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連載―私はお父様とパパ様がいれば幸せです―
パパ様とカフェデートで遭遇2
しおりを挟む王都で人気だというカフェの前には、行列ができていた。若い二人組が特に目立っていた。皆仲が良好そうでメアリーはちょっと羨ましく思う。うまくいってないのは自分と婚約者だけではないと執事は気を遣って言ってくれるが、現実を見るとそうは抱かない。
メアリーと皇太子ミカエリスの場合は、メアリーが嫌になったら即婚約解消という条件付き。
皇族に不老の血を入れる気がない皇帝が昔からミカエリスに他に相手を探しておけと言ってあったから、皇帝と双子の父親だけがこの婚約に関してどうでもいいと考えていた。
「パパ様」
「なあに」
世の女性が向けられれば、卒倒すること間違いなしなパパ様の甘い笑み。愛娘だけに向けられる特権。
「殿下とは婚約解消になるの?」
「その内ね。皇帝は、皇太子お気に入りの公爵令嬢を次の婚約者にと考えているよ。皇太子本人がそれを知っているかと言われたら、知らないんだ」
「知らないの?」
「昔から、他の相手を見つけておけと言われても最後に結婚するのはメアリーだと思ってるんだ」
「殿下が私と結婚して得る利益があるからでしょう?」
行列の最後尾に並ぼうとしたら「人が多いし、待つのが退屈だから今度にしよう」とアタナシウスに方向転換させられ違うカフェへ向かった。そこも人気店の一つだが、丁度席が空いているとのことで店内に通された。
アタナシウスに引かれた椅子に座ったメアリーは、給仕からメニュー表を貰って視線を下げた。
口にしたのは、先程の続きだった。
「殿下が私と結婚して得るのは、シルバニア家の後ろ盾?」
「あるだろうね。次期皇帝となる皇太子にしたら、この上ない力だ。後は?」
「お祖母様が不老になったのは、お祖父様と愛し合ったからだよね? 殿下も不老になりたいのかな?」
「あり得るかもね。その他は?」
「うーん」
思い付く内容を言っていくがアタナシウスは肯定も否定もせず、次を求める。メアリーが出し切ると「なら、この話は終わり」とメニュー表をテーブルに置いた。
「正解は?」
「さあ? 知らない」
「……」
最初から答えを持っていない、というより、アタナシウスにしたらどうでもいいのだ。台詞と表情は一致しているのにメアリーを見つめる深い青の瞳から愛情が消えることはない。
メアリーはそれ以上続ける気はなく。ちゃんとメニュー表を見つめた。
ケーキと飲み物のセットが妥当だろう。ケーキについては、今日は幾つ頼んでもいいとアタナシウスが言う。ケーキは大好き。メアリーは苺タルト・チョコレートケーキ・オペラ・フォレノワール等、次々に挙げていく。
アタナシウスが近くを通り掛かった給仕を呼び止めた。自分とメアリーの飲み物を伝えた後、店にあるケーキ全種を一つずつ持ってくるようとも伝えた。
一驚した給仕だが、慌てて頭を下げた後奥の方へ駆けて行った。
食いしん坊だと思っているアタナシウスへ剥れて見せるも「可愛いだけだよ」と頬を指で突かれた。
「そんなに食べられないわ!」
「持って帰って屋敷の使用人達にあげたらいい。一つくらいティッティ用に選んであげないと」
「じゃあ、私が選んでいい?」
「勿論。メイが選んだのなら、ティッティも喜んで食べるよ」
逆にアタナシウスが選んだ物なら絶対に食べない。
「メイと僕で飲み物は紅茶にしたけど良かった?」
「うん。私、紅茶はとても好きだよ」
「そっか」
月に一度ある、婚約者とのお茶以外を除いて。
重苦しく、息をするのさえ億劫な空間で、黙って紅茶を飲み続ける事でしか時間を潰せない。時を操作する魔法があれば、毎回使って皇太子とのお茶を早く終わらせられるのに。
時を操作する魔法は極めて高度で習得度が難しい。扱えるだけでその者の腕は超一流。お父様、パパ様、祖父以外で扱えるのは皇帝のみ。
当代の皇帝は魔法の才能に優れ、歴代の皇帝より強大な力を有する。更に幼少期より、双子に教えを請うていたのもあって帝国でも屈指の実力者。
関係が良ければ双子公爵は皇帝や皇族に個人的に力を貸す。が、今の皇族で双子に好かれているのは皇帝のみ。
皇太子はメアリーに対する態度が気に食わない、皇后はメアリーを装飾品にしか思っておらず、口では未来の皇后と言いながら本心ではその座を皇太子の恋人に座らせてやりたいと望んでいる。
「届くのが楽しみだね!」
「そうだね」
全種のケーキが届けられるなら、今二人が座る席のテーブルでは小さい。ケーキが運ばれたら給仕にテーブルを一つ追加してもらおう。
暫くして二人の給仕が三段式カートに載せてケーキを運んできた。一人にテーブルの追加を頼むと、空席の所からテーブルを一つ持ってメアリー達の隣に置き、そこにケーキを次々に置いていく。店にある全種のケーキが置かれると圧巻だった。一つずつでも、種類が多ければ数も増える。
次にティーカップとソーサーを二人分置き、ティーポットを傾け紅茶を注いでいく。注ぎ終えると砂糖の入った小瓶を側に置いた。
アタナシウスは給仕に「余ったら持って帰るから箱に詰めてくれるかい」と言う。畏まりました、と頭を下げると給仕達は去って行った。
早速、苺タルトを選びデザートフォークを持ったメアリーの耳に知っている声が届いた。
「まあ、席が空いてないの?」
嫌な予感がする。アタナシウスを見ると優雅な動作で紅茶を飲みながら、視線はしっかりと声のする方へ向いている。ティーカップの縁から口を離すと吹き出すように笑った。
「席がないのが、僕とメアリーが空いていたテーブルを使っているせいだと知ったらどんな反応をするかな?」
確実に面倒なだけ。
彼女がいるということは、相手がいない筈がない。
桃色の愛らしいドレスに身を包んだ女性――マーガレット=ホワイトゲートは、隣にいる男性の腕に抱きつき上目遣いで見上げた。
「折角、話を聞いたミカが来たいと言うから来たのに」
「申し訳ありません……」
給仕が深く頭を下げていると男性がマーガレットの頭を優しく撫でた。
「満員なら仕方ないよ、メグ。他を探そう」
――ああ、やっぱり
マーガレットが一人で来るはずが無い。なら、相手は? と問われて浮かぶのは、確率的にも一人しかいない。
変身魔法で髪や瞳の色を金色に変えているが顔立ちや声までは変えていない。
メアリーの婚約者――ミカエリス。
「あら。ちょっと待って。あそこの席、どうして椅子はあるのにテーブルはないの?」
目敏いマーガレットが指摘した。すぐに自分達がテーブルを二つ使用していると聞かされ、乗り込んできそうだ。苺タルトは食べたいがマーガレット達が気になるのも本当。アタナシウスはもう二人を見ていない。チョコレートケーキを選んで食べていた。
「メイも食べなさい。美味しいよ」
「う、うん」
気にしていたらいつまで経っても美味しいケーキが食べられない。来たら来たらでその時だと、メアリーがデザートフォークで苺タルトを刺した時――
「……どういうことだ」
近くから、怒りに満ちた低い声が放たれた。見ると険しい顔で自分とパパ様を睨め付けるミカエリスと驚愕の顔を浮かべるマーガレットが立っていた。
アタナシウスは困惑としている給仕へ「彼等は知り合いだから下がっていいよ」と遠ざけた。
メアリーは何故ミカエリスが怒りの籠った瞳をぶつけてくるかが分からなかった。さっきの給仕とは、別の意味で困惑していればアタナシウスが呆れの相貌で二人を見た。
「で、一体どうしたのかな? お忍びの皇太子殿下」
「まあ、シルバニア公爵様。いくら公爵様だからって、テーブルを二つ使うなんて非常識ですわ。メアリー様に甘くても限度がありますわ」
マーガレットの中では、メアリーがアタナシウスに我儘を言ってテーブルが二つ使われているとなったらしい。面白げに笑みを零したアタナシウスは視線でメアリーに問い掛けた。
“何か言うことはある?”
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