蒼炎の魔法使い

山野

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第百一話 空での攻防

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ダリルとの交渉も終わり、一段落着いた所で外からけたたましい爆発音が轟き、部屋のガラスを揺らした。
それに誘われるように一斉に外に出ると、街の上空には空を旋回するように飛ぶ大きな影が幾つか見え、ダリルは禿げあがった頭を撫でながらこちらを向いて顔をしかめた。

「あれはメーラ帝国の飛竜部隊、竜国の竜騎士程ではないにしてもまた厄介のなのが来ましたなぁ、積極的に攻撃をしてこない所を見るとこちらの使える戦力を分析して情報を持ち帰るのが目的でしょう。 現状では街に被害が出ないよう結界魔術を維持するのにこちらは手一杯… ショウ殿、早速で悪いが何とかできますか?」

「何とかやってみます、みんな行こう!」

◇  ◇  ◇  ◇

と勇ましく広場まで飛び出したは良いがどうするか…
遠距離攻撃が出来るのは俺とフララだけ、シャロとレデリは中距離タイプなのでれなりにこなせるだろうが、空の敵相手には決定打に欠けるだろう、ルーとイレスティに至っては近距離タイプなので攻撃がそもそも届かないし、リンデは…

「私は戦えないからね? ダルシエルは国同士の争いには基本的に関与できないから。街の人達の避難誘導と治療に回るわ。 力になれなくてごめん」
少し申し訳なさそうに眉尻を下げるのがリンデらしい、彼女の立場は理解しているつもりだし、とやかく言うつもりはない

彼女が一歩俺の前に出ると先程迄の申し訳なさそうな表情から一変し、優しい笑みを浮かべ、息遣いが聞こえそうな距離で瞳の中に俺を映す
「ケガしても私が治すから、絶対に帰って来る事、それから…」

彼女は更にぐっと距離を詰めローブをちょこんと摘み、俺の耳元で囁く
「早くデートの約束を果たす事」
何これキュン死させる気?!

聞き心地のいい声に満たされ、彼女を抱きしめようと手を伸ばすが…

「もうやだぁ…私いくぅ!」
リンデは顔を顔を覆いながら錫杖の様な物をシャンシャン鳴らしながら走り去って行く

「え、ちょっと待っ…」
遠ざかっていくリンデの背中に手を伸ばしながら周りを見るとルーとフララ、レデリにエメが悪そうな笑みを浮かべて親指を立ており、こいつらのせいで恥ずかしくなって走り去ってしまったのだという事がすぐに理解出来た

「…ショウ、残念だった。 それよりもあれ何とかしないと。 ベリルの眷属って借りれないの?」
その手があったか!! 目から鱗だ!!

「勿論貴方もそのつもりで広場まで来たんでしょう? 私は自分のアンデッド眷属を使うから、他の4人のを出してあげて頂戴」
他の面々のどうしたの?早くしなよと言いたげな面持ちに無言の圧力を感じて、急いで【眷属召喚】を行い、ベリルに事情を説明すると快く4体のグリフォンを貸し出してくれた

飛竜隊の布陣は、司令官らしき者を乗せた、周りよりも一回り大きい飛竜を囲む様に四体配置された計五体を中心に、右翼と左翼に四体ずつ展開されており、頭数では負けているが機体性能ではこちらのが上だと思う。

「俺とベリルが中央を、フララとイレスティが左翼、ルーとレデリ、シャロは右翼を頼む、司令官さえ倒せば撤退するだろうから、それまで耐えてくれればいい」
俺の指示に一同が頷き、指示された通りに散らばる。
みんな空中戦になれていないし、グリフォンとの連携もうまく取れないだろうから、練度の高い飛竜隊を倒すのは難しいだろう

『エメ、久々だけど大丈夫?』

『もっちろん!  お兄ちゃんこそ油断しないようにね!』

翼をゆっくりとはためかせながら停滞している飛竜隊と俺達のグリフォンが対峙した所で対話を試みてみる事にした
「こちらはペネアノに雇われた冒険者ショウ、ペネアノの領土内で攻撃を仕掛けた貴国の目的は何ですか?」

俺の問いかけに特に返事はないが、一回り大きな飛竜に乗った指揮官らしき男が右手を上げると全ての飛竜の口が開き、一斉に炎の球が勢いよく放たれた

「それが返事か、ベリルさんやっておしまい!」

「主よ、溢れんばかりの小物感が漂っておるぞ。 我に任せよ」
ベリルが少し翼をはためかせると、勢いよく飛んできた5つの炎の球がこちらに届く前に消滅。 例外はあるが基本的にベリルに炎は効かない

