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パープルエッグ

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弱者

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酒場にノアたち『Lv.BEYONDER』が集まって試合後の反省会をしているが、いつもと違ってその雰囲気は重苦しい。離れたところから見ても落ち込んでいるのがすぐにわかるほどだ。ファン・ロイから分けてもらった素材マテリアルを使って武器を強化してもプレイヤーの照準エイムの精度はどうにもならない。狙撃用のスコープならオートフォーカスの機能があるがハンドガンやショットガンにはそんな機能はついていない。レーザーポインターでは敵を捕捉している間にヤラれるのがオチだ。それが至近距離の撃ち合いの難しいところではある。持ち前のセンスと勘で技量が左右される。とくにすぐにヤラれるのがノア・キャッシュマンとレナータ・ライだ。実力不足で弱い。

両手にハンドガンを持ってノアが前線に行けば、敵をかく乱する前にヤラれてしまう。そのあと3人で他の複数のチームと渡り合うことになり、次はマグナムを使うレナータ・ライが包囲網から抜け出せずにヤラれてしまう。いつも残るのはふたりで後半の1分は運が良ければアントン・ケイとファン・ロイが生き残り、他のチームの潰し合いの末に生存しているプレイヤーが減っていればポイントさで勝つこともある。

いつも綱渡りで勝率はなかなか上がらない。このワンパターンな状況から抜け出すために反省会を開いたがノアとレナータの若さはだった。

”自分の弱さ”を受け入れる心の準備ができておらず、やんわりとアントン・ケイがふたりに改善策を伝えたが落ち込んでしまった。可哀想だと思いつつも伝えなければいけないことは言葉で伝えないと何も始まらない。もはや冗談を言えるような状況ではなくなってしまった。これにはファン・ロイも何も言えず、ただビールを飲んでおつまみを食べて大人しく席に座っているだけだった。フェードアウトせずにそこにいるのはせめてもの優しさである。少しの衝撃ですぐに心が壊れてしまうような思春期の10代の男の子と女の子の傍にそっと座って寄り添っているのだ。仲間になったからこそ芽生えた情である。言葉は発しないが温かい目で見守っている。

ノアとレナータのプライドにキズをつけたのはふたりが弱いからだけではなかった。前日に初参戦した『UNIT-8』が上位ランカーの『The Living Corpse』とバチバチにやり合った挙句、おまけにネオグライドのAIが作り出したパラメータ異常のbot『クラッシュマスター』4体の内、2体まで倒してみせたのだから、そりゃ誰でも自分が弱いと自覚する。ノアとレナータだけではなく、酒場で観戦しているプレイヤーの中にも自信を失った者は多かった。観戦後にみんなげんなりした表情でフェードアウトしていった。その場で盛り上がって喜んでいたのはランキング上位にいる奴ら、もしくは他の生業なりわいで稼いでいる奴らだけだった。

バイヤーだったりスポーツジムのインストラクターだったり、投資家だったり、ネオグライドに参加せずに観戦だけしている奴らが気楽に見えて羨ましく思うことさえある。

ただ”そこから”逃げることは許されなかった。戦いに勝って賞金を得ること、欲しいアイテムを得ることが今の時代の主流なのだから・・・。

e-sportsに参加する特別訓練を受けた者たちの多くは初期費用がなく、国に特別訓練を受けるための申請を行っている。審査が通れば国が初期費用を無利子で立て替えてくれるのだ。

デジタル修了証をもらってe-sportsに参加することができるようになればゲームに勝ったときに得られた賞金から自動で数パーセントのお金が引かれ、そのお金は国への返済金として充当される。

特別訓練を受けたときの初期費用の返済が完了するまでe-sportsへの参加は義務となる。ならば、もらえる賞金が多く、名声を得て、企業のスポンサーを付けて、莫大な資産を築きたいと考えるのが普通だ。みんなの考えが行きつく先は同じなのだ。そして、その選択肢に上がるのが『ネオグライド』である。

ネオグライドのゲームに勝ったときの賞金は多い。これは国を統括するAIの判断である。各国の政治をAIがやっているといっても文化の成り立ちや思想が違う人種がたくさんいるのにどうやって取り決めが行われているのか謎な部分が多かった。

一説によると各国の政治を担うAIとは別に『マザー』と呼ばれるAIが存在するらしい。国ではなく地球そのものをコントロールしているそうだ。にわかに信じ難い都市伝説の話である。誰かがその存在を見たわけではなく、あくまでちまたに広がる噂程度の話だ。

アントン・ケイ「一旦、反省会は終わりにしましょう。ふたりがよくがんばっていることもわかっています。お互いに前向きに協力しながら、これからもゲームをしましょう」明るい言葉で締めくくり、次の課題を示しつつ反省会は終わった。

無言でノアが立ち上がり、酒場を出るとそのままV-HUBへ向かった。そのあとレナータ・ライはしばらく席にいたが気まずくなったのか酒場からフェードアウトした。
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