婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

文字の大きさ
65 / 79

ビアンコではなく、ベルティーナが①

しおりを挟む

  

 重傷を負った兄の代わりとして、父の仕事を手伝うようになって早五日が過ぎた。領地から送られていた嘆願書の量に驚いたが、五日前以前は色々あり過ぎて執務が滞っていたせいだと家令に話され、それもそうかと納得してまずは嘆願書の整理から始めた。

 一枚一枚内容を読んで簡潔に纏め、全ての嘆願書を読み終え纏めた内容を父に渡した。執務室にいる父に書類を渡すという行為を初めてした。話があるからと呼ばれたのは多々あれど。

 五日目の今日は領地にある橋の修理に掛かる費用と日数の計算、特産品であるリンゴの豊作により例年より高い収入を得られた事による領民への還元、更に領地にいる父方祖父母への処置。
 今回の騒動を聞きつけ本邸に駆け付けるなり、父にアニエスを助けろと言い出した。唖然とするベルティーナと違い、父は分かっていたのか淡々と断って先代夫妻を追い返した。

 もっと怒るべきだと憤慨するベルティーナに父は変わらず淡々と無駄だと首を振った。


『あの人達は元々娘が欲しかった。息子は跡継ぎの為に欲しかっただけで、娘のアニエスを溺愛していた』
『元を辿れば、お祖父様とお祖母様がアニエス叔母様を付け上がらせた原因では』
『かもしれないな』


 アルジェントが驚く言葉を述べた。


『先代夫妻は魅了にかかっていないみたいだよ』


 じっと喚く先代夫妻を見ていたアルジェントは魅了に掛けられた際の症状が二人にはないと言い、ベルティーナや父は驚きはしたがショックは然程受けていなかった。アニエス贔屓は魅了によるものじゃなく、本心からくるものだと知って。
 ただ、どこかホッとしている父がいた。散々冷遇されてきた理由が魅了のせいだったら、心中は複雑一色になった。実際は本心からと分かり気にせず付き合いを切る。

 出て行った先代夫妻に悪戯を仕掛けたとアルジェントに小声で囁かれたベルティーナは叱らず、不敵に笑って頬を指で突いた。
 領地へ戻る道中、立ち寄れる場所は殆どない。逃げられない馬車の中でお腹を下し屋敷に到着するまでひたすら耐えさせる。

 公爵として非常にプライドの高い二人だ、粗相をする真似は絶対にしないと予想して。
 ただ、結果はどうなろうと知った事じゃないからと報告は不要とした。


「うん。お父様に渡しましょう」


 纏めた書類関係を持って父のいる執務室へ足を運んだ。年季の入ったペンで黙々と書類にサインをする父と側には家令。そして……くるくると父の周りを飛ぶミラリア。

 前に一度、精神を崩壊した母の許へ行かないのはどうしてかと父に訊ねてみた。言い難そうにしながらも心当たりを教えられた。

 赤ん坊の時のベルティーナは体が弱く、目を離すとすぐに体調を崩しがちだった。片割れを失い、生き残った方も死んでしまったら母は自分が耐えられないと分かっていたから、積極的にベルティーナの世話をした。その間、ミラリアの事を忘れて悲しみを消そうとした。

 話し合おうとしてもベルティーナを理由に断られるか、泣かれてしまって話をする場合ではなくなり、母の精神を守る為にミラリアについて切り出さなくなった。いつか母の方からミラリアの名を聞く時がきたら、とことん話そうと父は決めていたがアニエスの魅了によって叶わない夢となってしまった。
 自分を覚えていてくれる父を助けたい気持ちはあっても、自分を忘れてしまった母を助ける気までは起きなかった。

 そう考えると人間らしくて、自分の双子の姉らしい。


「よく出来ている」


 書類を一通り確認した父は顔を上げ、この後王城へ赴くと告げた。


「陛下から登城要請が来ている。家令を連れて行くから、ベルティーナには留守を任せたい」
「分かりました。叔母様とおじ様の審議の結果がもう出たのですか?」
「そう早く終わらん。相手はモルディオ公爵家。慎重に議論を重ねている最中だろう」


 大聖堂を管理する大神官の証言や証拠、提出された夫妻を尋問証言を見て現在も審議されている。


 但し、財産と領地没収は免れないだろうとは父の意見。



しおりを挟む
感想 345

あなたにおすすめの小説

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

恋した殿下、愛のない婚約は今日で終わりです

百門一新
恋愛
旧題:恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜 魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

処理中です...