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クレオンの愛する人①
「キール! どうしたんだ、そんなボロボロで」
「わ、分かりません。どうしてかずっと転んでしまって……」
「転んで?」
疑いの目を向けてくるクレオンに呆れた息を吐いたレインリリーはしっかりと反論した。
「まさか、私が転ばしたとでも? 歩く度に勝手に転んだのはその方ですわ」
「そういわけでは……」
「では、先程の目はなんですか? 明らかに私を疑った目でしたよ。お疑いなら、玄関から此処に来るまでにいた使用人の方々に聞いて回っては? 私がその方を転ばした所を見たかどうかを」
「……」
歩く度に転ばせていたら絶対に誰かがクレオンに告げに走りに行く。誰も来ていないのは、キールがどうしてか勝手に転ぶだけ。皆、何故という表情で転び続けるキールを呆然と見ていた。転ばせる呪いを掛けたレインリリーは周囲と同じく呆然とするジル同様キールから距離を取って歩いた。
全身ボロボロなキールを執事に任せるも、部屋を出て行く時も何度も転ぶキールを見てレインリリーが何もしていないと漸く理解したクレオンは小さな声で謝罪した。肩を竦めたレインリリーは気にせず、遅れた理由を述べた。
「あの方は、馬車は一人席だから私が乗るスペースはないから実家の馬車を使えと行ってしまったので、どうせ遅れるなら寄り道をしても同じだと思いましてね」
「なんだと? キールがそんな事を? 出鱈目を言うな」
クレオンによると、レインリリーが遅れたのは化粧に時間が掛かるから先に行ってくれとキールに伝えられたと。
「どちらの言い分を信じるかはクレオン様にお任せします。私はどちらでも構いません」
「キールが転んだのは君のせいじゃないと分かった。だが、遅れた理由をキールのせいにするのは如何なものか」
「私を嫌っているから私の言う事を全否定するのは構いませんわ。ただ、これから公爵夫人として暮らすなら最低限の気遣いくらいして頂いてもよろしいのでは?」
当たり前の要求をしただけでもクレオンは嘲るように鼻で嗤った。カチンとくるものの、心の中で冷静に冷静にと唱え続けた。
「貴女のようなふしだらな女性を本当にノーバート公爵夫人として扱うと? 生活の保障はするが社交に出ず、家で大人しくしていてください」
「公爵夫人の仕事をするなと?」
「ええ。形だけで結構です」
それだけを言うとクレオンは戻った執事にレインリリーを客室へ案内するよう命じた。公爵夫人として扱う気がないから、部屋も客室を使えということ。後ろでジルが憤慨しているが落ち着きなさいと小声で諭し、案内されるがまま客室に着いた。ジルを従者と説明したので彼の部屋も用意してもらった。粗末な部屋ではないのを祈ろう。
クリスティ伯爵家の時よりマシな部屋が今日からレインリリーが三年間過ごす予定の部屋。
「三年も名だけの公爵夫人でいるつもりはないわ」
三年の間に鏡を見つけてさっさと魔女の村へ帰る。
「ジルはどうしようかしら」
ジルには自分が魔女だと告げても、他人に言い触らさないという信頼がある。魔女は人間の世界に滅多に姿を現さない御伽噺の住民と思われている。人間でも時折魔力持ちが生まれ、彼等は国の重要人物として判定されるとすぐに王家に保護される。そして国の為に魔法使いとして育てられる。
メデイアの時に何度か見ているが十分な食事に睡眠、生活環境も良い。というか、レインリリーより余程良い生活を送れている。
「魔法使いを虐げていたら、仕返しをされた時真っ先に殺されるのは自分達だと理解しているからよね」
遠い昔、ある帝国が魔法使いを虐げ、反逆を受け滅ぼされた過去がある。それを知る王国は決して魔法使いを虐げず、国の力として大事に育てる。
鞄の中身を出そうとテーブルに置いた時、ノックもなしに女性が入った。
「失礼しまーす」
ニヤニヤとした顔で入って来た顔にそばかすがある女性の態度に呆れたレインリリー。
「貴女は?」
「執事長に言われ、お客様のお世話をするアリサです」
「そう」
腕を組み尊大な態度で自己紹介をしたアリサに近寄り後ろを指差した。
「今すぐ部屋から出て行きなさい。お前のような役に立たなさそうな世話係は不要よ」
「なっ!!」
「そうでしょう? 公爵からどう思われようが私は公爵夫人であり、伯爵令嬢でもあった。貴女より身分は上。身分社会で目上の相手に無礼を働けばどうなるか知らないの?」
「っ、旦那様には幼い頃から愛する人がいる、お前みたいな性悪が愛されると思うな!」
捨て台詞を吐いて出て行った世話係は、どうせレインリリーに難癖を付けられたと上の人間に泣き付く。
魔法でどうともなるので世話係はあんなのだったら此方から願い下げだ。
「それにしても……」
クレオンに愛する人がいるのは知っている。初対面の際に言われている。
「子供から大人になるとこうなるのね……」
クレオンの愛する人とは、幼少期森に迷い混み野獣に襲われ掛けたクレオンを助けた魔女の事。そしてその魔女はレインリリー、否、メデイアだ。
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