2 / 13
2 思い出さなければいい
しおりを挟む「ん……」
重たい瞼を開けた。月光が窓から差し込む薄暗い室内。寝惚けた意識で胸に感じる重みが何か確認した。エウフェミアの胸に顔を寄せてヨハンが眠っていた。終わった後、大抵気絶したように眠るエウフェミアは自分が裸ではなく、肌触りのいいネグリジェを着せられていてホッとした。裸だったら、起きたヨハンに襲われる可能性がぐんと高まる。癖毛な黒髪に指を通した。猫の毛を連想させる柔らかな髪の毛。暫く撫でているとヨハンの瞼が震えた。時間をかけて開かれた紫水晶の瞳は、薄暗い部屋の中でも輝きを失わない。妖しく光る紫水晶に胸が高鳴った。
「人の頭を撫でて楽しいか?」
寝たふりをしていたらしい。
「ヨハンの髪、触り心地が良くて好き」
「それは良かった。だが、俺はフェミーの髪の方が好きだ。さらさらして、いい匂いがする」
「ん……」
顔を上げたヨハンに顎をぺろりと舐められた。くすぐったさで声を漏らすと変な場所を触られ、顔を真っ赤にして「ヨハン!」と声を大きくした。
「はは、冗談だ」
「も、もうっ、冗談で触っていい場所じゃないっ」
気を抜くとすぐにエウフェミアをその気にさせようとする。
油断も隙もあったものじゃない。
拗ねた面持ちでヨハンを見、そっぽを向いた。フェミーと呼ばれても無視を貫いているとまた同じ場所を触られ、ヨハン! と真っ赤な顔で怒る。今度はヨハンが拗ねた顔をしてエウフェミアを見上げた。
「フェミーが相手をしてくれないと、退屈で死にそうだ」
「退屈で死ぬ人はいないわ」
「いいや。死ぬよ。刺激を受けない日々を過ごしていると最初に脳が死んで、感情も何もない……ただ生きているだけの存在になる。特に、俺達高位魔族は長寿だ。長く生きる程、生を実感するものを受けていないとあっという間に死んでいく」
人間の平均寿命が80歳以上なら、悪魔の寿命は軽く数千年を超える。ヨハンの言う通り、高位魔族程長く生きる。魔界で最も長生きなのは公爵家の当主である2人の悪魔。エウフェミア自身、接点がないので詳しく知らないがヨハンは魔王の息子なので何度か面識があるとか。
エウフェミアに抱き付いたまま、お休みと言ってヨハンはまた眠った。健やかな寝息を聞いているとエウフェミアも眠くなってきた。ヨハンの頭を抱き締めて眠りに就こうとしたが、今度の夜会、自分はきちんと元家族とちゃんと会えるだろうかと不安になる。
会って、第2王子妃として、相応しい振る舞いが出来るだろうか。
エウフェミアの生家アクアディーネ侯爵家は、侯爵家でありながら父の政治的手腕によって『五大公爵家』と並ぶ財力を誇る。下手にアクアディーネ侯爵家を敵に回せば面倒、というのは魔界の貴族ならば誰でも知っている。流石に公爵家には敵わないが……。
「ねえ……ヨハン……、私……ヨハンには言わなかったけどね、今度の夜会すごく不安なの。お父様達に会うのもあるけど、あの子もいるから……」
エウフェミアの口にしたあの子とは、腹違いの妹のこと。
家族として生活したのは1年程。
お姉様、お姉様と慕って親鳥に付いて回る雛鳥のようにエウフェミアと一緒にいたがった可愛い異母妹。
『エウフェミア。お前はもう1人ではない。姉になるのだ。何時まで1人っ子気分のままでいるつもりだ』
『妹の為にお茶もしてやれないのか? なんて姉だ』
『妹が欲しがっているのに譲ってもやれないのか? あの女の娘なだけあるな』
……脳内が愛人と娘の幸せしかない父にとって、エウフェミアは幸せを邪魔した女の残した邪魔者でしかなかった。
何をしても異母妹優先、異母妹が最優先なあの家での生活を思い出すと胃がキリキリと痛くなる。
例え異母妹が良い子でも、あの父と離れ離れになっていなかったら、エウフェミアは毎日胃痛に悩まされ胃薬が手放せなくなっていただろう。
135
あなたにおすすめの小説
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる