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第44話 取り戻した日常
しおりを挟む短い時間で色々なことが起きたな……。
家に帰宅した俺は早速ベッドに寝転ぶ。
ガーゴイルの後処理は騎士様たちに任せることにした。俺はただの一般人なのだから出来ることは何もないだろう、うんうん。
「ヨリーお腹空いたー! 」
シエルがちょこちょこと近付いてくると、俺の横に寝転ぶ。顔色も良いし元気そうだ。しかしこうして見るとこの美少女が一人でガーゴイルを狩り尽くしたなんて信じられない。
「そうだな、ご飯にするか」
昨日からまともに何も食べていない。
でも作る気が起きないな……。
年甲斐もなく走り回ったからか足腰が悲鳴をあげているのが分かる。
「ルーナの店にでも行くか? ……ああでも流石に営業してないか」
ガーゴイル襲撃事件からそう経っていない。
もしかしたら怪我をしてるかもしれないし、何ならまだ避難しているかもしれない。
「うーん、そうですね…… 」
シエルもそう考えているのか顔を曇らせた。だからと言って他の店が営業しているとも限らない。
もしかしたら当分はどこも閉まっているかも。
「しゃーない、有り合わせで何か作るか。シエル、手伝ってくれ」
「うん! 」
ベッドから起き上がった俺たちは、おぼつかない足取りでキッチンに向かうのだった。
◇◇◇
「あー、残ってるのは小麦粉、卵、砂糖、牛乳ぐらいか。そろそろ食材を買い足さなきゃな」
俺一人なら別にどんな食生活をしてたって構わないのだが、育ち盛りのシエルにそんなことを強いるわけにはいかない。
「パンケーキ! パンケーキを作りましょう! 」
目をキラキラと輝かせるシエル。
ぴょんぴょんと跳び跳ねてアピールする。
「ああ? パンケーキは食べたばかりだろ。甘いものばかり食べてると太るぞ」
「大丈夫です! その分運動しましたから」
「でもな……この前ハチミツを使いきったんだよな……」
「えー! 味のないパンケーキですか……」
ああそういえば油は残ってたな。
そうだ、と俺はとある食べ物を思い付いた。
「今日は別の美味しいものを作ってやるよ。じゃあ小麦粉と卵と牛乳と砂糖を混ぜ合わせてくれ」
「……? それってパンケーキと同じでは? 」
違う違う、と俺はにやりと笑う。
「良いから。やってみてくれ」
シエルは不思議そうな顔をしていたものの、直ぐに俺の指示通り作業を始めた。
何度も作っているからか大分手慣れた様子だ。手早く卵を割り、生地を作っていく。
そして俺は鍋に油を入れ、揚げ物を準備をする。
まあ大体何を作るか分かるかもしれない、そう、ドーナツだ。
疲れたときは甘いものが一番。
それにドーナツは安く上がりだ。
火の魔結晶を1つ割ると中火ぐらいの火がついた。ま、こんなものだろう。
「シエル、生地出来たか? 」
「うん! 出来ましたよ! 」
得意気な顔をしながらシエルがボウルを差し出した。うん、上手く生地が出来ている。
「ありがとう、じゃあこれを揚げていくぞ」
俺はその生地をリング状にすると、油の中に入れていく。ぱちんと油が弾ける音がして、一瞬だけシエルが体を震わせた。
「私もやりたいです! 」
キラキラと期待に満ちた目で俺を見上げるシエル。
ドーナツ作りに興味を持ったらしい。
「駄目だ駄目だ、油は危ないんだぞ。火傷したらどうする」
「えー!! 」
「油をひっかけたら危ないだろ、向こうで待ってろ」
シエルは不服そうに俺をジトーと見つめる。
「ケチ」
「何て言っても駄目だぞ。ま、お前がもう少し大きくなったら教えてやるよ」
「……私、大きくならないですもん」
「え? 」
「私はずっとこの姿のままです。成長なんてしません」
そう言うシエルはドキッとするような大人びた表情をする。
「そんな訳あるか」
そんな軽口で返すのが精一杯だ。
「本当です! 私は多分永遠にこの姿なんですよ。死ぬことも老いることも出来ないんです」
「永遠に生きる? そんな生物はいないさ。シエルはきっと成長がゆっくりなだけだ。いずれお姉さんになるよ」
そうかなーとシエルは首をかしげる。
「ヨリは私を置いて天国に行っちゃわないで下さいね」
「おいおい、俺はまだ若いぞ。そう簡単に死なないさ」
良かった、とシエルは安心したように微笑んだ。
しかしやはりその瞳には悲しみの色が滲んでいる。
「じゃ、もしシエルが本当に不老不死って言うなら俺も不老不死になってやるよ」
「本当ですか? 」
「ああ、これだけ金があれば不老不死になる薬だってどっかにあんだろ。それなら良いだろ? 」
「ふふ、そうなれば嬉しいですね。ずっと一緒です」
「お、丁度揚がったぞ。あち! 」
油の海の中の浮き上がったドーナツを菜箸で拾い上げ、皿の上に載せる。狐色にこんがり揚がっている。
「うわぁ!! 凄いです!! 」
キラキラといつもの子どもの顔になるシエル。
俺の顔を見ると、これ食べても良いんですか? と遠慮がちに聞いた。
「良いけど、火傷に気を付けろよ。熱いから」
「はい! 」
シエルは恐る恐るドーナツを掴むと、一口かじった。すると驚いたように目を丸くした後、興奮ぎみに俺の服を掴む。
「凄い!! 凄いですこれ! ふわふわででもサクサクで! 何て言うお菓子ですか? 」
「危ないから服掴むな。これはドーナツってやつだ」
「ドーナツ……美味しいです! 」
「どんどん揚がるからたくさん食べろ。揚げ立てが一番美味いからな」
「ふぁい! 」
そう答えたシエルは、もう既に両手にドーナツを抱えていた。
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