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寿司

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エンディング後

悪役令嬢、忘れる

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 私の名前はイリア=クリミア。


 ーーいや違う、私の名前はイリア=リセンティア。

 ロキと婚約した私はリセンティア城に引っ越すことになった。まあ王妃になったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが……。

 私たちの結婚のニュース、そしてエドワードとエミリアの企みはあっという間に国民にも知れ渡ることとなり、一躍時の人となってしまった。

 私は悲劇に見舞われたものの大逆転した令嬢、ロキは勇敢なヒーローとして扱われることになり、国民の大半は私たちへ好意的であった。

 一方、エドワードたちへのバッシングは酷く、極刑を望んでいる人たちも少なくはないらしい。

 それを裁くために二人は牢屋に閉じ込められ、私は彼らがどんな生活をしているのか分からない。

 んで、肝心の私はというと、正直運命を回避することが出来たのでどーでもいいと思っている。

 それよりも、これから先はゲームでは起こり得ない物語。つまり私ですらこの後の物語は想像もつかないのである。

 どちらかというとその不安の方が私を悩ませていた。

「よ、変な顔してどうしたんだ」

「変な顔は余計よ」

 部屋に入ってきたのは案の定私の旦那、ロキである。

 国王になってからと言うもの忙しくしておりここのところ顔を合わせる時間もなさそうだった。

 ロキは、はーーっと深く息を吐くと、私のベッドに倒れ込む。

「ちょ、ちょっと。それ私のベッド! 」

「……疲れた」

 そう言われると私は何も言えない。彼は私のために王という責務につき、駆け回ってくれているのだ。

 私は彼の柔らかな黒髪をそっと撫でる。

「お疲れ様」

 なんちゃって、ちょっと子ども扱いし過ぎたかな?

「……もっとやれ」

 しかし私の予想とは裏腹に、ロキはぐりぐりと私の手に頭を寄せる。まるでその動作が猫みたいで私は思わず吹き出した。

「猫みたい」

「こんなに忙しいとは思わなかった……」

「王様ってやっぱり大変なのね」

 すると起き上がったブンブンとロキは首を振った。

「王の仕事なんて余裕だ。情報屋として生活してた頃に比べたら大したことじゃない。ただ……」

「ただ? 」

 ロキは一度言葉を詰まらせた。

「イリアに会えないのは……辛い」

「えっ」

「本当は離れたくない。ずっと傍にいて欲しいんだ」

 私は何も言えなくなってしまう。
 結婚してからと言うものロキはこんな調子だ。

 甘えたがりで何というか好き好きオーラが凄い。本編でのクールでミステリアスなキャラは一体何処にいってしまったのだろうか?

「甘えたがりねえ。マサキにそっくりだわ」

「マサキ? 」

 怪訝そうにロキが聞き返した。そして私も思わず驚く。
 思わず口をついたマサキという名前。一体誰? 

「……誰だったかしら」

 まるで脳に霧がかったみたいにそれが誰なのか思い出すことが出来ない。でもどこか懐かしい気持ちになる。

「ふーん、弟とか? イリアって兄弟いたっけ」

「いないわ。強いて言うならエミリアだけど…… 」

 そうだ

 私はまるで雷に撃たれたようにある記憶を思い出す。

ーー入江 正樹いりえ まさき、私の前世の弟。年が離れていてとても甘えん坊な男の子だった。
 明るくてワンパクで、それでいて可愛い弟。

 こんな大切なこと、どうして忘れていた?

 そして私はあることに気が付く。

 前世の私の名前は入江 百合香。うん、それは覚えている。
 しかし私は何人家族で何処に住んでいたのだろう。

「どうして私は死んだんだっけ……」

「イリア? 」

 ロキが怪訝そうに私の顔を覗き込んだ。はっと我に帰った私は慌てて笑顔を浮かべる。

「ううん、何でもない」

 するとトントンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「ロキワルド様、来賓の方がお越しです」

「はーいはい。今行くよ」

 ロキはボサボサになった髪を直して、襟を正す。

 そして私に向き直ってこう言った。

「何か悩みがあるなら直ぐに言ってくれよ? 俺たちは夫婦なんだから」

 じゃあな、と手をヒラヒラさせてロキは扉の向こうへと消えていった。

 残された私は思わず自分の体を抱き締める。
 今まで気が付かなかったけど、前世の記憶が段々と薄れていくのが分かる。

 まるで海に溶けるように、入江百合香としての記憶を段々と失っている。

 よく考えればそれは普通なのかもしれない。だって今の私はイリアなのだから。

 しかし言葉に出来ない恐怖を確かに私は感じていた。
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