12 / 30
網の中の魚
しおりを挟む
酒場をあとにしたノアはマルチバースの拠点『エルディオスの街』にあるセントラルスクエアの公園を通ってV-HUBに向かった。落ち込んだ気分を変えるため、持っているアイテムを一覧表示にして服装を変更する。胸に大きなNのロゴが入った紺色のスタジアムジャンパーにジーパンとブーツを選び決定ボタンを押す。瞬時にノアが着ている服装が変わった。
V-HUBに入るといつものように1階のショーケースに入ったアイテムを見て回る。ここではe-sportsで使える電子機器が販売されていて、仮想現実の中にある仮想店舗でハード機器が買えるのがこの店の強みである。もちろんV-HUBを運営する企業はエルディオスの街に土地を借りているので毎月、巨額の賃貸料を払っている。例え10万ドルの賃貸料を払ったとしても世界大戦後に16億人になった人類の約80%以上が仮想現実を利用しているので、その賃貸料は安いものだ。世界中に店舗を展開するよりもマルチバースの拠点となる街に1つ店を構えたほうがコストパフォーマンスが良かった。
ノアはショーケースの前で足を止めると妖美な紫のライトに照らされた『ハプティックスーツ』が展示されているのを見て、我を忘れた。電気筋肉刺激や電気神経刺激を利用した感覚フィードバックが可能となったスーツはプレイヤーに絶大な人気を誇る。この最新モデルは、モーショントラッキングの誤差が起きない優れものだ。V-HUBで購入すれば3日以内に自宅に商品が送り届けられる。
ノアはまだ安価なゲーミングウェアと手につけたリストバンドを使ってモーションキャプチャを行っていた。ノアは、この展示されている最新のハプティックスーツが欲しくて堪らなかった。しばらくショーケースの前で展示品を眺めていると、だんだん辺りが騒がしくなって来ていたが、それにはまったく気づかずにいた。
ざわついている方から人混みをかき分けて走って来た男がノアにぶつかる。その衝撃でふたりとも床に倒れ込んだ。何がどうなっているのか、状況がつかめないままノアが床に手をついて起き上がろうとする。
男は急いで立ち上がり、焦っているのかエスカレータを走りながら2階へ昇って行った。倒れたノアのことなど気にも止めていない様子だ。あまりの咄嗟の出来事に文句のひとつも言えなかった。振り返ると、今度はさっきの男を追いかけて複数の男が走って来る。さっきの男と同様に複数の男がそのままエスカレータを走りながら2階へと昇って行った。「なんだ?何があったんだ」不穏な空気の中、胸騒ぎがする。よほど何かをヤラかさないと仮想現実の世界でそこまで人に追われることはないだろう。
(さっきの男は逃亡しているようだったが・・・・?)
ノアは、さっきぶつかってきた男が床に何かのアイテムを落としていることに気がついた。手に収まるほどの大きさの丸い球だ。「なんだ、これ?」その球は中央からプラズマを発生させ不気味な輝きを放っていた。ノアはその球を拾うと、こっそりポケットに仕舞った。周りにいる人々は逃亡している男と追っている複数の男に気を取られ、誰も球のことなど見ていない。気づいたのはノアだけだった。
一方、ビルの屋上には特殊部隊を乗せたヘリが到着していた。隊員たちはヘリを降りると駆け足でビルの中へ入って行く。地上から追いかけてきた複数の男たちと上空から降り立った特殊部隊に挟み撃ちにされ逃亡者はまるで網の中の魚である。この包囲網から逃げ遂せる術はない。
複数で追いかけていた男たちは覆面の警察官だ。そして、上空から降り立った特殊部隊と合わせて、どちらもAIである。ひとりひとりが状況を判断し、物事の合理性と法律を理解している。その姿は生身の人間と大して変わらない。ただ仮想現実の中に存在しているだけで、普通に生活しているし結婚したり退職もする。死は存在しないが国を統括するAIに時間が来たら削除される。それを死と呼ぶかどうかは別として・・・。
その周期は10年である。学習を重ねて個性を持ったAIを軌道修正してアップデートするよりも、新たにAIをスタートさせたほうがパソコンの負荷は軽いらしい。それに軌道修正したAIにバグが起きると後々面倒なので周期的にその存在を替えたほうがリスクが少ないようだ。
国を統括するAIが警察官や特殊部隊に扮したAIを10年周期で削除するといっても、そのデータはクラウドコンピュータに保存されている。データは残り、仮想現実からは姿を消す。仮想現実のアップデートに合わせて、警察官や特殊部隊がリフレッシュされるのだ。それは時代の移り変わりと似ている。ずっとそのままで不変なものなど在りはしない。
ビルの4階で逃亡していた男は拘束された。複数の覆面の警察官と特殊部隊が男を取り押さえている。仮想現実の街にある店の中でド派手な逮捕劇が披露され、周りにいたプレイヤーたちは血の気が引いてしまった。国を統括するAIによる絶対的な権力をまざまざと見せつけられたような気分だ。
ネオグライドでパラメータ異常を起こしたbotを投入したり、最近のアップデート後からの街の様子はおかしくなっている。e-sportsもエルディオスの街も不穏な空気が漂う。
一番おかしいのは、網の中の魚、逃亡者だ。スマートグラスを外してログアウトすれば、わざわざ仮想現実の中で逃げる必要はなかったのではないか?誰もがそう思う。きっとそれができない理由があったに違いない。
今日の出来事は、謎に満ちていた。
