落ちこぼれ神父、死神と契約して僻地に飛ばされたのでスローライフを送ります

寿司

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第3話 町長の頼み

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 案内された俺の住処は、随分と立派な教会だった。
 町外れにあるその建物は、俺とフレイア、二人で住むには少広すぎるぐらいである。

 しかしその中は埃被っていて蜘蛛の巣が至る所に張り巡らされている。挙句の果てにはネズミが時折姿を見せていた。そして外には広い畑らしきものがあるものの、雑草で生い茂っていて荒れ果てているのだった。

「申し訳ありません、ここ最近はここに来る者もいないものでして」

 恥ずかしそうにカールが俯いた。

「お化けでも出そうじゃな」

「いやいやいや、とんでもないです。住む場所があるだけで有難いです。それで俺に頼みというのは……? 」

 フレイアの口を慌てて塞ぐ俺。これ以上余計なことを言わないように話題を変える。

「それは……」

 口ごもるカール。何か言いづらいことなのだろうか?

「カールさん? 」

 つい俺はせかすように声をかける。そしてカールさんはばっと俺の手を取った。

「こんなこと、神父様に頼むのはおかしいとは分かっている、しかし私は君に町おこしを手伝って貰いたい!! 」

「ま、町おこし!? 」

 あまり聞かない単語に思わず聞き返す俺。

「今まで私たちはいつ襲い掛かってくるかも分からない魔物の恐怖に怯え、それに備えるのに精いっぱいで、正直町おこしには手が回っていなかったのだ」

 しかし!! とカールは更に言葉を続ける。

「アレスくんの戦闘力があればもう魔物に怯えることもない、そこで本格的に町おこしに臨もうと思っているのだ」

「なるほど、つまり俺は用心棒みたいなものですね」

 そういうことだな、とカールが頷いた。

「町が発展すればたくさんの施設が立ち並ぶし、人も戻ってくる。そうすればかつての姿を取り戻すことが出来るんだ」

 そういえばシャロンもそんなことを言っていたな……。
 この町の人は皆、もう魔物に怯える生活をしたくないのだろう。

「面白そうじゃな、いいぞやってやろう」

 俺が返事するより早く、答えるフレイア。

「ありがとうございます!! 」

 涙目のカールがフレイアの手を握りしめる。

 あ、まずい。

 その途端、カールが白目をむいたかと思うと、バッタリと崩れ落ちた。
 
「しまった。わしに触ってはならないと言うことを忘れとった……」

 ペロッと舌を出すフレイアだったが、そういう状況ではないことは確かだった。

◇◇◇

 倒れたカールをとりあえず教会のベッドに運び、彼の魂を引き戻す。
 そう、死神であるフレイアの肌に触れるとどんな生命も魂を抜かれてしまう。
 こういう事故があるからしっかり服を着ろと言っているのに、本人は肌を覆う服は嫌いだと言ってきかないのだ。

「ごめん……」

 珍しく反省しているフレイアはしゅんと俯いている。

「フレイアだって誰かの命を奪いたい訳じゃないんだろう? これからは町で暮らすんだから気を付けろ」

「うん……」

 そしてフレイアはきゅっと俺に抱きつく。

「……やっぱりわしに触れられるのはアレスだけじゃ」

 俺は少し特別な体質で、どうやらフレイアの肌に触れても魂を抜かれないらしい。
 このこともどうやらフレイアが俺に契約を持ちかけた理由の一つのようだ。

「そうだな」

 そして俺も彼女の細い体を、赤子をあやすように抱きしめる。

「嫌いにならないで……」

「ならないよ」

 彼女なりに悪気は感じているらしく、こういうときは決まって甘えてくるのだ。
 神様という高位の存在でありながらも、感情がないわけではないようだ。

「うう……わしは一体何を? 」

 そうこうやり取りをしている内にカールが息を吹き返した。
 フレイアに触れたからと言って即死に至るわけではない。
 直ぐに魂を体に戻せば特に問題はないのだった。

「ほら、フレイア」

「……ごめんなさい」

 おずおずとカールの前に歩み出たフレイアはぺこりと頭を下げる。

「わしの能力のせいで、魂を抜いてしまったんじゃ……」

「能力? 魂? ……一体何のことだ」

 状況をまだ掴めていないらしいカールが俺を見る。
 うん、ここは俺が説明をしなければいけないようだ。

「先ほど話した俺が契約した死神、それがこの彼女、フレイアなんです」

「え? 」

「死神である彼女の肌に触れると魂を抜かれてしまう。だからあまり近づかないようにしてください。ああ、服越しでしたら一切問題はないですよ」

「な、なるほど、死神……この女性が……ううむ……」

 まだ納得し切れていない様子のカールだったが、しばらく唸った後、納得したように頷いた。

「にわかには理解出来ないのだが、アレスくんの能力を見るに嘘ではなさそうだな……まさか死神が存在するとは……」

「精霊なんか目じゃないぐらい偉いんだぞわしは! ふふふ、尊敬しても良いぞ」

「調子にのるな、ちゃんと反省すんだぞ」

 フレイアに軽くチョップを食らわす俺。

「いった!! 」

 頭を押さえながら恨みがましい目で俺を見るフレイア。

「それで町おこしの件なのですが協力させてください。俺の力が役に立つなら嬉しいです」

「おお!!! ありが……」

 俺の手を取ろうとしたカールの手が止まる。

「あ、俺には触れて大丈夫ですよ」

「そ、そうか」

 そして俺とカールは固い握手を交わしたのだった。
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