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生きた証人
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家の中で聞こえる物音にルーカスは目覚めた。ミシッミシッと誰かが床を踏みしめる音がする。裏手の出入り口のほうから誰かが入ってきたようだ。静かにそっとルーカスはベッドの脇に姿を隠した。寝室の前を小柄な男が通り過ぎる。ダイニングのほうへ男が入っていった。
床に雑魚寝しているベルンハルトとカスパルを見て小柄な男は驚き声を上げる。
「誰だ!?人が寝ている」
その瞬間、後ろからルーカスが男を羽交い絞めにして「静かにしろ!」と叫ぶ。「待て待て!ここはオレの家だ。あんたは誰なんだ?」と小柄な男が言うとルーカスはすぐに手を放して「ああ、悪かった。まだ住んでいる村人がいたんだな」と距離をとった。
ルーカス「盗賊か何かかと思って焦ったぜ」
小柄な男「それはこっちの台詞だよ」
テーブルの上のロウソクにまた火を灯しルーカスが席についた。小柄な男はザームエルと名乗った。ルーカスはさっきのお詫びとしてチーズと燻製肉をザームエルに差し出した。「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?ザームエル。この村にはあんたしかいないのか?」と質問を投げかけるとザームエルの表情はみるみる悲しい顔に変わっていった。
「この村はオルドバとオールドメアの中間にあって人通りが多く、活気があって村人も明るかった。ちょっとした骨董品を作る職人がいたり農作物を育てる農夫がいたり、森の中で集めた山菜を売って生計を立てる者がいた。それでも十分な暮らしができていたよ。ある日、カイゼルと名乗る男がこの村に来るまでは・・・」と言うとポタポタと涙をテーブルに垂らした。
ルーカス「おい!カイゼルがこの村に来ていたのか?」とルーカスは驚きを隠せなかった。
「そうだ。カイゼルはこの村を徹底的に破壊してしまったんだよ。なんせあいつは悪党だ。村にねずみが溢れてから数日後にあいつは現れ、こう言ったんだ『この村のねずみを私が一掃しましょう。その代わり金貨を5枚いただきたい』と」その言葉はメアベルクでカイゼルが言った台詞とまったく同じである。
それを聞いてルーカスの背筋は凍った。ねずみが大量発生、そして、あたかもそれを救う救世主のようなカイゼルの登場、すべて自演だったわけだ。しかし、結果が違うことが気がかりではある。
ルーカス「どうしてカイゼルはこの村を破壊したんだ?あいつは金貨が目当てだろ?この村にねずみは見当たらなかった・・・ってことはあいつはピアノを弾いてねずみを駆除したんじゃないのか?」
ザームエル「そうだ。ピアノを演奏してねずみの大群を遥か遠くのほうへ連れ去ったよ。それは見事だった。そのあとヤツだけが村に戻って来た。そして、村長に金貨5枚を要求したんだ。村長はヤツに金貨を払うのを惜しんで金貨1枚と銀貨20枚を渡してこう言った『そなたの働きは実に見事だ。しかし、賢者とやらの奇妙な術を持ってすればすぐにねずみは払われる。もしそうだとするならこれぐらいの報酬が妥当だろう』とヤツの働きにケチをつけてしまったんだ」
ルーカス「すると結果がこのありさまか?」というとザームエルは頷いた。
「そうだ。カイゼルは怒って胸元からフルートを取り出し演奏を始めた。その音色は実に美しく、ヤツが歩き始めると誰もがその後ろをついて行きたいと思ってしまうものだった。わかるか?我々もヤツにとっちゃねずみと一緒だったんだよ」
それを聞いたルーカスの心に衝撃が走った。
賢者というのはウソで魔術師と聞いていたがまさか人まで操るとは思ってもみなかった。
「まさか・・・そんな・・・」ルーカスは絶句した。追っている相手がそんな魔術を使うのなら、こちらが何人束になっても勝ち目はない。あのねずみの大群が一匹残らず海に落ちて絶命したのだ。ならば人も同じということか・・・。
「カイゼルがフルートを奏で村人たちを誘導したんだ。ここから南西に行けば沼地がある。みんなそこに沈んでいるよ。オレはたまたまそこに行くまでの道のりの道中で足を滑らせて川へ落ちたんだ。そのまま川に流されて気づいたときには川辺で寝そべっていた。その頃には周りには誰もいなくなっていたのさ」
ザームエルが話を続けた「あのフルートの音色を聴くと心が安らぐんだ。アイツに誘導されているときにオレの心が感じたことは『このまま彼について行けば楽園に行ける』っていう何の根拠もない妄想に囚われたものだった。その心地良さから逃れることは敵わなかった」
