落ちこぼれ神父、死神と契約して僻地に飛ばされたのでスローライフを送ります

寿司

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第6話 町長の孫娘 シャロン

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「ふん、お漏らし娘が何の用じゃ」

   じろりとシャロンのことを睨み付けるフレイア。明らかに敵意があるようだ。

「お、お漏らし娘……」

 何とか誤魔化そうとはしているようだが、シャロンがひきつった笑顔を浮かべるのが見て取れた。

「こらフレイア! すいませんシャロンさん」

    慌ててフレイアを宥め、これ以上暴言を吐かないように黙らせる。

「いえ、良いんです。事実ですから……。私の方こそ先ほどはツンケンした態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」

「そんな……。それにしてもイチゴの種を分けて頂けるなんて本当に助かりました。ありがとうございます」

 とんでもない、とふわっとした笑顔を浮かべるシャロン。本来は心優しい普通の少女のようだ。

「アレスさんも町おこしを手伝って下さるんですよね。それにしてもあの強さ、少しびっくりしてしまいました……」

「いや、そんな。大したことありませんよ」

「死神と契約した神父なんて冗談だと思っていたんですが、本当なんですね……」

「あ、そうだ」

 死神という言葉で思い出したのだが、俺はフレイアの力を使ってこの町を守るバリアを張ったことをシャロンに話した。

……あれ? シャロンの動きが止まる。

「えっと、そこのフレイアさんがし、死神? てっきりお姉さんか何かだと……」

「そうじゃ。姉なんかじゃないわ! もっと深ーい関係じゃ」

「そしてフレイアさんの体の一部が町を守っていると……」

   理解できないのは無理もないだろう。

「ですね。といってもその霧に触れるとシャロンさんたちも魂抜かれてしまいますが」

 うーーーんとシャロンは頭を抱えて唸り始めた。

「私の頭では理解が……そもそも神様が人の前に姿を現すなんて聞いたことがありません」

「まあ確かに」

 精霊、神といった人間を超えた存在は基本的に別の世界にいるとされている。
 神のお告げ、精霊との契約、という形で人間と接触することはあるが、姿を見せるなんてありえないことなのだ。
 俺はフレイアにちらりと視線を移す。何だかんだいって俺、凄いものと一緒にいるんだな……。

「わしはアレスに惚れたから力を貸してやろうと思ったんじゃ。ま、惚れた弱みというやつじゃな」

「良く言うよ……」

「アレスさんは凄い人なんですね、神を惚れさせるなんて」

 シャロンが心底感心したように、うんうんと頷く。まてまてまて、この女は俺をからかっているだけだ。

「ふむ、この娘中々見どころがあるではないか! 」

 気を良くしたフレイアが調子にのり始める。
 
「は、はは……個性的な人なんですね」

「すまない、こういう奴なんだ」

 するとシャロンがクスクスと笑い声をあげる。

「この町も賑やかになりそうでとっても嬉しいです。あ、私のことはシャロンと呼んでください」

「よろしくシャロン。俺のこともアレスで良いよ」

「わしのことはフレイア様って呼んで……」

 いらないことを言おうとしたフレイアの口を塞ぐ。

「フレイアで良いよ」

 待て勝手に決めるな! おいアレス! とフレイアは不満げにもごもご喋っているが、聞こえないふりをする。

「心強いお二人が来てくれたことですし、私も宿屋を再開しようと思っているんです」

「宿屋? 」

 はい、とシャロンが頷く。

「昔、私のご先祖様はここで宿屋を営んでいたみたいです。だから私がその宿を復活させてみせようと」

「素敵な夢だな」

 えへへ、とシャロンが照れ笑いを浮かべる。
 笑うと大きな瞳が三日月型に歪み、また違った印象を受ける。

「いつかこの町にたくさん観光客が来たときに、最高のおもてなしをしてあげたいんです。そしたらまた沢山の人が来てくれるでしょう? そんな夢みたいな光景を私は見てみたい」

「楽しみにしてるよ」

「はい! 」

「そうだ、せっかく種を分けて貰ったんだし植えてみよう、もし出来たらまずはシャロンに……」

 俺は一掴みだけ種を摘まむと、パラリと柔らかな土に落とした。

「ふふ、今から植えたら来年の春ぐらいには……」

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 すると、畑から聞こえてくるには不似合いな音が響き渡った。

「え? 」

「へ? 」

 シャロンと言葉が重なった。視線をそちらに移す。

「嘘……でしょ」

 震えた声を出すシャロン、俺は驚きのあまり声が出せなかった。

 そこには、まるでコマ送りのようにグングン育っていくイチゴの姿があった。
 それも普通の大きさではない。みるみる内に、俺の両手でやっと収まりそうなほどの大きさの実が成長していくではないか。

   こんなことが出来るのは彼女しかいない。

「フレイア、また何かしただろう!? 」

「わしじゃない! 言ったじゃろ、わしと契約した時点でお前にも死神の能力が分け与えられた」

    じゃあつまり……。

「こ、これを俺が!? 」

 そうじゃ、と頷くフレイア。

「あえて名前を付けるとするなら、生命の成長を促進させる能力じゃろうな。ま、もうちょっと慣れればコントロール出来るようになろう」

 俺は自分の両手を思わずまじまじと見つめた。
 どんどん俺も人間をやめつつあるな……と心の中でそっと呟くのだった。
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