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第5話 突然のパーティ追放
しおりを挟む「おっはよー」
やっぱりベッドで眠ると気持ちが良い。
ぐっすり眠ったあたしは昨日買った踊り子の服に着替えると、意気揚々と食堂へと向かった。
既にそこにはギルの姿と……隣には見知らぬ黒髪ツインテールの美少女。華奢な体に大きな瞳。魔女のような服装をした彼女は敵意を剥き出した目であたしのことを見つめる。
「おはようルーナ」
ギルの声も何となく重い。
ん? 一体何かあったのだろうか?
「ぐっすり眠れたわ! ん、そちらの女の子は? 」
「……何なのそのはしたない格好は」
美少女はあたしの質問に答えることなく、刺々しい声音でそう呟いた。
「そう? 動きやすくてあたしは気に入ってるけどね」
女同士のバチバチした空気に耐えられなくなったのか、ギルが口を挟んだ。
「この娘はエルメ。魔法使いの女の子だ。昨日出会って、一緒に戦ってくれると言ってたんだけど……」
「こんな人が聖女だなんて信じません! 」
エルメと言う少女はバンと強くテーブルを叩いた。
「わぁ、怖い」
そういえばこのゲーム、ルーナの他にもヒロインが数人いるんだっけ。その中のこのエルメという少女の姿もあった気がする。
エルメというキャラクターがどんな性格だとかどんな行く末を辿るのかというのはあたしにはさっぱり分からないが、気の強そうな少女であるのは確かだ。
「こんな人、勇者様の傍にいる資格なんてありません! 第一聖女としての力も本当にあるのですか? 」
チワワみたいにキャンキャン吠える彼女。
気が強いだけでなく真面目な性格でもあるようだ。
「一応回復魔法? は使えるっぽいよ。使ったことはないけどね」
そんなエルメを尻目に、あたしは朝御飯であるトーストをかじる。うん、濃厚なバターと小麦の風味が良くて美味しい。
「一応って……第一、あなたは神聖魔法をギルに使おうとしたらしいじゃないですか! 」
「お、おいそのことは……」
ギルが慌てた様子でエルメの口を塞ごうとするが、もう遅い。神聖魔法ってのは多分光の矢のことかな?
「あれはわざとじゃないんだってー」
「そんなことでは困ります! もし光の矢が当たり、ギルが死んでたら貴方は世界を滅ぼす存在になるんですよ! 」
顔を真っ赤にして詰め寄るエルメ。
「気を付けるよ、ごめんね」
ここでコーヒーを一口。
「……もう無理ですよこの人」
エルメは諦めたように肩を落とすと、ギルと目配せして頷きあった、
「こんなこと言うのは申し訳ないが、ルーナにはパーティーを外れて貰いたい」
「うん、良いよ」
「そうだよな、いきなりこんなこと言われても……って良いよ?!」
「だから良いよって言ってるじゃん」
あたしの死亡フラグを回避するためにはそもそも戦わなければ良い。そうすれば生け贄になんてならずにすむはず。……この申し出はあたしにとっては願ったり叶ったりというやつだ。
「貴方には聖女として人々を救うという使命感はないのですか?! 」
エルメが今にも殴りかかってきそうな勢いで身を乗り出す。
「えー……そんなこと言われても……。あたし死にたくないし」
そりゃあたしだって自分の命が大事。美味しいものたくさん食べたいし、お洒落を楽しみたい。それに彼氏だって欲しいし。
それを聞いたエルメは何か言いたげに口をもごもごと動かした後、はぁーーーーーーと深く溜め息をついた。
「もう貴女と話すことなんてありません。さようなら」
エルメはそう言うと、不機嫌そうに宿屋から出てしまった。残されたギルはアワアワと慌てた様子だったがあたしと目が合うとこう呟く。
「ルーナは変わっちゃったよね。俺は前のルーナの方が好きだったよ」
「前のあたしの方が都合が良かっただけでしょ? ほらほら彼女を追いかけた方が良いんじゃない? 」
思わぬ反撃を受けて面食らったようにギルは目を丸くした。そしてあたしの言われた通りにエルメを追ってバタバタと出ていったのだった。
残されたあたしは内心ほくそ笑みながらトーストのおかわりを注文する。宿屋の女将が捨てられた女に同情してくれたのか、アイスクリームのサービスをしてくれたがあたしはそれも喜んで食べきったのだった。
「これで死亡フラグは回避ね」
あたしは心の中でこう呟いた。
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