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春
第16話 鍛冶屋の娘 マルタ
しおりを挟む「すまん!!!! まさかアレスだとは思わなかった」
びしっ!!!と腰を直角に曲げて謝罪をするリュカ。
お手本のような謝罪でかえって恐縮してしまう。
「いえ、勝手に入った俺も悪いので…… 」
後ろからリュカにぶん殴られた俺は少々気を失い、介抱されていたらしい。
目が覚めるとベッドの上に寝かされていた。
「マルタが暴漢に襲われているのかと思って……本当に申し訳ない」
大丈夫です、気にしないで下さい、と何度言ってもリュカはひたすら頭を下げ続ける。
娘の悲鳴を聞いてやったことだ、誰もリュカを責めることは出来ない。
むしろ俺が彼に謝らなければいけないだろう。
「俺のことは嫌いになっても良いからマルタとは仲良くしてやってくれ……」
リュカの娘とはさっき出会った少女のことだったらしい。でもそれにしてはリュカはごく普通の人間の男だ。マルタとは似ても似つかない。
俺のそんな気持ちに気がついてか、リュカが話始めた。
「マルタの母、つまり俺の妻は獣人だ。だからマルタはハーフということになるな」
なるほど、それなら合点がいく。
「初めて私を怖がらない人に会ったと凄く嬉しそうだったぞ。正直、あんなに嬉しそうな娘を見たのは久しぶりだ」
「そうなんですね。俺、てっきり泣かせてしまったのかと……」
そういえばマルタの姿がない。どこかへ行ってしまったのだろうか?
「ははは、まあ本人から聞いてみると良い。マルタ、いるんだろ? 」
返事はない。しかしゆっくりとドアが開いた。そして現れたのは申し訳なさそうに耳を垂れさせるマルタ。
「……」
彼女は何も答えず、俺から視線を外す。
「やあ、マルタ」
「……ごめんなさい。私の父が」
「それはもう良いって! ほら、帽子、これを届けに来たんだ」
そう言って俺は彼女に帽子を手渡す。マルタは恐る恐るそれを受けとると、耳を隠すようにして被り直した。
この分厚い皮の帽子は耳を隠すためのものだったのだ。
「……えっと、でも」
きっと根が真面目なのだろう。尚も謝罪しようとするマルタに、俺はこう言った。
「じゃあ、殴られたお詫びに俺の友達になってくれよ。それでどうだい? 」
「え……」
驚いたように目を丸くするマルタだが、次第に笑顔になる。
「……うん」
こくりと頷いた彼女は子供のように無垢な笑顔だった。
「マルタ~~~良かったな~~~~」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったリュカはマルタに抱きつこうとしたが、
「……パパ、うるさい」
氷のような娘の一言であっさり撃沈した。
「冷たい……でもそんなとこも可愛いぞマルタ!!! 」
「……うざい」
想像以上にリュカは親バカのようだ。
「アレス!! 」
そして不意に俺に声をかける。
「は、はい!? 」
思わず上擦った声をあげる俺。そしてリュカは俺の肩をがっちりと掴んで、こう言った。
「マルタが大変魅力的なのは分かる。だがお付き合いなんてものは俺は認めないからな!! 」
目が据わっている。
並々ならぬ気迫を感じて、俺は思わず目をそらす。
「お、お付き合い!? 」
「確かに君は良い男だ。だが男女交際なんてまだ早い!!! 娘に手を出してみろ……俺は君を……」
「パパ!! 」
ガン!! と大きな音が部屋中に鳴り響いた。
娘にぶん殴られて気絶するリュカ。あ、でも顔は幸せそうだ……。
「……ごめんなさい、パパが余計なことを言って」
はぁはぁと肩で息をしながらいうマルタ。
「いやいやいやいや、良いんだ」
流石獣人、ツッコミの反応が早い。
「……私、パパの鍛冶屋を手伝うことになってるの」
「鍛冶屋? 」
こくりと頷くマルタ。
「武器とか防具とか作る。あ、道具なんかも買ったり売ったりするつもり……」
だから、とマルタは一度言葉を止める。
「……遊びに来てくれると、嬉しい」
「ああ必ず」
こうして俺は鍛冶屋の娘 マルタと出会いを果たしたのである!
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