ラヴィニアは逃げられない

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22話

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 生け捕りとなったブラッドラビットは気性が荒くなり、頑丈な牢獄に閉じ込められているものの、毎日内側を強い力で攻撃しているので何度か牢獄を変えているのだとか。何もしていない、静かに暮らしていただけのブラッドラビットがあまりにも哀れだ。後妻や異母妹の心配よりもブラッドラビットへの心配が上を行く。思い入れがないとはいえ、身内相手に血も涙もない人間であった自分自身に驚くラヴィニアだが。アイスティーを味わうシルバース夫人は気にした風もなく「ラヴィニアちゃんはどうする?」と問うてきた。


「どうする、とは?」
「もしも、予想が当たってキングレイ夫人と妹君が見せしめの為に興奮したブラッドラビットに殺されたとしましょう。ブラッドラビットは人間を殺した時点で駆除の対象となるわ。きっとロディオンはキングレイ侯爵夫人とその娘を殺したと大義名分を掲げてブラッドラビットを殺すでしょう」
「そんな……。二人を出席させない方法がないか考えます」
「考えても貴女の言うことを夫人と妹君は聞くかしら?」
「……」


 シルバース夫人の問いにラヴィニアは何も答えられない。ラヴィニアが何か言おうものならあらゆる難癖をつけ黙らせ、立場が変わると止まらない罵詈雑言を浴びせるのがあの二人だ。


「お義母様とプリシラはともかく……静かに暮らしていたブラッドラビットがあの二人を殺したせいで駆除されるのはあまりに可哀想です。ブラッドラビットを助ける方向で考えます」
「ウサギ好きだものね、ラヴィニアちゃんは」


 ラヴィニアのウサギ好きはメルから移っただけ。
 夫人だって息子がウサギ好きなのは知っている。


「お披露目会の招待状が私宛にも届いているなら……」
「ラヴィニア」


 参加して後妻とプリシラが見せしめにならないようするか、ブラッドラビットを逃がすかのどちらか。真剣に悩む間際に険しい声色のメルに止められた。


「危険な場所に君を行かせる訳ないだろう」
「だけどこのままじゃ二人やブラッドラビットが危ないわ」


 また、プリシラがいなくなるとキングレイ家を継ぐ跡取りがいなくなる。現在はプリシラが婿を取って家を継ぐ予定だが候補がいない。メルに懸想して追い掛けてばかりのプリシラを後妻と父が揃って応援していたせいで。これについては彼等の問題なので置いておこう。勝手に家を出たラヴィニアがキングレイ家の跡取りとなるのを二人は絶対に良しとしない。父の方は何を考えているか不明過ぎて読めないが後妻は大反対するだろう。


「お披露目会についてはこっちで片付けておくわ。ブラッドラビットもちゃんと助けるから、心配しないでちょうだい」
「お義母様やプリシラもですか?」
「とっても嫌だけど無惨に殺されるのを黙って見過ごせと言われてもそこまで冷酷じゃないの」


 言った通り非常に嫌そうな顔をしているがシルバース夫人がそう言うのなら、とラヴィニアは信じることにした。
 話題を変えようとシルバース夫人が修道院の話を切り出した。院長から泣きの連絡が来ていると。メルがラヴィニアを引き取る際、定期的に連絡を寄越すようにと言ったのに未だに一通も手紙が来ないのを心配しているのだ。
 ラヴィニアがメルを見ると違う意味で嫌そうな顔をしていた。


「もう関わりを持たないのに送る意味があるのか」
「サミュエルは心配してるだけよ。ラヴィニアちゃん、戻ったら修道院宛の手紙を書いてあげてね。院長も安心すると思うわ」
「分かりました」


 入所する際、院長には世話になった。変装魔法を使用しているのは分かっていただろうに、訳アリなラヴィニアに何も詮索せず、住まわせてくれた。周囲の人々の優しさに助けられていた。最も大きいのはハリーだろう。世話係を命じられたから気に掛けてくれていたとは言え、ハリーの存在は決して小さくない。
 きちんとお別れも言えず会えなくなった。院長宛の手紙と一緒にハリー宛にも書こう。また街に行って便箋を買いたいとメルに言うと嬉し気に頷かれる。ラヴィニアに強請られるのが嬉しいらしい。
 院長はどんな柄の便箋が好きか、ハリーもそうだ。二人に合う便箋を探さないと。
 便箋の柄を考えていると不意にメルがエドアルトについて母に訊ねた。


「一度プリムローズが入ってきたから、宮への暗号を変えたのにエドアルトが簡単に入ってきたんだ。母上、何か知りませんか」
「あらそうなの。知らないわよ、メルが暗号を変えてから誰にも言ってないもの」
「……」
「エドアルトはよっぽど気になるみたいね」