確かにザームエルが言うようにヴィボの村には、この男以外に誰もいない。にわかに信じ難い話だとしてもねずみの大群をピアノの演奏だけで一匹残らず駆除してしまったのだから信じざるを得なかった。
床に雑魚寝しているベルンハルトとカスパルを見て小柄な男は驚き声を上げる。
「誰だ!?人が寝ている」
その瞬間、後ろからルーカスが男を羽交い絞めにして「静かにしろ!」と叫ぶ。「待て待て!ここはオレの家だ。あんたは誰なんだ?」と小柄な男が言うとルーカスはすぐに手を放して「ああ、悪かった。まだ住んでいる村人がいたんだな」と距離をとった。
ルーカス「盗賊か何かかと思って焦ったぜ」
小柄な男「それはこっちの台詞だよ」
テーブルの上のロウソクにまた火を灯しルーカスが席についた。小柄な男はザームエルと名乗った。ルーカスはさっきのお詫びとしてチーズと燻製肉をザームエルに差し出した。「ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?ザームエル。この村にはあんたしかいないのか?」と質問を投げかけるとザームエルの表情はみるみる悲しい顔に変わっていった。
「この村はオルドバとオールドメアの中間にあって人通りが多く、活気があって村人も明るかった。ちょっとした骨董品を作る職人がいたり農作物を育てる農夫がいたり、森の中で集めた山菜を売って生計を立てる者がいた。それでも十分な暮らしができていたよ。ある日、カイゼルと名乗る男がこの村に来るまでは・・・」と言うとポタポタと涙をテーブルに垂らした。
ルーカス「おい!カイゼルがこの村に来ていたのか?」とルーカスは驚きを隠せなかった。
「そうだ。カイゼルはこの村を徹底的に破壊してしまったんだよ。なんせあいつは悪党だ。村にねずみが溢れてから数日後にあいつは現れ、こう言ったんだ『この村のねずみを私が一掃しましょう。その代わり金貨を5枚いただきたい』と」その言葉はメアベルクでカイゼルが言った台詞とまったく同じである。
それを聞いてルーカスの背筋は凍った。ねずみが大量発生、そして、あたかもそれを救う救世主のようなカイゼルの登場、すべて自演だったわけだ。しかし、結果が違うことが気がかりではある。
ルーカス「どうしてカイゼルはこの村を破壊したんだ?あいつは金貨が目当てだろ?この村にねずみは見当たらなかった・・・ってことはあいつはピアノを弾いてねずみを駆除したんじゃないのか?」
ザームエル「そうだ。ピアノを演奏してねずみの大群を遥か遠くのほうへ連れ去ったよ。それは見事だった。そのあとヤツだけが村に戻って来た。そして、村長に金貨5枚を要求したんだ。村長はヤツに金貨を払うのを惜しんで金貨1枚と銀貨20枚を渡してこう言った『そなたの働きは実に見事だ。しかし、賢者とやらの奇妙な術を持ってすればすぐにねずみは払われる。もしそうだとするならこれぐらいの報酬が妥当だろう』とヤツの働きにケチをつけてしまったんだ」
ルーカス「すると結果がこのありさまか?」というとザームエルは頷いた。
「そうだ。カイゼルは怒って胸元からフルートを取り出し演奏を始めた。その音色は実に美しく、ヤツが歩き始めると誰もがその後ろをついて行きたいと思ってしまうものだった。わかるか?我々もヤツにとっちゃねずみと一緒だったんだよ」
それを聞いたルーカスの心に衝撃が走った。
賢者というのはウソで魔術師と聞いていたがまさか人まで操るとは思ってもみなかった。
「まさか・・・そんな・・・」ルーカスは絶句した。追っている相手がそんな魔術を使うのなら、こちらが何人束になっても勝ち目はない。あのねずみの大群が一匹残らず海に落ちて絶命したのだ。ならば人も同じということか・・・。
「カイゼルがフルートを奏で村人たちを誘導したんだ。ここから南西に行けば沼地がある。みんなそこに沈んでいるよ。オレはたまたまそこに行くまでの道のりの道中で足を滑らせて川へ落ちたんだ。そのまま川に流されて気づいたときには川辺で寝そべっていた。その頃には周りには誰もいなくなっていたのさ」
ザームエルが話を続けた「あのフルートの音色を聴くと心が安らぐんだ。アイツに誘導されているときにオレの心が感じたことは『このまま彼について行けば楽園に行ける』っていう何の根拠もない妄想に囚われたものだった。その心地良さから逃れることは敵わなかった」
確かにザームエルが言うようにヴィボの村には、この男以外に誰もいない。にわかに信じ難い話だとしてもねずみの大群をピアノの演奏だけで一匹残らず駆除してしまったのだから信じざるを得なかった。
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