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クレオンの愛する人②
正確な時期までは覚えていないがメデイアが森で彷徨っていた子供のクレオンを魔獣から助け、ほんの一時世話を見ていた。体中怪我だらけで二日間飲み食いしていない体は弱っており、長年まともに料理をしてこなかったので人間の街へ行って病人が食べる料理を馴染の店の料理人に作ってもらった。心身ともに弱っていたクレオンはメデイアの看病により回復し、森で彷徨っていた理由を話してくれた。
「確か……誘拐されたと言っていたな」
他家の公爵夫人主催の茶会に母親と出席した際、気分が悪くなって母親や周囲の人間がいない場所で休憩していたのを狙われた。眠らされ、目が覚めると魔獣がうろつく森に捨てられていた。クレオンの記憶を探って犯人が誰か突き止めてやり、後は好きにしろとノーバート公爵家の正門前に置いて帰った。
クレオンがいきなり戻ってきたと屋敷中大騒ぎとなり、必死になって探し続けた息子の突然の帰還を知った両親は泣きながらクレオンを抱き締めていたのをメデイアは見ていた。戻して良かったとその時はこれで終わりだと思っていたものの。
「まさか、昔助けた子供が夫になるとは……」
碌に噂の真偽を確かめず、嘗て自分を助けた魔女メデイアに恋をするあまり婚約者に白い結婚を強制する男に育っているとは思わなんだ。
メデイアだった時と容姿はかなり異なるので当然クレオンはレインリリーがメデイアと知らない。
メデイアは知らせるつもりはない。このまま、レインリリーとしてお別れをする。
荷物の整理を始めようと再び鞄に目をやると怒気を露わにしたクレオンが先程の世話係アリサと突撃をかました。アリサに至ってはクレオンの視界に入らないのを良いことにニヤニヤと嗤っている。大方、レインリリーに追い出されたのだと泣き付かれたのだろう。
「聞いたぞ、此方が用意した侍女を君は罵倒し追い出したと」
追い出したのは事実でも罵倒はしていない。鞄から離れ、溜め息を吐いたレインリリーは追い出した理由を述べた。使用人の躾がまともに出来ていないとは驚きだと嫌味を言えば、瞳に強い怒りが浮かんだ。
「あ、あんまりです! 奥様が不安だろうと……」
「あら、さっきはお客様と言っていなかった? いくらクレオン様に愛する人がいようが私を愛する気がなかろうが私は公爵夫人として此処に嫁いできたというのに、身分が下の者に馬鹿にされました。まともに仕事もしなさそうなので追い出しましたが何か問題でも?」
「ふん、客室を与えられた君をお客様扱いして何が悪い?」
「あらあ、客室を与えたのは何処のどなたかしら」
「っ」
「公爵夫人扱いも客扱いもしたくないなら私を追い出しますか? 嫁いで来た当日に妻を放り出した最低男と噂好きなご夫人方に流してもらうのも良いわねえ」
人の不幸は蜜の味。特に、暇を持て余した貴族女性は他人の噂に群がる。とんでもない眼光で睨んでおきながら、噂好きの貴族女性に噂を流されたら尾鰭がつき何を言われるか不明。非常に苦々しい顔をしたクレオンは降参した。
「……分かった。世話係を変え、君に誠実に仕えるよう命じる。それで満足か?」
「まあ、最低限の世話さえしてくれれば後は自分でします」
「生家ではとんだ我儘放題で伯爵は君付きの侍女を選ぶ時、かなり難儀していると聞くが?」
「さあ? 恋人と引き裂かれた理由を私の母にせいにして、碌に親子関係を築いてこなかった男の言い分等どうでもいいですわ」
「……」
母が亡くなってすぐにレインリリーと歳が変わらない娘と後妻を迎え入れた挙句、喪が明ける前に再婚したクリスティ伯爵は暫し社交界では話題の的だった。運命の恋人を引き裂いた本妻を悪女と貶め、その悪女が死ぬと恋人を妻として迎えた。
——母の生家が借金を負い、借金を肩代わりする事と引き換えにクリスティ家に嫁いだとは言え、母の生家は母を助けようとしなかった。母自身は生家に未練も思い入れも無かったから、ある意味ではお互い無関心だったわね。
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