 誰がとは言わなくてもエドアルトが気にするのはメルだろう。大事なプリムローズが恋する彼を何が何でもラヴィニアと引き離し婚約解消へ導きたい。ふと、ラヴィニアは皇太子妃候補はいないのかとシルバース夫人に訊いてみた。目を丸くされるも夫人は疑問を出さずいるにはいると言う。ただ、エドアルト自身が皇太子妃候補と交流を持とうとしないのだとか。


「やっぱりプリムローズ様がいるからですか?」
「どうかしらね。そこは陛下と皇太子の問題だから気にしないでいるの。もしもの時は強制的に皇太子妃を選出するだけだもの」


 プリムローズが皇太子妃になる話はなかったのかと抱き、夫人に問うも首を振られた。幼い頃からメルに夢中なプリムローズは他の異性には一切の興味を示さなかった。他国の皇族・王族だってそう。皇太子にも言える。


 ――二ヵ月ぶりのシルバース夫人との話も終わり、シルバース家を後にして宮へ戻る馬車に乗ったラヴィニアとメル。行きと同じで膝上に乗せられるもキスはしてこない。強い力でメルに抱き締められていた。


「途中、街に降りて便箋を買いに行きましょう」
「ラヴィニアは自分で選びたいの?」
「うん。院長にはお世話になったもの」


 それに。


「他にもお世話になった人がいるから、直接お礼は言えなくても手紙で言いたいの」
「どんな人?」
「院長の知り合いで私が慣れるまでお世話をしてくれた人よ」


 敢えて性別を教えないのはメルが焼きもちを焼くからであるがメルは逃してくれない。性別に迫ってきた。名前を言っても男性だと知られる。メルの興味を逸らせる話題をと探した。するとメルの手がラヴィニアの胸元に伸びた。言葉を紡ぐよりも早く胸元部分を強引に引っ張られ、大きな膨らみを二つとも出された。背中に回っていた手と前の手が二つの膨らみを掴んだ。
「メルっ、やだっ、やめ――んん……っ」嫌がってメルから逃れようとしても、キスで言葉を封じられてしまう。痛くない力で胸の形を好きに変え、時折、飾りを指先で弄られる。飾りの触られ方は様々で。爪で引っ掻かれ、歯の間に挟まれ舌で執拗に舐められ、指の腹で押され、時に挟まれ、引っ張られる。情事の時執拗に胸全体を愛撫した手は、下半身に伸ばされるのが通常。
 今は狭い馬車の中。メルも最後までする気はないようでキスをしながら両手で胸を愛撫するだけ、スカートを捲ろうとしない。


「んん、んあ、め、る」
「ラヴィニア……」
「だ、め……メル……もうすぐ街に入るよ……っ」
「……気が変わった。このまま宮に帰ろう」
「え……!?」


 サミュエルやハリーに送る便箋を選びたいのにこのまま帰られては送れない。メル、と言い掛けた声は再びキスをされて発せなかった。

 馬車が皇宮の奥にある静養専門の宮に到着すると胸元を元に戻され、自力で立てない、歩けなくなったラヴィニアはメルに抱えられ部屋に入った。

 このまま寝室に入れられるのかと思いきや、テーブルの側に立たされた。


「メル……?」
「喉が渇いたんだ。そこのグラスに水を入れて?」
「う、うん……」


 言われた通り、テーブルに置かれていた水差しを手を伸ばして引き寄せ、逆様に置かれているグラスを手前に置いて向きを変えた。水差しの注ぎ口をグラスに傾きかけた時だ、メルの手が胸元に伸びた。


「メル……!? やだやめて……!」
「早く入れて」
「入れるからっ、手を退けて……!」


 馬車の時と同じでまた胸を露にされメルの手が下から支えるように回された。指先で飾りを弄られてはグラスに水を注げない。
 なんとなく、メルがこんなことをするのはお世話をしてくれたハリーの性別を言わなかったからだと解せる。名前を言うだけでも性別は知れるが拘る必要はあるのだろうかと疑問を抱く。お世話になったと言えど、平民の生活に不安を感じていたラヴィニアからすると大変有難かった。気さくで世話好きなハリーは気負えず話せた。
 何度訴えてもメルは手の動きを止めない。胸の愛撫を意識の隅に追いやり、急いで注ごうと手に力を込めて水差しを持った。


「ああっ!」


 ラヴィニアの考えは全部メルにはお見通しで、胸の飾りを強く摘まれ、一瞬ビリっと強い快楽に襲われて全身から力が抜けた。手に持っていた水差しも同じ。テーブルに倒れた水差しから零れ溢れる水を塞ぐ物はなく、あっという間に床へ流れていく。後ろでメルが笑う。最初から水を飲む気も、入れさせる気もなかったのだ。自分の言う事を聞かないラヴィニアに苛立っていたんだ。テーブルに手を付いたラヴィニアの後ろを退かず、スカートを腰まで捲った。


