24 / 79
クラリッサの初恋
しおりを挟む「アルジェント君……」
ベルティーナを抱えて大神官と共に行ってしまったアルジェントの後姿を見つめながら、初めて彼を見た時の事を思い出した。
街中で『拾ってください』と書かれた箱に何故か、彼は入っていた。身形は綺麗で毛先に掛けて青くなる銀糸、紫と金の不思議な配色の瞳の、とても綺麗な男の子。子供の時から誰にでも可愛がられてきたクラリッサでも見ないその美少年が欲しくなった。その日は、偶然父ルイジと母アニエスとで買い物に来ていた。普段は平民がよくいる街中にはあまり来たがらない母だが、父がお勧めのケーキがあるカフェに行こうと誘った為来ていた。
店から出た時に見えた綺麗な男の子が欲しくなり、拾ってくださいとあるのだから彼は誰かに拾われたい。支払いをしている父はまだ店内。一緒にいるのは母。
『お母さま、あの子ほしいです!』
『なあに?』
クラリッサが指差した方向を母と一緒に見てショックを受けた。
美少年の側によく知る少女がいた。
毛先にかけて青くなる黄金の髪、大きな濃い紫水晶の瞳をした従姉――ベルティーナが。
クラリッサは従姉のベルティーナが苦手だった。母の伯父がいるアンナローロ公爵家に行くと伯父もおばも従兄も自分を可愛がってくれるのに従姉だけ可愛がってくれない。
クラリッサにばかり構う伯父やおばの気を引こうとしているのを何度も見たがどれもクラリッサを可愛がるのに夢中でベルティーナは邪険にされ、従兄からも可愛いクラリッサが優先だと邪魔者扱いをされていた。最近ではベルティーナは何も言わなくなり、しなくなり、クラリッサが来ても部屋に閉じ籠るようになった。
何をしているのかと気になって部屋を覗くと侍女と楽しそうに人形遊びをしていて、自分も混ぜてほしくて部屋に入ったらベルティーナに追い出された。
他人に優しくされてばかりのクラリッサは初めての事で戸惑い、次第に悲しみで涙が止まらなくなり、泣きながら両親達に訴えた。
伯父に叱られ打たれているベルティーナを見て少し怖くなった。自分が泣き付いたせいでベルティーナが叱られていると。
頬を叩かれ、泣きそうに顔を歪めながらも涙は流さまいと唇を噛み締めるベルティーナの瞳と目が合った。
ビクッと震えたせいでクラリッサを睨んでいるとベルティーナはおばにも打たれた。
自分は悪くない、ベルティーナが悪いんだと言い聞かせ無理矢理部屋に連れて行かれたベルティーナを見ないようにした。
『わたしがさきに見つけたのに……!』
美少年と幾つか言葉を交わしたベルティーナが手を差し出し、その手を迷いなく取った美少年を連れて行った。
母に慰められても全然嬉しくなかった。先に見つけたのは自分で、連れて帰るのも自分の筈だったのに。
ベルティーナの従者となった彼がアルジェントという名だと知り、名前を呼ぶ機会をずっと窺ってもそんな日は来ず、常にベルティーナの側にいるアルジェントへの気持ちは募り、彼を侍らせるベルティーナが憎い。
王太子の婚約者になったベルティーナにアルジェントは必要ないと思い、母にアルジェントが欲しい旨を伝えたら。
『どこの馬の骨かも分からない相手をクラリッサの従者には出来ません。わたくしがこうなんだから、お兄様に言っても無駄よ』と一蹴された。それでもめげずにお願いし続け、折れた母が伯父に言ってくれた。が、最初の頃の母と同じ意見で却下された。
「やっとアルジェント君と一緒にいられると思ったのにっ」
婚約破棄をされても、家族から見放されてもアルジェントはベルティーナを見捨てない。クラリッサの許へ来てくれない。
やはり、王太子の愛情が本当はベルティーナにあって、アルジェントがいなくてもいいと思わせないとならない。
「……そうだわ」
リエトはきっと話していない。
湖で溺れた自分を助けた少女を初恋の君としているのは知られている。だが、その相手がベルティーナだとは打ち明けられたクラリッサ以外は知らない。
どうやって湖に溺れたリエトを助けたか不明だが、毛先に掛けて青くなる黄金の髪色を持つ少女はベルティーナしかいない。
ベルティーナは自分がリエトの初恋の君だと分かれば、きっとアルジェントを手放す。ペットだ、なんだと言って彼を縛り付けているがリエトに愛されればペットは不要になる。
「ベルティーナお姉様……お姉様には王太子殿下がいるのだから、アルジェント君は私が貰います」
――大聖堂に着いたアルジェントとベルティーナの背中を凍える何かが走り、二人ソロって身震いした。
「どうしたの~?」とイナンナ。
「いえ……とても嫌な感じがして……」
「……あんまり、良くない事が起きたりしてね……」
439
あなたにおすすめの小説
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる