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しおりを挟む——ぜ、全然離れられない……
前の一組が店内に案内され、やっと次の番まで回ってきた。変装魔法でお互い容姿を変えているから、仮に貴族や知人に見られてもリナリアやラシュエルとは気付かれない。
お昼をリストランテに決めた時からラシュエルの手が腰に回って距離を取ろうにも取れない。
さり気無く離れようとしてもラシュエルの手は頑なにリナリアを離そうとしない。
時折、好奇な視線を注がれ居た堪れなくなる。ラシュエルから好意を寄せられているのは分かった。それはいい。原作のラシュエルと今此処にいるラシュエルは取り敢えず違うのだと自分を納得させた。
が、如何せん距離が近すぎる。もう少し離れても良いのにラシュエルから解放される気配が全然ない。
——病のせいで性格が変わったとか……?
前世の記憶が蘇ってもリナリアとしての記憶は全て残っており、その後の記憶を探ってもラシュエルとは一定の距離感を保って常に接していた。手を繋ぐくらいはあっても、こうして体を寄せ合うのは無かった。
それを考えるとあんなキスをされるとも予想にしない。
「リナリア」
「へ?」
「どうしたの? 顔が赤いけど」
「気のせいですわ」
「そう?」
納得してほしいと念じて強く頷くと願いは届きラシュエルはそれ以上聞いてこなかった。
顔が赤いのは本当。キスを思い出して恥ずかしくなった。
今のリナリアが目指すのはバッドでもメリバでもない、ハッピーエンドでなくても平穏に暮らせるエンドだ。その為にラシュエルとの結婚が不可欠なら回避するのは諦めるしかない。
が、このままラシュエルといたら必ず壁が立ちはだかる。現在の壁は異母妹イデリーナを筆頭にしたヘヴンズゲート侯爵家。実の父親であろうとリナリアを道具としか思っていない父に情けは無用。
順番待ちをしている最中の会話は何を食べようか、だったり、客層がカップルや家族連れが多い、などとありきたりな会話ばかり。
「あ」
不意にラシュエルが声を漏らし、ある方向に視線がいっておりリナリアも気になって見てみた。お忍びらしく服は平民服を着ているが容姿はそのままの知り合いが派手な見目の女性を伴って歩いていた。
「ソルト」
ソルト=リリーシュ公爵令息はラシュエルの友人で、側近として有名だ。女性好きなのか、パーティに参加する際はいつも違う令嬢をエスコートしている。
リナリア自身あまり接点はないが夜会や茶会で会うと必ず声を掛けられた。親友の婚約者候補筆頭だから気になる程度なのだろう、と何気なくラシュエルに話した。ら。
「……それ本当?」
一段低くなった声で問われ間違えたと悟った。
「何を話すの?」
「挨拶をして世間話を少々するくらいでした。込み入った話は一度もしていません」
「ソルトは美しい令嬢が好きなんだ。よく、リナリアとイデリーナ嬢どちらが綺麗かと聞かれた」
「リリーシュ公爵令息はイデリーナを選んでいそうですね」
「リナリアはソルトが気になる?」
当たり障りがないよう気を付けているのにも関わらず、悉くラシュエルの地雷を踏みまくってしまう。
「ち、違いますよ。ただ、リリーシュ公爵令息がよく側に置いている令嬢は皆派手な見目の方ばかりですから、私よりイデリーナを選びそうだと」
「そうだね。ソルトに君は勿体ない」
……腰を抱く手に力が込められた気がしても気のせい、気のせいと気付かない振り。ソルトと女性の姿は既になく、給仕に声を掛けられ店内に案内された。
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