婚約者を捨てて逃げたら、何故か追い掛けてきました

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24話

 


 恋心を吸う石をミラから取り返そうと奮闘していたメルフィーナの耳に入ったのはリーラの怒声。振り向くと信じられないといった面持ちでミラを押し倒すメルフィーナを視界に入れるリーラの姿が。一瞬怯むも、最優先事項はミラから石を取り戻すこと。呆けるミラの手から石を奪い取ろうとするが寸でのところで阻止された。


「ミラお願いですその石を返してください!」
「駄目です絶対無理です諦めてください!!」


 ミラの方もリーラを意識しながらメルフィーナと同じく最優先事項は石の死守。自身の上にメルフィーナがいる理由をリーラに話したいが一度でも石を奪われればメルフィーナは二度と離そうとしない。言葉通り絶対渡せない。


「サンチェス公女からその石が何なのか聞いた」


 怒りを纏った低い声は大きくもないのに妙に室内に響き、二人の動きを止めた。俯いて顔色は窺えないがリーラから放たれる怒気で大体の感情は把握可能だ。


「メルフィーナ……僕を信じてくれるのではなかったのか……っ」
「……」


 レイラの件は置いたとしてリーラは確かにメルフィーナに誠意を見せようとした。仮令多量の魔力を消費しようとメルフィーナが信じてくれるならと迷わず石を手に取った。信じなかったのはメルフィーナ。責められて言い訳はしない。

 だが。


「……私への好意がなくなれば、殿下がロジャーズ公爵令嬢と婚約しても問題はないと予想したからです」
「っ、だからレイラは……!」
「はっきり言わせていただきます!」


 声を遮り、強い口調で言い放ったメルフィーナは事情を聞いている際に抱いた感情をそのまま言葉にした。下にいるミラが何か言いたげにしているが今はスルーである。


「殿下は少なからず彼女に情を持っています。疚しい事がなくとも、頻繁に一緒に出掛け、名前呼びを許し、抱き合っていた時に見せたあの好いた者を見つめる表情……! 患者と調整役バランサーの関係を徹底する事は難しいですか? 殿下がロジャーズ公爵令嬢に好意を持っていない等という言葉に関しては一切信用しておりません!!」


 二ヵ月前に見てしまったリーラとレイラが抱き合っている場面。躓いたレイラを抱き留めただけにしては、甘い瞳でレイラを見つめていた。そこに好意がない等言っても通用しない。きっぱりと言い放たれたリーラは返す言葉もなく口を噤み、苦し気に眉を寄せた。ほら見ろと言わんばかりにメルフィーナがそっぽを向くと下にいるミラがぽつりと零した。
「……まさかと思いますけど……ロジャーズ公爵令嬢を身内のように見ていたと言いませんよね……?」と。
「え」と発したのはメルフィーナ。言い難そうにリーラとメルフィーナを交互に見ながら自身の意見を述べた。


「いや……皇子殿下がメルフィーナ様を好きなのは初対面のおれでも分かりました。ロジャーズ公爵令嬢については何と言うか……多分メルフィーナ様と違った、好意的だけど異性に対する情ではなく親愛に近いものを持っていたのでは? それなら、皇子殿下がメルフィーナ様との婚約破棄の撤回に必死になるのも分かるかなと」


 どうですかとミラに視線で問われたリーラを見ず、意識が別に向いたのを良い事にメルフィーナはそっと石に手を伸ばした。指先が石に触れる……となるが察知したミラにやはり阻止された。ジト目で見下ろせば「あっち! あっちに集中して!」と小声で促された先は、やっぱりと言うかリーラで。
 言いたい事を全て言い切ったメルフィーナとてリーラから理想の言葉が返ってくると期待していない。虚を衝かれ、何も言えないリーラに抱くのは失望と落胆。再びミラを見下ろすと何とも言えない表情をされた。


「……私は殿下に期待しません。殿下とロジャーズ公爵令嬢の婚約が最善だと思っています」
「リーラ皇子殿下。メルフィーナ様はこのように仰っていますが?」
「……メルフィーナは……そんな風に見ていたのか……」


 ミラに話を振られ、呆然とした様子で呟いたリーラに今度こそ呆れ果てた。メルフィーナ以外の目であってもリーラとレイラは仲睦まじい関係だと見ていた。


「殿下、此処でお別れしましょう。……殿下と婚約を継続しても、私はずっと貴方達二人が抱き合っていた光景がチラついて一生忘れません。それにです、ロジャーズ公爵令嬢は殿下を好きな筈。私より彼女といた方が殿下だって言い合いをせずに済みますよ」
「……断る。僕は婚約破棄を認めない」
「殿下」
「というか、いつまでその体勢でいるつもりだ!」


 未だベッドに押し倒したミラの上に乗ったままのメルフィーナにいい加減痺れを切らしたリーラ。
 大股で近付いたリーラに腕を掴まれ無理矢理立たされ、苛立ちを込めて睨み上げればリーラも負けじと睨み返す。腕を振り払っても掴む力が強く離せない。


「ロジャーズ公爵令嬢を連れてお帰りください!」
「サンチェス公女がレイラの体質改善に繋がるヒントを手に入れるかもしれないんだ、それまで待ってほしい」
「殿下ご自身は考えなかったのですか。ロジャーズ公爵令嬢の調整役バランサーがいつまで続くのか」
「考えなかったことはない。他に代わりがいないのなら、僕がやるしかない」
「だったら、引き続きお役目を果たす為にどうぞロジャーズ公爵令嬢と婚約してください」
「しつこいぞ! お前が何度言おうと僕は——」
「いい加減にして!!」


 腹の底から声を上げリーラが掴んでいる腕を強引に振り払った。


「嫌いです……大嫌い!! 殿下なんて大嫌い!!」
「メ、メルフィーナ」
「今すぐロジャーズ公爵令嬢を連れて帝国へお帰りください第二皇子殿下! 父が戻り次第即婚約破棄です!」
「待ってくれっ、僕が言い過ぎた、僕の話を聞いてくれ!」
「私は、私より弱い殿方が好きではありません。殿下は私より弱いから嫌いです。貴方と結婚して貴方の子を産むくらいなら、利害が一致した私より強い殿方の子を産みます」
「それは」
「失礼します」


 一礼をして背後から飛ぶ叫び声に振り向かず部屋を出て行き、人気のない場所へ来ると壁に凭れかかり、その場に座り込んだ。半分逆切れする形で啖呵を切ったわけだが、あの場を乗り切るためには仕方なかった。


「はあ……」


 言い訳ばかり、何がいけなかったのかまるで理解してくれないリーラに苛立ったのも事実。あれだけ言ってしまえばリーラも諦めレイラを連れて帰るだろう。


「はああ……」


 好かれていた、と知って素直に喜べないのは、先に言った通りで。頭にチラつく限りリーラとこの先等メルフィーナは考えられない。


「ミラに協力してもらうしかない……!」


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