戦いの火蓋は切って落とされたのでこちらも遠慮なく行こう

「蒼炎魔法【蒼炎風】」
「フレイムウインドウ」
「「合成魔法【蒼紅旋風】」」
俺とベリルから全く同じ出力で放出された蒼い炎と紅い炎が螺旋状に絡み合い激しい炎の竜巻となって敵に向かって飛んで行く

黄龍との空での追いかけっこの時に編み出した魔法で、広範囲な上に威力がかなり高い。

「「「「「 ※ ※ ※ ※   ※ ※ ※ ※   ※ ※ ※ ※ 結界魔術【多重結界】」」」」」
着弾スレスレで何十層もある強固な結界が展開されたが、俺達の攻撃の威力が高く幾重にも破砕音を生み出して行く

耳を刺すような甲高い破砕音が鳴り止み敵に到達した頃には威力が大分殺され、火傷程度で済んでいた

追撃するために敵の方へとベリルと共に突っ込んで行くと、固まっていた飛竜隊が俺達を囲むように散り散りに展開されるが、狙うは指揮官!
刀を抜きすれ違い様に切りかかると、槍を滑らせるようにして防がれた事により火花が散り、金属がぶつかって起こる摩擦で出来た独特の匂いが鼻を刺す

「50層も展開された結界を貫いて来るとはお前ただの冒険者じゃないな?」

「そっちもあれを五人がかりとはいえ防がれるとは思ってなかった」
空の上で何度も刀と槍がぶつかり火花を散らす。
いまいち踏み込んで攻めれないのは、一定の距離を保ちながら囲むように展開された他の者達に弓や魔術で妨害されるので、それを避けて尚且つ牽制しながら戦わないといけないからだ

やはり連携が取れている相手っていうのは戦い方が上手くかなりやりずらい

「ほらほらどうした冒険者、さっきまでの勢いがなくなってるぞ?」
ニタリと笑いながら俺の攻撃を槍で躱すが、反撃も牽制程度で深追してこない所をみると、機体性能の高い飛竜に乗った指揮官が自ら囮になり、囲んだ他の者で殲滅するってのがこいつらの戦法なんだろう。 

となれば…

方向転換して囲むように展開された魔術師の方へとターゲットを変える
「『結晶樹魔法【エメラルドニードル】』」
鋭いエメラルドでコーティングされた枝無数の枝が魔術師の飛竜を串刺しにすると、飛竜は飛ぶ力を失い落ちていく。乗っていた魔術師は結晶樹魔法【麻痺螺旋荊棘】を掛け動けなくした上で確保した

「ちっ、見抜かれたか。機体性能が圧倒的に高い相手に見抜かれたらもう勝ち目はない、引くぞ!!」
指揮官の飛竜が退却しながら空に向かって炎の球を吐くと右翼と左翼の飛竜隊も退却して行く。

退却していく飛竜たちの背中を見送っていると右側から湿っぽい声が聞こえて来た
「ショウさーん… シャロはダメな子なのです… 一体も仕留められなかったのですよ… 悔しいのです…」
残念そうな顔で扇子をパタパタ仰ぎながら力なくグリフォンの上で項垂れていたシャロに苦笑いしながら、頭を優しく撫でてやるとすぐに元気になった様で垂れ下がっていた耳や尻尾がピンと立ち上がる。 貴方に撫でられればすぐに元気になるよアピールは彼女の計算されたあざとさがなせる物だが、可愛いので良し!

「私も仕留められなかった… 久しぶりに裂きたかったのに…」
赤黒い大鎌をアイテムボックスに仕舞うその顔はとても落ち込んでいる様に見える
がしかし、これは力になれなくてごめんという意味ではなく、猟奇的な意味で落ち込んでいるであろうからノータッチだ!

「ルー姉さんもシャロも落ち込む事ないって、目的は達成したんだから」
レデリは平常運転

「貴重な飛竜の足を捥ぎ取ったよ! いい素材になるんだよねーこれ!」
うん平常運転…
恍惚とした表情で血の滴る素材を見つめるその様はちょっと不気味だぞ…

「ご主人様!!」
左側の敵と戦っていたイレスティがメイド服を風ではためかせ、大声で俺を呼びながら血相を変えてこちらへと向かってくるのが見えた

「どうしたの? あれ?フララは?」

「ご主人様大変でございます、フララ様が敵に連れ去られてしまったのです!!」
それを聞いた俺は血の気が引き、頭が真っ白になった
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