V-HUBに入るといつものように1階のショーケースに入ったアイテムを見て回る。ここではe-sportsで使える電子機器が販売されていて、仮想現実の中にある仮想店舗でハード機器が買えるのがこの店の強みである。もちろんV-HUBを運営する企業はエルディオスの街に土地を借りているので毎月、巨額の賃貸料を払っている。例え10万ドルの賃貸料を払ったとしても世界大戦後に16億人になった人類の約80%以上が仮想現実を利用しているので、その賃貸料は安いものだ。世界中に店舗を展開するよりもマルチバースの拠点となる街に1つ店を構えたほうがコストパフォーマンスが良かった。
ノアはショーケースの前で足を止めると妖美な紫のライトに照らされた『ハプティックスーツ』が展示されているのを見て、我を忘れた。電気筋肉刺激や電気神経刺激を利用した感覚フィードバックが可能となったスーツはプレイヤーに絶大な人気を誇る。この最新モデルは、モーショントラッキングの誤差が起きない優れものだ。V-HUBで購入すれば3日以内に自宅に商品が送り届けられる。
ノアはまだ安価なゲーミングウェアと手につけたリストバンドを使ってモーションキャプチャを行っていた。ノアは、この展示されている最新のハプティックスーツが欲しくて堪らなかった。しばらくショーケースの前で展示品を眺めていると、だんだん辺りが騒がしくなって来ていたが、それにはまったく気づかずにいた。
ざわついている方から人混みをかき分けて走って来た男がノアにぶつかる。その衝撃でふたりとも床に倒れ込んだ。何がどうなっているのか、状況がつかめないままノアが床に手をついて起き上がろうとする。
男は急いで立ち上がり、焦っているのかエスカレータを走りながら2階へ昇って行った。倒れたノアのことなど気にも止めていない様子だ。あまりの咄嗟の出来事に文句のひとつも言えなかった。振り返ると、今度はさっきの男を追いかけて複数の男が走って来る。さっきの男と同様に複数の男がそのままエスカレータを走りながら2階へと昇って行った。「なんだ?何があったんだ」不穏な空気の中、胸騒ぎがする。よほど何かをヤラかさないと仮想現実の世界でそこまで人に追われることはないだろう。
(さっきの男は逃亡しているようだったが・・・・?)
ノアは、さっきぶつかってきた男が床に何かのアイテムを落としていることに気がついた。手に収まるほどの大きさの丸い球だ。「なんだ、これ?」その球は中央からプラズマを発生させ不気味な輝きを放っていた。ノアはその球を拾うと、こっそりポケットに仕舞った。周りにいる人々は逃亡している男と追っている複数の男に気を取られ、誰も球のことなど見ていない。気づいたのはノアだけだった。
一方、ビルの屋上には特殊部隊を乗せたヘリが到着していた。隊員たちはヘリを降りると駆け足でビルの中へ入って行く。地上から追いかけてきた複数の男たちと上空から降り立った特殊部隊に挟み撃ちにされ逃亡者はまるで網の中の魚である。この包囲網から逃げ遂せる術はない。
複数で追いかけていた男たちは覆面の警察官だ。そして、上空から降り立った特殊部隊と合わせて、どちらもAIである。ひとりひとりが状況を判断し、物事の合理性と法律を理解している。その姿は生身の人間と大して変わらない。ただ仮想現実の中に存在しているだけで、普通に生活しているし結婚したり退職もする。死は存在しないが国を統括するAIに時間が来たら削除される。それを死と呼ぶかどうかは別として・・・。
その周期は10年である。学習を重ねて個性を持ったAIを軌道修正してアップデートするよりも、新たにAIをスタートさせたほうがパソコンの負荷は軽いらしい。それに軌道修正したAIにバグが起きると後々面倒なので周期的にその存在を替えたほうがリスクが少ないようだ。
国を統括するAIが警察官や特殊部隊に扮したAIを10年周期で削除するといっても、そのデータはクラウドコンピュータに保存されている。データは残り、仮想現実からは姿を消す。仮想現実のアップデートに合わせて、警察官や特殊部隊がリフレッシュされるのだ。それは時代の移り変わりと似ている。ずっとそのままで不変なものなど在りはしない。
ビルの4階で逃亡していた男は拘束された。複数の覆面の警察官と特殊部隊が男を取り押さえている。仮想現実の街にある店の中でド派手な逮捕劇が披露され、周りにいたプレイヤーたちは血の気が引いてしまった。国を統括するAIによる絶対的な権力をまざまざと見せつけられたような気分だ。
ネオグライドでパラメータ異常を起こしたbotを投入したり、最近のアップデート後からの街の様子はおかしくなっている。e-sportsもエルディオスの街も不穏な空気が漂う。
一番おかしいのは、網の中の魚、逃亡者だ。スマートグラスを外してログアウトすれば、わざわざ仮想現実の中で逃げる必要はなかったのではないか?誰もがそう思う。きっとそれができない理由があったに違いない。
今日の出来事は、謎に満ちていた。
0
あなたにおすすめの小説
【新作】1分で読める! SFショートショート
Grisly
ファンタジー
❤️⭐️感想お願いします。
1分で読める!読切超短編小説
新作短編小説は全てこちらに投稿。
⭐️忘れずに!コメントお待ちしております。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】
3巻からは戦争編になります。
戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。
※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる



