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心に負ったもの2
「十一年前の誤りを今になって弁解するの? そんなの、どんな言葉で見繕ったって時効だよ。君が何を言おうがミリーちゃんは戻らない」
「っ……なら、お前は?」
「うん?」
「お前は何故ミリディアナといる? 本来、お前達悪魔にとって聖女の力を持つミリディアナは忌まわしい存在の筈」
「決まってるでしょう。好きになったから」
「なっ」
「魔王には聖女として完全に目覚める前に殺せと命令された。けど、実際見に行ったら部屋の真ん中で一人泣いている彼女がいた。泣いている理由が気になったから声を掛けて、会い続けている内に彼女が欲しくなった。それだけだよ」
「……なら、あのミリディアナの遺体はお前が?」
「そうだよ」
家に迷惑を掛けたくない私の我儘を聞いてくれたルーが用意した偽物の遺体。損壊が酷かったと聞いたけれど悪魔に殺されたと思わせるなら、やり過ぎなくらいが丁度良かったのかもしれない。私の為に敢えて言わなかったルーも、見るも無惨な遺体の話を聞かせたくなかったのだ。ルーに大事にされているとはもう言われずとも解り切っているのに、こんな状況でも無性に嬉しくなってお腹に回されている腕にそっと手を乗せた。
「ねえ王子様。君が何を言った所でミリディアナは君の所には戻らない。大体、彼女が死んだ後、君は仲良しな公爵令嬢と婚約が結ばれて喜んでいたそうじゃない。彼女が見つかったからって拘る必要が何処にある? 寧ろ、悪魔と一緒にいる時点で抹殺対象だ」
ルーはアリア様の事をそこまで調べ尽くしていたんだ。
驚いたのと同時に、結局スノー殿下は私が殺されて何の懸念もなく好いている令嬢と婚約が結ばれて喜んでいたのだ。
ルーの言う通り。私に拘る理由が全く見つからない。
私が聖女の力を持っているから? けど、聖女の力は悪魔にとって猛毒だ。利用価値すらない。
悪魔に利用されると思っているのだろうか?
「ミリディアナ、そいつの言葉に惑わされるな。そいつの言っている事は全てハッタリだ!」
「何処が? ちゃんと調べたんだよ? 高位魔族は、相手の記憶を覗く魔法が使える。君やアリア、周囲の人間の記憶を見た。俺が言っているのは、全て記憶を覗いて得た事実だけだよ」
「アリアの母と王妃が友人で、私はミリディアナに会う前からアリアとは面識があった。只の幼馴染に過ぎない」
「ふふ、でもさ、友情が愛情に変わる事だってあるんだよ? 現に王子様。君、アリアを何度も抱いていたじゃない」
「っ」
「アリアに掛ける言葉や見せる表情には全て愛情が宿っていた。仮初めじゃない、本物の感情だ。違う?」
ルーの問い掛けにスノー殿下は何も答えない。
唇を噛み締め下を向いた。
これが事実。
死んだ突き放し続けた元婚約者が実は生きていて、悪魔に騙され一緒にいるから同情して手を差し伸べただけ。
弱き者を助け、守ろうとする王族としての性が彼をそうさせた。
スノー殿下が語る言葉は全て偽り。体の良い風を装い、普通では持ち得ない力を持つ私をヘーリオス王国の為に留まらせる為の言い訳。
「……現実が分かったなら、さっさと死ねよ」
温度が消えた冷徹な一言が放たれた瞬間――!
唐突にルーに横に投げられた。受け身を取る暇もなく、床にぶつかって痛みが全身を襲った。
思考が混乱する。痛みで顔を顰め、ルーがいる方を見て……
「え……」
絶句した。
「っ……ぐ……ミリー……ちゃ……ん……」
「ルー……?」
ルーの……ルーの胸に光りの、聖属性の魔力が込められた矢が刺さっていた。口から大量に吐血したルーが片膝をついた。
何が、起きたの?
私はルーに慌てて駆け寄ろうとした。
「行くな、ミリディアナ」
「嫌――!」
直前にスノー殿下に腕を掴まれた。振り払おうとしても強く掴まれた腕は解放されず、それ所か、引き寄せられ抱き締められた。
苦しげに跪くルーが目の前にいるのに……!
「離して! やだっ!」
「ミリディアナ。君をそこの悪魔から解放してやる。君は騙されているんだ」
「騙されてなんかない! 騙しているのは殿下の方です! 私が嫌いなくせに、いざ死んだ私が見つかったら聞こえの良い言葉を言って嘘を平然と紡ぐ殿下なんて大嫌いっ!!」
「っ!! 違う、私は本当に君が好きだった。好きなのに、あの様な態度しか取れず、君を傷付けた事をずっと後悔していた。君に謝ろうと庭園に呼び出した時も、何故か言いたい言葉が出てこなかった。君が無惨に殺されたと思ったあの遺体を見た時だって――」
「……馬鹿じゃないの?」
必死な様子で弁解をするスノー殿下を、苦しげながらも一蹴したのはルーの冷徹な声。
スノー殿下の力が一瞬緩んだのを隙に殿下の腕に噛み付いた。腕が離れルーに駆け寄った。
「ルー!」
聖属性の矢は胸に刺さったまま。聖属性の魔法を扱えるのは聖女だけ。そして、聖女の力は悪魔にしか通用しない。
アリア様が何処からルーを攻撃したか、なんて苦しむルーを前にして冷静に考える能力が欠如していた。
でも、同じ聖女の力を持つ私なら消せる。
矢に触れようした。
――時だった。
「止せっ!!」
スノー殿下の切羽詰まった叫びと、
「ミリディアナ!!」
ルーの悲痛な叫びと、
「……ルー……リッヒ……」
自分の身体に衝撃が走ったのは同時だった。
途端に走る激痛、視界の下に映る銀の刃、遠くなっていく意識。
ああ……私……刺されたんだ……
そう思ったのと一緒に視界は真っ暗となった。
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