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春
第5話 畑を復活させよう
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倉庫に眠っていたクワや斧を引っ張り出して来た俺は、まず雑草だらけの畑を何とかしようと試みる。
良く分からない木は切り倒し、雑草は引き抜く。
そして栄養が欠片もなさそうな土を耕す地道な作業だ。
まだ春になったばかりだというのに俺の額には汗がびっちりと並び、服なんて脱ぎ捨ててしまいそうになるぐらい暑い。
フレイアは心底理解不能といった様子で、俺を見ているのだった。
「そんなのわしの魔法で一発なのに」
木陰でくわーと欠伸をするフレイア。
「こういうのは自分の手でやってこそなんだよ! 」
確かに大変ではあるが、俺は生まれて初めて生きがいというものを感じていた。
家にいた頃は四六時中家庭教師がいて、スケジュールがみっちり詰め込まれている窮屈な生活だった。
いつも屋敷の窓から同じ年ぐらいの子どもたちが遊んでいるのを見ては羨ましく思っていた。
いつかこんな制約だらけの生活を抜け出して、自由にマイペースに暮らしたい。
まさかその夢がこんなに早く叶うとは思っていなかった俺は、飛び上がりそうなぐらい楽しんでいた。
「作物を育てて、牛や鶏を飼って……スローライフか、悪くないな」
自分で作った野菜と育てた畜産物で生活してのんびり過ごす。
考えるだけでワクワクするではないか。
「男のロマンというやつはよく分からんの」
フレイアにはこのロマンは分からないかもしれない。しかし彼女との契約のお陰で身体能力が上昇しているため、いくらでも畑を耕せそうだ! いくら感謝してもしきれない。
「フレイアも手伝ってくれよ、ほら、俺が切った薪を集めるだけで良いから」
「仕方ないのう」
やれやれと立ち上がったフレイアはのそのそと薪を集める。口ではそう言っていたものの、笑顔を浮かべていて少し楽しそうだ。
「よし、だいぶ雑草やら邪魔な木は処理出来たな。後は土だけど……」
俺はこういうことには詳しくないのだが、明らかにこの土はパサパサに乾いていて栄養がなさそうだった。
まるで砂のようで、湿り気がなさすぎる。
「これじゃあ何も育たなそうじゃな」
フレイアが土に触れてそう言った。
「えーっと、確か落ち葉を肥料にしたりミミズを放したりするんだったか……? 」
何かの本でそんな記述を見た気がする。
ミミズは良い土を作るのに必要不可欠だとか。
「ミミズ! 」
フレイアが悲鳴にも似た声をあげた。
「ミミズだけは嫌じゃ! あんなニョロニョロした気持ち悪いものをわしの住処にいれるでない! 」
「うーん」
意外なことにフレイアはミミズが苦手らしい。
神様でも苦手なものがあるんだな。
「大体そんなにちんたらしてたら何年かかるか分からぬ! 」
「そうは言っても仕方ないだろ」
「ミミズだけは受け入れられん、こうするんじゃ! 」
フレイアは両手で土に触れると、ぎゅっと目を閉じた。
するとまるで脈を張るように、フレイアを中心にして、彼女の力が畑に広がっていく。
そして一瞬蒼い光が炸裂し、俺は思わず目を閉じた。
「見てみい! 」
そしてフレイアの声に従って目を開けると、カラカラだった土が、栄養をたっぷり持ったフカフカの土に変化しているのだった。
「これは……」
「大地にわしの生命エネルギーを分けてやったのじゃ。これだけ栄養豊富なら作物も育つじゃろ。いいか!! これでミミズの案はなしじゃからな!! 」
俺はただコクリと頷くしかなかった。
死神という名前からただ死を与える存在なのかと思っていたけど、フレイアの能力はそんなものではない。
生死を司るというのが彼女の本質なのかもしれない。
「やっぱり凄いな……」
「ほ、ほ、ほ、褒めたってなんもあげんぞ。ほら、早う種を撒いてみい」
顔を真っ赤にしたフレイアが俺の腕をグイグイ引っ張る。
「ああ! 」
確か国を発つ前に買っておいたはずだ。
そして俺は自分のポケットをまさぐり、とんでもないことに気が付く。
「フ、フレイア、やばい」
「何じゃ? 」
「種、買うの忘れた……」
はあああああ!?!? というフレイアの声が響き渡ったのだった。
◇◇◇
「そんなに落ち込むことなかろう、種ぐらいこの町の人が持ってるんじゃないか? 」
フレイアが必死に慰めてくれるが、今の俺には誰の声も届かない。
「違うんだフレイア……俺、ここに来たらまずはイチゴを育てようと思っていたんだ……」
「謎のこだわりじゃ……」
イチゴを腹いっぱい食べてみたい、そんな子供の頃の願いをまず叶えようと思っていた。
それなのに種を買い忘れるなんて……。
……致命的だ。
「俺はどうしようもない屑だ……」
深いため息をつく。
「まあまあ、イチゴの種ぐらい近くの町で買ってくれば良いんじゃないか! 」
「それもそうだな……」
確かに種はどこかで買えるかもしれない。
しかし重要なものを忘れたというミスは消えないのだ。
そのときだった。
「……あの、イチゴの種ならここに」
女神のお告げ。
