかろうとし。
ある男はタックルをしようと突進する。
四方八方から向けられた暴力は荒々しく、まさに命を刈り取らんとした力の塊は
一切合切目標物には届かなかった。
一瞬後、すべてが地に平伏していた。
おもむろに挙げていた足を下ろし、
革靴に微かに付着してしまった血痕を倒れているやつの衣服に擦るつける。
ピリリリリリ
唐突に鳴り響いた着信音に少しの戸惑いを見せた後、素早く携帯を耳に当てる。
「はい。…ええ…もちろん承知しております」
「近々本宅へと戻らせていただきたいのですが…」
「えぇ、はい、改めてご挨拶さしあげます。それでは、失礼します、父上」
画面の暗くなった携帯を数秒見つめ、チッと舌打ちをしてその場を後にした。
全てはもう遅いのだ。
そうして『俺』は「僕」になった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる