外れ職業の旅芸人(LV.15)だったけれど、呪いの装備を使いこなせるチートに目覚めました

寿司

文字の大きさ
23 / 50
闘技大会の街 コロセウム

第23話 さてさて優勝は?

しおりを挟む
「さぁいよいよ始まりました!!!!! 一年に一度の闘技大会、決勝戦です!  」

 わあああああああと観客の歓声があちこちからあがる。
 何だか昨日の予選のときよりも観客が増えているような……。

「対戦者は華麗なる王国騎士、エリザベス選手!!! 」

 うおおおおお!!!! と特に男性の声が大きくなった。

「対するは謎の剣士、リヒト選手です!!! 」

 僕はぎこちなく右手をあげてみせる。するとそれに応えるかのように歓声が強まった。
 初めての経験なので僕は思わずぞくりと身震いした。

「さぁこの戦いで今年の優勝が決まります!!! 試合!!! 開始!!」

 唾を飛び散らしてわめく司会者の合図、いよいよ最後の試合が始まった。

 僕は一度彼女から距離を取ると、まじまじとその様子を見る。
 なるほど確かに剣を持つ手がブルブルと震えておりあまり戦いには馴れていないようだ。

 このときの僕は普通に勝ちを彼女に譲っても良いと思っていた。
 僕はカーチィス家の至宝なんてものに興味はないし、元々の持ち主が持つことが一番良いと思う。

 第一、僕はお金を稼ぎに来たのだ!

 すると、やあああ!!! と勇ましい雄叫びをあげてエリザベスが剣を振りかざした。あまりにもゆっくり過ぎるその動きを僕は難なく避けると、ぽつりと彼女の耳元で呟いた。

「剣を横に振って」

「え!? 」

 不思議そうな顔をしながらもエリザベスが僕の言うとおりに剣を動かす。

 その動きに合わせて……。

「ぐわああああ!!!! 」

 僕は大袈裟に後ろに飛び退くと、そのまま倒れ込んだ。
 エリザベスは一瞬怪訝そうに眉をひそめたものの、すぐに僕の意図を汲んでか更に追撃をしようとする。

 待ってくれ! 追い討ちをかけるのはやめてくれ!
 ……これは心からのSOSだ。

「分かった。俺の敗けだ! 降参だ! 」

 僕は剣を地面に落とすと、両手をあげて降参アピール。
 わざとらしく怪我をしたように見えるよう、腹の辺りを押さえてよろめいてみせる。

 ほんの一瞬で決着がつき、観客たちがざわめく。

「な、なにが起こったのでしょうか!? リヒト選手降参!? 」

 司会者も着いていけてない様子で、慌ててマイクを握り直した。

「何が起こったんだ……!? わざとよろめいたようにも見えたが……」

 観客の誰かが呟いた。まずい、僕の演技が下手すぎてバレてる。

「いやそれだけエリザベス選手が強すぎたのだろう……」

 また別の誰かがそういうと、観客たちは納得したように拍手をし始めた。

「おめでとう!! エリザベス!! 」

「一瞬で勝負が着いたのはつまらなかったけどそれだけ強いんだな! 」

 次々に飛んでくる称賛の声にエリザベス自身がまだ追い付けていないようだ。
 しかし一度泣き笑いのような表情を作ると、僕に深くお辞儀をした。

「なんとここまで早く決着が着いた試合はあったでしょうか!? 優勝はエリザベス選手です!! 」

 わああああああと拍手の雨がエリザベスに降り注ぐ。
 それを一歩引いて見てる僕。うん、やっぱり僕は脇役に徹している方が性に合っているな。

「あえなく優勝は逃しましたが、健闘したリヒト選手にも拍手をお願いしまーす! 」

 え、僕にも?

「強かったぞー! また来年も出てくれよなー! 」

「来年は優勝してくれ! 」

 初めて強いなんて言われた僕はなんて答えたら良いのか分からず、ただ俯いて、お辞儀を返した。
 視界の端で、リオンだけが仕方ないなぁとでも言いたげな顔して全てを察しているようだ。

「さぁ、一旦休憩にした後に表彰式を行います。皆さん一度休息を取ったのち、戻ってきてください」

 司会者のアナウンスが流れ、客席からはみるみるうちに人がいなくなっていった。
 それを見てようやく闘技大会が終わったことを実感した。
 うん、無傷だしアイテムは入手出来そうだし満足だ!

 僕はリオンと合流しようと踵を返す。すると何者かに腕を掴まれた。

「あの……!! 」

「あ、エリザベスさん」

 顔を真っ赤にして何か言いたげなエリザベス。
 
「その……ありがとうございます。私、あなたに酷いこと言ったのに」

「何のことですか? 俺はエリザベスさんが強すぎて歯が立たなかっただけなので」

「そんな、私、全然手応えを感じなかったのに……」

 この人も真っ直ぐな人だ。こんな司会者に聞かれかねない場所で八百長を問い質すなんて失格になってもおかしくない。

「せめて何か御礼を……」

「とんでもない、闘技大会は実力の世界。貴女が俺より強かった。それだけの話です」

 尚も食い下がろうとするエリザベスに困っていると「ノアー! 」と僕を呼ぶ声がした。

 ぱたぱたと近付いてきたのは案の定リオン。目を細めて呆れているようだ。

「何怒ってんだよ」

「別にー」

 そしてエリザベスの存在に気が付くと、途端に険しい顔つきになる。

「また馬鹿にしに来たの? 」

「こらリオン。違うよ」

 明らかに敵意を剥き出しにするリオンを制止し、経緯を話す。彼女は不満そうな顔はしたものの特に何も言わなかった。

「まあノアが良いならそれで良いよ。ねー! 私お腹空いちゃった。何か食べに行こうよ」

 きゅるるるると僕のお腹が情けなく鳴った。

「確かに……軽く食べに行くか」

 僕はエリザベスに軽く会釈をすると、リオンを連れてその場を後にしたのであった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...