ぱっと俺が顔を上げると、そこには困った顔をしたシャロンがそこに立っていたのだった。
そしてその手には、イチゴの種がたっぷり入った麻袋を握りしめていた。
良く分からない木は切り倒し、雑草は引き抜く。
そして栄養が欠片もなさそうな土を耕す地道な作業だ。
まだ春になったばかりだというのに俺の額には汗がびっちりと並び、服なんて脱ぎ捨ててしまいそうになるぐらい暑い。
フレイアは心底理解不能といった様子で、俺を見ているのだった。
「そんなのわしの魔法で一発なのに」
木陰でくわーと欠伸をするフレイア。
「こういうのは自分の手でやってこそなんだよ! 」
確かに大変ではあるが、俺は生まれて初めて生きがいというものを感じていた。
家にいた頃は四六時中家庭教師がいて、スケジュールがみっちり詰め込まれている窮屈な生活だった。
いつも屋敷の窓から同じ年ぐらいの子どもたちが遊んでいるのを見ては羨ましく思っていた。
いつかこんな制約だらけの生活を抜け出して、自由にマイペースに暮らしたい。
まさかその夢がこんなに早く叶うとは思っていなかった俺は、飛び上がりそうなぐらい楽しんでいた。
「作物を育てて、牛や鶏を飼って……スローライフか、悪くないな」
自分で作った野菜と育てた畜産物で生活してのんびり過ごす。
考えるだけでワクワクするではないか。
「男のロマンというやつはよく分からんの」
フレイアにはこのロマンは分からないかもしれない。しかし彼女との契約のお陰で身体能力が上昇しているため、いくらでも畑を耕せそうだ! いくら感謝してもしきれない。
「フレイアも手伝ってくれよ、ほら、俺が切った薪を集めるだけで良いから」
「仕方ないのう」
やれやれと立ち上がったフレイアはのそのそと薪を集める。口ではそう言っていたものの、笑顔を浮かべていて少し楽しそうだ。
「よし、だいぶ雑草やら邪魔な木は処理出来たな。後は土だけど……」
俺はこういうことには詳しくないのだが、明らかにこの土はパサパサに乾いていて栄養がなさそうだった。
まるで砂のようで、湿り気がなさすぎる。
「これじゃあ何も育たなそうじゃな」
フレイアが土に触れてそう言った。
「えーっと、確か落ち葉を肥料にしたりミミズを放したりするんだったか……? 」
何かの本でそんな記述を見た気がする。
ミミズは良い土を作るのに必要不可欠だとか。
「ミミズ! 」
フレイアが悲鳴にも似た声をあげた。
「ミミズだけは嫌じゃ! あんなニョロニョロした気持ち悪いものをわしの住処にいれるでない! 」
「うーん」
意外なことにフレイアはミミズが苦手らしい。
神様でも苦手なものがあるんだな。
「大体そんなにちんたらしてたら何年かかるか分からぬ! 」
「そうは言っても仕方ないだろ」
「ミミズだけは受け入れられん、こうするんじゃ! 」
フレイアは両手で土に触れると、ぎゅっと目を閉じた。
するとまるで脈を張るように、フレイアを中心にして、彼女の力が畑に広がっていく。
そして一瞬蒼い光が炸裂し、俺は思わず目を閉じた。
「見てみい! 」
そしてフレイアの声に従って目を開けると、カラカラだった土が、栄養をたっぷり持ったフカフカの土に変化しているのだった。
「これは……」
「大地にわしの生命エネルギーを分けてやったのじゃ。これだけ栄養豊富なら作物も育つじゃろ。いいか!! これでミミズの案はなしじゃからな!! 」
俺はただコクリと頷くしかなかった。
死神という名前からただ死を与える存在なのかと思っていたけど、フレイアの能力はそんなものではない。
生死を司るというのが彼女の本質なのかもしれない。
「やっぱり凄いな……」
「ほ、ほ、ほ、褒めたってなんもあげんぞ。ほら、早う種を撒いてみい」
顔を真っ赤にしたフレイアが俺の腕をグイグイ引っ張る。
「ああ! 」
確か国を発つ前に買っておいたはずだ。
そして俺は自分のポケットをまさぐり、とんでもないことに気が付く。
「フ、フレイア、やばい」
「何じゃ? 」
「種、買うの忘れた……」
はあああああ!?!? というフレイアの声が響き渡ったのだった。
◇◇◇
「そんなに落ち込むことなかろう、種ぐらいこの町の人が持ってるんじゃないか? 」
フレイアが必死に慰めてくれるが、今の俺には誰の声も届かない。
「違うんだフレイア……俺、ここに来たらまずはイチゴを育てようと思っていたんだ……」
「謎のこだわりじゃ……」
イチゴを腹いっぱい食べてみたい、そんな子供の頃の願いをまず叶えようと思っていた。
それなのに種を買い忘れるなんて……。
……致命的だ。
「俺はどうしようもない屑だ……」
深いため息をつく。
「まあまあ、イチゴの種ぐらい近くの町で買ってくれば良いんじゃないか! 」
「それもそうだな……」
確かに種はどこかで買えるかもしれない。
しかし重要なものを忘れたというミスは消えないのだ。
そのときだった。
「……あの、イチゴの種ならここに」
女神のお告げ。
ぱっと俺が顔を上げると、そこには困った顔をしたシャロンがそこに立っていたのだった。
そしてその手には、イチゴの種がたっぷり入った麻袋を握りしめていた。
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