行き遅れ獣人姫君、人間に嫁いで好き勝手やらせて頂きます

寿司

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第1話 これが私の旦那様?

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「へえ、ここが人間の都なんだ」

 あれから数日が経つと、王都から使いの馬車が来て私を嫁ぎ先へと連れて行ってくれた。
 
 お父様はおいおい泣きながら私を見送ってくれて、辛かったらいつでも帰ってこいと言ってくれた。……使いの人たちが凄い顔で睨んでいたのには気付いていないのか。

 しかしずっと馬車に揺られていたせいか酷く首が凝った。むしろ私が走って行った方が早く着いたのではないかとすら思う。

「獣風情が聖なる城に入れるなんて光栄に思え」

 使いの人がポツリと呟いた。このごっつい騎士のような格好をした男が私は苦手だった。馬車の中でもじろじろと穴が開くほど見られ、ときどき残念そうにはーっと息を吐かれた。

 まあ私のことが気に入らないのは明白だった。

「そうですね、王子様の飼い犬にでも立候補しましょうかねー」

 はっとしたように男が口元を押さえる。ふふん、聞こえないと思って悪態ついたのだろうが、獣人の聴力を舐めるなよ。数キロ先で針が落ちた音だって聞こえるのだ。

「シキ様、御待ちしておりました。こちらへどうぞ」

「はいはい」

 案内の女の人は私と目も合わせずに淡々と歩き始める。私は少しの着替えと食糧を抱えて、彼女の後を追った。

◇◇◇

 豪華絢爛な部屋に通された私は、そこそこ年のいった男性と、まだ若そうな男性が不満げに私を待ち構えているのが目についた。

 ふーん、この人たちがこの国の王と王子様なのか。

 なるほど確かにミルクティ色の髪につり目がちだが整った顔立ち、金色の瞳は吸い込まれるぐらい美しい。

「ようこそ。私がセレスティア王でこちらが息子のカイル=セレスティアだ。この度は無理な求婚を受け入れてくれて心より感謝申し上げる」

「お初にお目にかかります。シキ=クレアシオンです」

 辺りにいた従者たちがヒソヒソと声をあげる。

「あれが穢れた獣人の娘……見るからに野蛮な……」

「頭に狼のような耳と尾がついていて気持ち悪い……こんなのとカイル様が婚約だなんて王は正気か……」

 おーいおい聞こえてるぞ!
 野蛮な女なのは確かだが私のチャームポイントである耳と尾を貶されるのは面白くない。

「セレスティア王国第5皇子、カイル=セレスティア。お前を我が妃"候補"として迎えよう」

 カイルはぶすっとした顔で淡々と台詞を口にする。心底嫌そうで何だか申し訳ない。

 ん、ちょっと待てよ?

 候補?

「えーっと、候補というのはどういうことでしょうか」

「言ってなかったのか? 我がセレスティア家ではたくさんの妃候補を集め、その中から気品と美貌、そして知性共に文句なしの女を正式な妻として迎えるのだ」

 くすっと誰かが笑った。

「そうだろうな、こんな獣が王家に嫁ぐなんて図々しい」

「つまり飼い殺しってわけね」

 なるほどね、元々私を妃にするなんて思ってなかったわけだ。妃候補として側に置いといて、別の人と結婚するということなのだろう。

 私はにやりと思わず笑みを浮かべた。
 何という理想的な条件だろうか。

 王の妻としての責任もなく、お父様たちから口酸っぱく結婚を言われるわけでもなく、ただ食べて寝るだけの生活。

 ありがとうカイル様! ここは天国だ!!

「何か? 」

 にやにやしてる私を気味悪く思ったのかカイルが口を開いた。

「いや、何でもありません」

 おっと危ない。あまり嬉しさを面に出してはいけないな。

 私はわざとらしいぐらいのしおらしさを出して項垂れた。

「ふん、一丁前に犬っころが期待してるんじゃねえよ」

 誰かが吐き捨てた。

 ……夜道には気を付けな。口は災いの元ってね。
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