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闘技大会の街 コロセウム
第19話 初戦敗退のつもりだったのに
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……何かがおかしい。
僕は呆然と剣を構えたまま気絶しているザンギエフを見下ろしていた。
「救護班ー! 」
と、司会の女の人が叫ぶ声も遠くで聞こえているようだ。
落ち着け、これまでのことを整理しよう。
~回想~
しばらく待ってようやく僕たちの試合が始まった。
お互い握手を交わして、戦いの火蓋が切って落とされた!
戦いが始まってすぐの僕は、なるべく怪我をしないように攻撃を受け流して、さりげなく追い込まれたように場外に出て負ける。
これが「ぼくのかんがえたけがをしないまけかた」作戦だった。
悪目立ちもしないし、怪我もしない、皆が幸せになれる良い作戦ではないだろうか?
しかし現実は違った。
「な、何で当たらねぇ!! 」
「何で当てないの!? 」
歴戦の格闘家とされる彼の攻撃は余りにもスローモーションだ。
びっくりするぐらい鈍いザンギエフの攻撃を受け流した僕は、思わず隙だらけになった彼の胴体に剣技を入れてしまった。
背の部分で攻撃したので、切り裂く能力はないが、遥か彼方に吹き飛ばされるザンギエフ。
……そして彼は壁に頭を打って気絶、僕の勝利というわけだ。
「……勝っちゃった? 」
自分でも信じられない。が、司会の
「おおおおおお!!!! 鮮やかな勝利です!!! 第三試合、勝者は謎の剣士、リヒト選手です!! 」
わーーー!! と観客たちの拍手と歓声が僕に降りかかってきた。
「は、ははどうも……」
僕はぎこちなく手をあげる。それに呼応するように一層歓声は大きくなる。
戦いで褒められたことなんて今までなかったから少しむず痒い。
……それにしてもザンギエフは大丈夫だろうか。命に別状はなさそうだったが。
僕は逃げるように会場を後にすると、さっさと控え室に帰ったのだった。
◇◇◇
控え室に戻るとこれまた選手たちの様子がおかしい。何だか僕見られてる……?
まるで僕の挙動一つ一つを観察するように視線が集められているのを感じる。
「あいつがザンギエフを瞬殺したらしいぜ」
「嘘だろ!? あの優勝候補のザンギエフを? 」
ヒソヒソ噂されていて何だか居心地が悪い。
なるべく目立たないように気を付けたつもりだったのだが、逆に目立っているような……?
「あ、おめでとう! 」
ぴょこんと飛び出してきたのはリオンだった。ね、勝ったでしょ? とでも言いたげににやりと笑っている。
「リオンどうしよう……初戦敗退するつもりだったのに……」
「だから勝つって言ったじゃん」
「でも何で……? レベル的には僕、圧倒的に低いと思うんだけど」
「多分、ノアに渡した愚鈍の仮面、あの効果だと思う。あれの呪いは装備者のすばやさを下げるから……」
「僕が装備するとすばやさが上がるってことか」
そう、とリオンは頷いた。
なるほどだからあれほど素早さの高そうな格闘家の攻撃さえも止まって見えたのか。
「……でもどうしようこれから二回戦だよ。一回目は何とかなったかもしれないけどこんな奇跡二回も起きないよ……」
いっそ棄権しようかなと呟くと、リオンがブンブンと首を横に振った。
「ノアはノアが思ってるほど弱くないよ。じゃ、私客席で大人しくしてるから」
くるりとリオンが踵を返すと、人混みの中に消えてしまった。
僕は弱くない、か……。そう思っているのはリオンだけじゃないかなぁ。
脳裏にアスベルたちから掛けられた言葉の数々が甦ってきた。
「弱いんだから何か面白いことしろよ! 」
「ほんと役立たず。囮にもなれないなんて」
いけない、今はそんなこと思い出してる暇はない。
しばらく机に突っ伏して呼吸を整える。
「ノアはノアが思ってるほど弱くないよ」
リオンの嫌味のない言葉がその雑音をかき消してくれる。
さぁ行こうか。僕は立ち上がると覚悟を決めた。
とりあえず勝てるとこまで頑張ってみよう。心の底からそう思えた。
僕は呆然と剣を構えたまま気絶しているザンギエフを見下ろしていた。
「救護班ー! 」
と、司会の女の人が叫ぶ声も遠くで聞こえているようだ。
落ち着け、これまでのことを整理しよう。
~回想~
しばらく待ってようやく僕たちの試合が始まった。
お互い握手を交わして、戦いの火蓋が切って落とされた!
戦いが始まってすぐの僕は、なるべく怪我をしないように攻撃を受け流して、さりげなく追い込まれたように場外に出て負ける。
これが「ぼくのかんがえたけがをしないまけかた」作戦だった。
悪目立ちもしないし、怪我もしない、皆が幸せになれる良い作戦ではないだろうか?
しかし現実は違った。
「な、何で当たらねぇ!! 」
「何で当てないの!? 」
歴戦の格闘家とされる彼の攻撃は余りにもスローモーションだ。
びっくりするぐらい鈍いザンギエフの攻撃を受け流した僕は、思わず隙だらけになった彼の胴体に剣技を入れてしまった。
背の部分で攻撃したので、切り裂く能力はないが、遥か彼方に吹き飛ばされるザンギエフ。
……そして彼は壁に頭を打って気絶、僕の勝利というわけだ。
「……勝っちゃった? 」
自分でも信じられない。が、司会の
「おおおおおお!!!! 鮮やかな勝利です!!! 第三試合、勝者は謎の剣士、リヒト選手です!! 」
わーーー!! と観客たちの拍手と歓声が僕に降りかかってきた。
「は、ははどうも……」
僕はぎこちなく手をあげる。それに呼応するように一層歓声は大きくなる。
戦いで褒められたことなんて今までなかったから少しむず痒い。
……それにしてもザンギエフは大丈夫だろうか。命に別状はなさそうだったが。
僕は逃げるように会場を後にすると、さっさと控え室に帰ったのだった。
◇◇◇
控え室に戻るとこれまた選手たちの様子がおかしい。何だか僕見られてる……?
まるで僕の挙動一つ一つを観察するように視線が集められているのを感じる。
「あいつがザンギエフを瞬殺したらしいぜ」
「嘘だろ!? あの優勝候補のザンギエフを? 」
ヒソヒソ噂されていて何だか居心地が悪い。
なるべく目立たないように気を付けたつもりだったのだが、逆に目立っているような……?
「あ、おめでとう! 」
ぴょこんと飛び出してきたのはリオンだった。ね、勝ったでしょ? とでも言いたげににやりと笑っている。
「リオンどうしよう……初戦敗退するつもりだったのに……」
「だから勝つって言ったじゃん」
「でも何で……? レベル的には僕、圧倒的に低いと思うんだけど」
「多分、ノアに渡した愚鈍の仮面、あの効果だと思う。あれの呪いは装備者のすばやさを下げるから……」
「僕が装備するとすばやさが上がるってことか」
そう、とリオンは頷いた。
なるほどだからあれほど素早さの高そうな格闘家の攻撃さえも止まって見えたのか。
「……でもどうしようこれから二回戦だよ。一回目は何とかなったかもしれないけどこんな奇跡二回も起きないよ……」
いっそ棄権しようかなと呟くと、リオンがブンブンと首を横に振った。
「ノアはノアが思ってるほど弱くないよ。じゃ、私客席で大人しくしてるから」
くるりとリオンが踵を返すと、人混みの中に消えてしまった。
僕は弱くない、か……。そう思っているのはリオンだけじゃないかなぁ。
脳裏にアスベルたちから掛けられた言葉の数々が甦ってきた。
「弱いんだから何か面白いことしろよ! 」
「ほんと役立たず。囮にもなれないなんて」
いけない、今はそんなこと思い出してる暇はない。
しばらく机に突っ伏して呼吸を整える。
「ノアはノアが思ってるほど弱くないよ」
リオンの嫌味のない言葉がその雑音をかき消してくれる。
さぁ行こうか。僕は立ち上がると覚悟を決めた。
とりあえず勝てるとこまで頑張ってみよう。心の底からそう思えた。
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