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悪役令嬢、考え直す
しおりを挟むエミリアと接してみての感想、うん……特に悪い子ではなさそうだった。可愛いくてよく笑い、それでいて礼儀正しい。
何一つ欠点のない良い子という印象を受けた。
エドワードとの関係も感じられなかったし、これはもしかすると、私が記憶を取り戻したことで物語が書き換えられたのではないだろうか?
それならそれで良いのだけどね……。皆が幸せハッピーエンドだし。
そして今日は間の悪いことにエドワードとのデートの日であった。一応婚約者である私はそれを断る権利はない。
こうしてたくさんのメイドに綺麗にメイクされ、ドレスに着替えさせられ、私はエドワードとのデートに挑むことになったのである。
◇◇◇
今日のデートはお庭で優雅に紅茶や焼き菓子を戴きながらのお喋り。
の、はずなのだが……どうしよう、まったく会話が弾まない。
「今日は良い天気ですね」
「ああ」
ーー会話終了
というかエドワードったら何だか上の空だし、どこか虚空を見つめている。
「エドワード様どこかお体でも悪いのですか……? 」
私がそう問い掛けると正気に返ったように彼がこう言った。
「いや、そんなことはない。すまない」
「え、エドワード!? 」
バサッと物が落ちる音がした。
む、この声はわが妹。
そちらに視線を向けると、手から本を落としたらしいエミリアが口をあんぐり開けて固まっていた。
「エミリア!? 」
思わず立ち上がるエドワード。
そして二人は駆け寄ると楽しげに顔を見合わせた。
「エミリア、どうしてここに!? 」
「実は、私がクリミア家の娘ということが分かって昨日からお世話になっているんです」
「そんなことが……」
明らかに私とは違う表情を見せるエドワード。いやそれも仕方ない。このゲームをやった経験のある私だから分かるが、この12月の時点で相当二人の仲は深まっており、私が知らない色んな困難を乗り越えてきているのだ。
ただ明らかにふにゃっとした表情をする婚約者を見て面白くないことは面白くない。
そしてこのイベントが起こったということは私の死亡イベントもきちんと存在するということだ。
「でもエミリアに会えて良かった。もう二度と会えないのかと思うと……死んでしまいそうだった」
「私も貴方のことを忘れたことなんてない……」
婚約者そっちのけで二人の世界に入り込むエドワードとエミリア。
後ろにはハートマークが飛び交っていそうなイチャイチャぶりだ。
えっと、私もいるんですが……。
「あのー、お二人ともお知り合いでしたの? 」
あまりにいたたまれなくてつい口を出してしまった。
慌てた顔でエミリアがエドワードから離れる。
「はいお姉様、エドワードにはデュセリクス学園で大変お世話になっていましたの」
デュセリクス学園というのはエミリアとエドワードが通っていた学校の名前。
そう、一応このゲームは学園を舞台にした恋愛ゲームだったのだ。
魔法や剣術やら色々なことを学ぶ由緒ある学校なのだがまあこの説明はこのエドワードルートではあまり関係がないのでさらっと流します。
「まぁ、そうでしたの。妹がお世話になりましたわ」
私は努めて優しい笑顔を心掛ける。ここで二人から嫌われる訳にはいかないのだ。
「えっと、それでエドワードはどうしてここに? お姉様ともお知り合いなのですか?」
するとエドワードが苦虫を噛み潰したような顔をしてこう絞り出した。
「……イリアと私は婚約していて、それで……」
おいおい、そんなに私と婚約しているのが嫌なのか!
「そんな……」
口をポカンと開けたまま立ち尽くすエミリア。そしてみるみる内にその大きな瞳に涙が溜まっていく。
「違うんだエミリア! これは親同士が決めた結婚で……」
「……っ」
エミリアは声にならない嗚咽を漏らすと、そのままどこかに走り去ってしまった。
「エミリア! 話を聞いてくれ! 」
まるで磁石のようにエミリアに引き寄せられて走り去っていくエドワード。
その間私はただ黙って彼らのイチャイチャコントを眺めていた。
「……えっと、私一応婚約者なんですけど」
返事をする者は誰もいない。
ですよねー。
一人残された私はグイと紅茶を飲み干すと、お皿に残っていた焼き菓子を平らげる。
うん、やっぱり考えるときには甘いものが一番だ。
この状況を見るに、二人の仲は相当深まっているようだ。
しかし私はエミリアに何の意地悪もしていないので婚約破棄を言い渡される筋合いはないはず。
「このままおとなしーく、地味に生きていこう……」
そうすれば死亡イベントも回避出来るはずなのだから。
確かにいたたまれなさはあるけど、殺されるよりはマシだ。
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