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凋落
四
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うりざね顔の美人である。鼻峰がよく通ってあるせいか顔立ちが華やかな印象がある。年の頃は荒川看護師と同じくらいか、些か上に見えなくもない。ヘアスタイルは、ひし形ショートの前髪を波立てて品がある。
名前を呼んだ蒼甫に気づくと、即刻身を翻らせ、どうぞ、といったようなひと言さえなく、さっさと個室に戻っていく。どことなく気位が高そうだ。
入った個室は、ほとんど真っ暗である。
壁際に簡易ベッドと、その反対側の壁際には標準サイズのスチールデスクがあり、中央には臨床に使う物々しい機器が設置してあり、ひとがすれ違えないほどとにかく狭い。
女性臨床検査技師は背を蒼甫に預けたまま、臨床機器を弄っている。先ほどひと目見た時には中肉の背格好に思われたのだが、荒川看護師同様、結婚適齢期ということも相まってか、近くで見る彼女はほどよい丸みを帯びて肉づきがよく、おそらくは着痩せしているのかもしれない。お世辞にもくびれているとはいえない豊腰から、女盛りを思わせるお尻が特に悩ましい。
足場にさえ気を使うこの狭さである。ちょっとした弾みで女性臨床検査技師の体に触れてしまいそうであったし、婀娜っぽい婦人の香りが個室中にこもっている。蒼甫は思わず腰を引いた。「ええと」と、こちらを向き直る女性臨床検査技師とは益益以て距離が近づく。正視され、へどもど目のやり場にさえ困り果て、伏せたそのさきに、「多馬田」とネームプレートが見えた。
その多馬田臨床検査技師から、これから行う検査の概要を手短に受け、この説明の最後に、「スリッパを脱いで、ベッドに仰向けになってください」と指示を受けた。
ベッドというのはやはり鉄パイプが剥き出しになっている入院ベッドのような簡素な作りのもので、体格のよい蒼甫が遠慮ぎみに腰掛けただけでも軋み、ベッドのうえで体の位置を整えようと尻をもじつかせれば、キイキイとどこからともなく頼りない音が上がり、つま先をベッドの端まで投げ出した時、多馬田臨床検査技師から、「上を胸まで捲ってください」と次の指示を受ける。蒼甫は枕に頭をつけてからそうした。
「頭のうえで腕を組んでくださいねぇ」
蒼甫が仰ぎ見た多馬田臨床検査技師から、初めて好意的な表情が見られた。
言われた通り万歳の姿勢を取る。改めてベッドでの態勢をあれこれ整えていると、「ジェルをお腹に塗ります。アレルギーのようなものはありますか?」と尋ねられる。蒼甫は首を横に振る。暗がりから、吐息のような相づちがある。この暗がりのなかにあって白衣を着たひとの形が浮かび上がっていて、蒼甫の頭からつま先までを一瞥したあと近づくと、胸の辺りまで捲ってあった検診衣をもっと捲り、首に掛かるまで捲り直した。
「少しひんやりしますよぉ」
と、一言断ったうえで、ジェルが腹に塗られる。指さきの触感が細くて、所作が繊細で暗がりのなかでも女のものと分かる。鳩尾から臍のうえまで優しいタッチで万遍なくジェルが引き伸ばされていく。たまらず蒼甫が腰を引く。その刹那腹筋に力が籠り固くなる。「リラックスしてくださいねぇ」と、お声がけされるが、固くなっていたのはなにも腹筋のほうだけではなかった。
蒼甫は、多馬田臨床検査技師を一瞥した。臨床機器のモニターの薄明りに映って真剣な顔つきがそこにあった。
蒼甫が遠慮ぎみに咳払いをする。多馬田臨床検査技師の顔を覗き見る前よりも、検診衣パンツが盛り上がってきてしまっている。しかも、暗がりに目が慣れてくると、憎々しいほど、モニターの薄明りが白々しく冴え、室内のあらゆる物がはきと正体を現し、当然、あのうりざね顔も浮かび上がる訳で、この個室にずうっと籠っている多馬田臨床検査技師のあの目が、蒼甫よりもずっとこの暗がりに慣れていることを推察すると、検診衣の膨らみがベッドへ仰向けになったあの当初からすでにバレている畏れがあった。
蒼甫が万歳で組んだ腕で頭を支えつつ、幾ばくか下腹部を省みる。荒川看護師の時と同様に、下向きに萎んだ陰茎が屹立したせいで検診衣パンツをなかから垂直に立てていた。万歳の姿勢を強要されているいま、これを直すにも直せず、モニターの薄明りがやけに白々しいとはいえ、暗がりのなか、真っ赤な顔を見られないだけが救いである。
指さきでジェルを塗り終えたかと思えば、こんどは臨床に使う器具を使い、ローラーの感触で腹部と手持ちの器具とをジェルで馴染ませた。蒼甫はそれとなく多馬田臨床検査技師の瞳の動きに細心の注意を払う。ついぞ屹立させた検診衣パンツには気がつかないご様子で、なにはともあれそれはそれで有難いのだが、知らないままほっとかれれば、それだけまな板の鯉である。あの時、荒川看護師に寸止めされた屹立はついにマキシマムにまで膨れあがった。多馬田臨床検査技師から、また吐息のような相づちがあった。
「では、息を吸ってください」
と指示を受ける。吸った息を、こんどは、「吐いてください」と言われそうする。
臨床器具が腹のうえでこそばゆく這い、時折、それが肋骨に当たったりすると、「痛くないですか」と尋ねられるから、うんうん、と蒼甫は小首を横に振る。これを繰り返すうち、「おおきく息を吸ってください」と、「ゆっくり息を吐いてください」に指示が移り変わりつつ、多馬田臨床検査技師の口調も段々と声音に変わっていくものだから、検診衣パンツの屹立がよりいっそうご機嫌になってきてしまうのであった。
