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春
第10話 可憐な女騎士 ミシェル
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「パンドラ・ベアの素材は高く売れるらしいからの。これで当分食うに困らなそうじゃ」
「どこに売れば良いんだろうな」
倒した熊を捌き、牙やら爪やら売れそうな部分だけ貰っていく。
お肉は硬くてとても食べられるような代物ではないので諦めるとしよう。
「それにしてもその娘、全然起きんの」
再び気絶したその女性を取り敢えず教会の長椅子に寝かせる。
しかし彼女はくうくうと寝息をたてているばかりで目覚める気配がない。
「何者なんだろうな? 見た感じ騎士か護衛の人かな」
「んん……」
すると女性がゆっくりと目を開いた。
「あ、目覚めたか」
「ん……私は一体……」
「町の入り口で倒れていたんですよ。大丈夫ですか? 」
そうですわ! とその女性が体を起こした。
「何か霧のようなものに触れたらことんと意識がなくなってしまって……」
「あー、それは俺らのせいです」
まぁ、そうでしたの。と微笑を浮かべる女性。
「申し遅れましたわ。私、この町の騎士として配属されましたミシェルと言います」
「ミシェル……さん。あれ、騎士は確か逃げ出したって……」
「ミシェルで構いません。そうなんですよ、前任のベルトレさんが逃げ出したものですから代わりに私が指名されたんです」
なるほど、一応騎士というシステムは機能してるんだな。
「これからお世話になりますわ、えっと……」
「神父アレスだ、それでこっちは……」
俺が言い終わるより先に、フレイアが声をあげた。
「死神フレイアじゃ! 」
ああ、間に合わなかった。
「死……神? 」
キョトンとした顔で俺たちの顔を見比べるミシェル。この説明を一体俺はどれほどの人数にすれば良いのだろうか。
「えっと、ミシェル、これは嘘ではなくて……」
「まぁ貴女が! それではベルトレさんが怖がってた死神とは貴女のことでしたのね」
あれ? 意外と受け入れてる。
驚くどころか、少し嬉しそうだ。
「そうじゃ、精霊なんかよりずっと偉いんじゃよ。尊敬しろ! 」
「はい、よろ……」
ガッとフレイアの手を取るミシェル。
あまりの早さで俺にも止めることが出来なかった。
そして彼女は再び気を失ったのである。
◇◇◇
「すまない、フレイアの肌に触れると魂を抜かれてしまうことを先に言えば良かった」
ミシェルに魂を戻す。
目が覚めた彼女はうつ向いてブルブルと震えていた。
「す、すまぬ。わしがもっと厚着をしていれば……」
珍しくフレイアが慌てた様子で、ミシェルに謝り倒しているのであった。
「本当にすまない、フレイアに悪気はないんだ」
「……ですわ」
ん? ミシェルが何か呟いたようだが、声が小さくてよく聞こえない。
「ぬ? 」
「素晴らしいですわ!! 」
そしてそこには目をキラキラさせてフレイアを見つめるミシェル。
「え? え? 」
「私、あんな刺激を体験したのは初めてです。今までにない快楽が身を駆け巡りました」
ほぅ……と恍惚の表情を浮かべるミシェル。
頬は紅く紅潮し、心なしか息も荒い。
「は? 」
「私、ギリギリまで自分を痛め付けるのが大好きなんです」
「いや、そんな良い笑顔で言われてものう……」
「でも死んだらこの快楽はもう味わえないでしょう? だからいつもセーブしていたんですけど、フレイアさんのお陰で魂を取られる刺激を味わえて……もう素晴らしかったですわ」
はあはあとフレイアにすり寄るミシェルの目はマジだ。
思わず二人の間に割って入る俺。
「まさかミシェルがここに来たのって……」
「お恥ずかしいことに、ギリギリのスリルを味わうために下着姿で単身で魔物に挑んだのが上層部にバレて……」
左遷です。
ぺろっと舌を出すミシェルだが、そんな可愛い動作で誤魔化せるもんか!
「でもでも、私ここに来れて本当に幸せです。あの霧に突っ込めばいつでも最高の快楽が得られるんですね!? 死神様、一生貴女についていきますわ」
フレイアが助けを求める目で見る。死神より強い人間、もしかしたらそれがミシェルなのかもしれない……。
こうしてイルゼルムに、変態ドM騎士ミシェルが来たのである!
