凌辱カキコ

島村春穂

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凋落

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 某検診センターに黒いセドリックが乗付けた時、駐車場はほとんど埋め尽くされていた。ここへ来る最後の路地を曲がった時から車間ギリギリまで詰められ、ずっと後ろに付いた灰色のキューブにクラクションを二度鳴らされるまで、「うるせえなあ」と見渡してみて、駐車場の一隅に一台だけ停められるスペースをやっと見つけた。


 黒いセドリックが頭からそこに停まると、後ろにいた灰色のキューブはぐるりと一周徐行し回ってからエンジンを、二、三度噴かし、駐車場を戻って行った。おそらくは検診センターの第二駐車場に向かったのだろう。


 セドリックの主は助手席に置いてあったスマホを見た。七時二六分。眺めている間に二七分になる。男性の受付開始が始まる三分前である。


 助手席にはスマホの他に、たばこと缶コーヒーが二本置いてある。男は一瞥したが視線を戻し、暫くすると後部座席から黒いリュックを手に取り、諦めたように車のフロント・ドアーを開けた。


「……行くしかねえか……」
 外に出た次に、こんどは何かを決意したかのように深呼吸をした。


 男が目を向けた先に、駐車場を小走りで行く初老の男性があった。さっきの灰色のキューブだ。その姿を見て男も足を早めた。


 検診センターの玄関口では中年になる男性職員がワイシャツに紺のスラックスといった格好で一人待ち構えていた。どうやら、事前に記入させられた書類一式を見せる必要があるらしい。さっきの初老が角形封筒から諸々を出し、そのなかには本日の人間ドックの案内や検尿、検便があり、職員のほうから、「これらは受付のほうで出してください」と言われるや、初老はひび割れた声で照れ笑い、随分遜って職員の質問に相づちをうった。


 どうも段取りの悪い初老にやむに止まれ、蒼甫は肩からリュックを下ろした。相変わらず、あの初老は遜っている。車間距離を詰めてきたあの態度とはまるで違っている。


 やっと順番が回り、「お早う御座います!」と、男性職員から快活な挨拶をされる。やはり書類の提出を求められ、リュックからクリアファイルに挟んだ一切の書類を手渡した。


「ええと。藤森、蒼甫そうすけさん、ですね」
 書類に目を通しながら、名前をなぞるようにして男性職員が確認する。「はい」と蒼甫が返事をする時には職員はすでに書類へと目を戻し、記入漏れがないかを確かめた。次にプラスチック製の「五七」の番号札を渡される。一連の最後には、「番号を呼ばれたら、この書類と検尿・検便を受付に提出してください」と説明され、蒼甫はようやく中に入って行った。


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