世界を調律する唄

takemiyu

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第二章

森の聖地①

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翌朝、三人は、夜明けと共に再び歩き始めた。

昨日までの、どこか重い空気は消え、リアンとフィンは、時折言葉を交わしながら、森の中の獣道を進んでいく。セラフィナは、先頭を歩きながらも、二人の様子を注意深く見守っていた。
太陽が昇り、森の木々の間から、眩しい光が差し込むようになった頃。
セラフィナが、足を止めた。

「……着きました」

彼女の言葉に、リアンとフィンも、顔を上げる。
彼らの目の前に広がっていたのは、これまで歩いてきた森とは、明らかに異なる、異質な空間だった。
古木の枝には、見たこともない色彩の蔦が絡みつき、足元には、不思議な模様を描く苔が生えている。空気は、どこか甘く、そして、かすかに金属のような匂いが混じっていた。

そして何よりも特別だったのは、聞こえてくる音だった。
風が木々を揺らす音、鳥のさえずり、川のせせらぎ…それら全てが、まるで囁き合うように、小さく、しかし多重音声のように、彼らの耳に届くのだ。

「ここが、『囁きの森』です」

セラフィナは、静かに言った。

「この森には、古代の力が宿っています。不用意に足を踏み入れると、その力に迷わされ、二度と出られなくなることもあるでしょう」

彼女は、懐から、一枚の古びた羊皮紙を取り出した。

「私があなた方を安全に、聖地の中心まで導きます。決して、私から離れないでください」

セラフィナは、そう言うと、慎重な足取りで、森の奥へと進んでいった。
リアンとフィンは、顔を見合わせ、小さく頷くと、セラフィナの後を追った。
囁きの森の中は、明るいのだが、どこか薄暗く感じられた。木々の葉は奇妙な形をしており、風が吹くたびに、様々な音色を奏でる。
まるで、森そのものが、生きているかのように。

歩き始めてしばらくすると、フィンの足が、ふと止まった。
彼は、地面に生えている、珍しい花に目を奪われていた。

「リアン、見てください!この花…花弁が、まるで透明なガラスでできているみたいだ!」

フィンが、手を伸ばそうとしたその時だった。
セラフィナの声が、厳しく響いた。

「フィン殿!触れてはいけません!」

ビクッとして、フィンは手を引っ込めた。

「ど、どうしてですか?」

「この森の植物や鉱物には、強い魔力が宿っていることがあります。下手をすれば、毒に侵されたり、石化したりすることもあるのです」

セラフィナの言葉に、フィンは顔面蒼白になった。

「す、すみません…つい、好奇心で…」

「好奇心は大切ですが、ここでは自制心が必要です」

セラフィナは、そう諭すと、再び歩き始めた。
リアンは、フィンの肩をポンと叩き、注意深く周囲を見回しながら、セラフィナの後を追った。

森の奥へ進むにつれて、囁きの声は、次第に大きくなっていった。
それは、具体的な言葉ではないのだが、彼らの心の奥底に、直接語りかけてくるような、不思議な感覚だった。

不安、期待、遠い日の記憶…
それぞれの心が持つ秘密が、森の囁きによって、呼び覚まされていくような、試練に満ちた道だった。
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