「……とても濡れてるな」
「っ……」


 脚の間に手を入れ、下着の上から割れ目をなぞられる。メルに言われなくてもラヴィニアだって自分が濡れていたことくらい分かっていた。帰りの馬車で愛撫を受けていた時からずっと濡れていた。下着を膝まで下げられ、愛液を垂らす中に指を入れられた。使っていない指で器用に割れ目の上にある突起を擦り、もう片方の手はずっと胸を愛撫したまま。
 厭らしい水音を鳴らされ羞恥心が募るのに、それが興奮剤となってラヴィニアの感度を上げていく。また、自身から垂れる愛液が脚を伝っていく感覚でさえ気持ちが良い。


「ね、え、メル、ベッドに行こう、よ。早く、メルの物に、なりたいのっ」
「言われなくたってラヴィニアはずっと前から俺の物だ……」


 立ったまま愛撫されるのは辛く、メルが後ろから支えてくれても辛い。ベッドの上ではメルも無防備になる。可愛いお願いなら幾らでもメルは聞いてくれる。一度ラヴィニアをイかせると衣服を脱がせ、寝室へ運んだ。
 ベッドに寝かせられると心臓の上辺りに刻まれた魔法の印を舐められた。強制的に快楽を引き出し、体の感度を上げられる。悲鳴じみた声を上げてもメルの舌の動きは止まらない。呆気なく二度目の絶頂を迎えてメルの唇は離れた。

 荒く呼吸を繰り返すラヴィニアは無理矢理開かれた脚の間にメルが顔を埋めたのを見て止めようとした。が、遅く今一番敏感な突起を舐められた。


「ああぁ! あ、だめえ、メルやだ……!」
「ラヴィニア……もっと感じて……俺を感じるんだ……」
「感じて、るからあ、メル……! メル……メル……!」


 馬鹿みたいにメルの名前を叫んで強く突起を吸われた直後、連続の絶頂を迎えた。短い時間で三度の絶頂をしたラヴィニアは大きく呼吸をし、休みたいと願ってもメルは止めてくれない。
 流れ出る愛液を飲み干すつもりで長く舐められ続け、ラヴィニアの意識が朦朧とし始めた時やっと離れた。

 ……これで終わりなら安心して眠れるのに。


「ひ、いああああ……ああっ……! メル……!」


 自分の衣服を脱ぎ去ったメルがまた心臓の上辺りにある印を舐め、甘い悲鳴を上げるラヴィニアの感度を上げていく。今か、今か、とメルを待つそこの表面に自身を何度か擦った後、一気に挿入した。

 甲高い嬌声を上げたラヴィニアは結合部から大量の愛液を吹き出したとは気付かない。びったりと肉の壁がメル自身を包むとゆっくり、ゆっくり、と律動が始まった。


「ん……ラヴィニアの、世話をしたのはどんな相手?」
「あ、あっああ……あ、んあ……! 男の、人……んあ!」
「どんなことを教えられたの? 俺に、全部話して」


 薄々修道院でラヴィニアの世話をした相手が男だとは気付いていたメル。ラヴィニアが言いたがらないのもそれが理由だろうと。固い口を開かせる方法は幾らでもある。
 ラヴィニアを抱いてから知った。ラヴィニアは快楽に弱い傾向がある。何度も絶頂させ、快楽を教え込むとかなり従順になる。身体の相性の良さもあるのだろう、ラヴィニアの中はとても熱くて締め付けて気持ちが良い。
 理性の欠片も残さない程イかせ、快楽に溺れたのを見計らって世話係の話を引き出させた。

 名前もちゃんと聞き出した。よくある名前だがサミュエルの知り合いなら貴族の可能性もあり、ハリーが愛称という場合もある。

 あの時は自分が悪かったとは言え、ラヴィニアの側に自分以外の男がいたと聞くだけで狂いそうになる。


「他には?」
「んあああぁ……! も、ないよぉ……!」


 自身を入口ギリギリまで抜き、根本まで一気に押し込む。ラヴィニアはこれに弱い。根本まで入った肉欲を逃がさないと締め付けてくる。メルの精を欲する肉壁の心地良さと貪欲さに思わず出しそうになるも、深呼吸で気持ちを落ち着かせ、同じ動きを繰り返す。その間にもラヴィニアは何度もイき、愛液を吹いてシーツを濡らしていった。

 早い時間に出発し、戻った時も外は明るかったのに、ラヴィニアが意識を失った時には既に空は夕焼けに染まっていた。




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