名前を呼んだ蒼甫に気づくと、即刻身を翻らせ、どうぞ、といったようなひと言さえなく、さっさと個室に戻っていく。どことなく気位が高そうだ。
入った個室は、ほとんど真っ暗である。
壁際に簡易ベッドと、その反対側の壁際には標準サイズのスチールデスクがあり、中央には臨床に使う物々しい機器が設置してあり、ひとがすれ違えないほどとにかく狭い。
女性臨床検査技師は背を蒼甫に預けたまま、臨床機器を弄っている。先ほどひと目見た時には中肉の背格好に思われたのだが、荒川看護師同様、結婚適齢期ということも相まってか、近くで見る彼女はほどよい丸みを帯びて肉づきがよく、おそらくは着痩せしているのかもしれない。お世辞にもくびれているとはいえない豊腰から、女盛りを思わせるお尻が特に悩ましい。
足場にさえ気を使うこの狭さである。ちょっとした弾みで女性臨床検査技師の体に触れてしまいそうであったし、婀娜っぽい婦人の香りが個室中にこもっている。蒼甫は思わず腰を引いた。「ええと」と、こちらを向き直る女性臨床検査技師とは益益以て距離が近づく。正視され、へどもど目のやり場にさえ困り果て、伏せたそのさきに、「多馬田」とネームプレートが見えた。
その多馬田臨床検査技師から、これから行う検査の概要を手短に受け、この説明の最後に、「スリッパを脱いで、ベッドに仰向けになってください」と指示を受けた。
ベッドというのはやはり鉄パイプが剥き出しになっている入院ベッドのような簡素な作りのもので、体格のよい蒼甫が遠慮ぎみに腰掛けただけでも軋み、ベッドのうえで体の位置を整えようと尻をもじつかせれば、キイキイとどこからともなく頼りない音が上がり、つま先をベッドの端まで投げ出した時、多馬田臨床検査技師から、「上を胸まで捲ってください」と次の指示を受ける。蒼甫は枕に頭をつけてからそうした。
「頭のうえで腕を組んでくださいねぇ」
蒼甫が仰ぎ見た多馬田臨床検査技師から、初めて好意的な表情が見られた。
言われた通り万歳の姿勢を取る。改めてベッドでの態勢をあれこれ整えていると、「ジェルをお腹に塗ります。アレルギーのようなものはありますか?」と尋ねられる。蒼甫は首を横に振る。暗がりから、吐息のような相づちがある。この暗がりのなかにあって白衣を着たひとの形が浮かび上がっていて、蒼甫の頭からつま先までを一瞥したあと近づくと、胸の辺りまで捲ってあった検診衣をもっと捲り、首に掛かるまで捲り直した。
「少しひんやりしますよぉ」
と、一言断ったうえで、ジェルが腹に塗られる。指さきの触感が細くて、所作が繊細で暗がりのなかでも女のものと分かる。鳩尾から臍のうえまで優しいタッチで万遍なくジェルが引き伸ばされていく。たまらず蒼甫が腰を引く。その刹那腹筋に力が籠り固くなる。「リラックスしてくださいねぇ」と、お声がけされるが、固くなっていたのはなにも腹筋のほうだけではなかった。
蒼甫は、多馬田臨床検査技師を一瞥した。臨床機器のモニターの薄明りに映って真剣な顔つきがそこにあった。
蒼甫が遠慮ぎみに咳払いをする。多馬田臨床検査技師の顔を覗き見る前よりも、検診衣パンツが盛り上がってきてしまっている。しかも、暗がりに目が慣れてくると、憎々しいほど、モニターの薄明りが白々しく冴え、室内のあらゆる物がはきと正体を現し、当然、あのうりざね顔も浮かび上がる訳で、この個室にずうっと籠っている多馬田臨床検査技師のあの目が、蒼甫よりもずっとこの暗がりに慣れていることを推察すると、検診衣の膨らみがベッドへ仰向けになったあの当初からすでにバレている畏れがあった。
蒼甫が万歳で組んだ腕で頭を支えつつ、幾ばくか下腹部を省みる。荒川看護師の時と同様に、下向きに萎んだ陰茎が屹立したせいで検診衣パンツをなかから垂直に立てていた。万歳の姿勢を強要されているいま、これを直すにも直せず、モニターの薄明りがやけに白々しいとはいえ、暗がりのなか、真っ赤な顔を見られないだけが救いである。
指さきでジェルを塗り終えたかと思えば、こんどは臨床に使う器具を使い、ローラーの感触で腹部と手持ちの器具とをジェルで馴染ませた。蒼甫はそれとなく多馬田臨床検査技師の瞳の動きに細心の注意を払う。ついぞ屹立させた検診衣パンツには気がつかないご様子で、なにはともあれそれはそれで有難いのだが、知らないままほっとかれれば、それだけまな板の鯉である。あの時、荒川看護師に寸止めされた屹立はついにマキシマムにまで膨れあがった。多馬田臨床検査技師から、また吐息のような相づちがあった。
「では、息を吸ってください」
と指示を受ける。吸った息を、こんどは、「吐いてください」と言われそうする。
臨床器具が腹のうえでこそばゆく這い、時折、それが肋骨に当たったりすると、「痛くないですか」と尋ねられるから、うんうん、と蒼甫は小首を横に振る。これを繰り返すうち、「おおきく息を吸ってください」と、「ゆっくり息を吐いてください」に指示が移り変わりつつ、多馬田臨床検査技師の口調も段々と声音に変わっていくものだから、検診衣パンツの屹立がよりいっそうご機嫌になってきてしまうのであった。
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