「どこに売れば良いんだろうな」
倒した熊を捌き、牙やら爪やら売れそうな部分だけ貰っていく。
お肉は硬くてとても食べられるような代物ではないので諦めるとしよう。
「それにしてもその娘、全然起きんの」
再び気絶したその女性を取り敢えず教会の長椅子に寝かせる。
しかし彼女はくうくうと寝息をたてているばかりで目覚める気配がない。
「何者なんだろうな? 見た感じ騎士か護衛の人かな」
「んん……」
すると女性がゆっくりと目を開いた。
「あ、目覚めたか」
「ん……私は一体……」
「町の入り口で倒れていたんですよ。大丈夫ですか? 」
そうですわ! とその女性が体を起こした。
「何か霧のようなものに触れたらことんと意識がなくなってしまって……」
「あー、それは俺らのせいです」
まぁ、そうでしたの。と微笑を浮かべる女性。
「申し遅れましたわ。私、この町の騎士として配属されましたミシェルと言います」
「ミシェル……さん。あれ、騎士は確か逃げ出したって……」
「ミシェルで構いません。そうなんですよ、前任のベルトレさんが逃げ出したものですから代わりに私が指名されたんです」
なるほど、一応騎士というシステムは機能してるんだな。
「これからお世話になりますわ、えっと……」
「神父アレスだ、それでこっちは……」
俺が言い終わるより先に、フレイアが声をあげた。
「死神フレイアじゃ! 」
ああ、間に合わなかった。
「死……神? 」
キョトンとした顔で俺たちの顔を見比べるミシェル。この説明を一体俺はどれほどの人数にすれば良いのだろうか。
「えっと、ミシェル、これは嘘ではなくて……」
「まぁ貴女が! それではベルトレさんが怖がってた死神とは貴女のことでしたのね」
あれ? 意外と受け入れてる。
驚くどころか、少し嬉しそうだ。
「そうじゃ、精霊なんかよりずっと偉いんじゃよ。尊敬しろ! 」
「はい、よろ……」
ガッとフレイアの手を取るミシェル。
あまりの早さで俺にも止めることが出来なかった。
そして彼女は再び気を失ったのである。
◇◇◇
「すまない、フレイアの肌に触れると魂を抜かれてしまうことを先に言えば良かった」
ミシェルに魂を戻す。
目が覚めた彼女はうつ向いてブルブルと震えていた。
「す、すまぬ。わしがもっと厚着をしていれば……」
珍しくフレイアが慌てた様子で、ミシェルに謝り倒しているのであった。
「本当にすまない、フレイアに悪気はないんだ」
「……ですわ」
ん? ミシェルが何か呟いたようだが、声が小さくてよく聞こえない。
「ぬ? 」
「素晴らしいですわ!! 」
そしてそこには目をキラキラさせてフレイアを見つめるミシェル。
「え? え? 」
「私、あんな刺激を体験したのは初めてです。今までにない快楽が身を駆け巡りました」
ほぅ……と恍惚の表情を浮かべるミシェル。
頬は紅く紅潮し、心なしか息も荒い。
「は? 」
「私、ギリギリまで自分を痛め付けるのが大好きなんです」
「いや、そんな良い笑顔で言われてものう……」
「でも死んだらこの快楽はもう味わえないでしょう? だからいつもセーブしていたんですけど、フレイアさんのお陰で魂を取られる刺激を味わえて……もう素晴らしかったですわ」
はあはあとフレイアにすり寄るミシェルの目はマジだ。
思わず二人の間に割って入る俺。
「まさかミシェルがここに来たのって……」
「お恥ずかしいことに、ギリギリのスリルを味わうために下着姿で単身で魔物に挑んだのが上層部にバレて……」
左遷です。
ぺろっと舌を出すミシェルだが、そんな可愛い動作で誤魔化せるもんか!
「でもでも、私ここに来れて本当に幸せです。あの霧に突っ込めばいつでも最高の快楽が得られるんですね!? 死神様、一生貴女についていきますわ」
フレイアが助けを求める目で見る。死神より強い人間、もしかしたらそれがミシェルなのかもしれない……。
こうしてイルゼルムに、変態ドM騎士ミシェルが来たのである!
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