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しおりを挟む——走り去って行く馬車を見つめながら、女性は左人差し指に光を灯した。
「皇太子殿下。リナリア様は聖域へと向かわれました。聖域を管理する神官の許へ行ったのでしょう」
「分かった。ご苦労様」
左人差し指から光を消し、通信を切ったラシュエルは昏く濃い陰りのある黄金の瞳のまま、ハンカチを見下ろした。昔リナリアから貰った皇家の家紋が刺繍されたハンカチ。所々糸が解れ、形が歪であるもラシュエルにしたら大切な宝物。リナリアはもっと上手になってから渡したいと涙目になっていたがラシュエルはこれが欲しかった。
リナリアが自分の為に刺繍を入れたこのハンカチが良かった。
「絶対に逃がさない」
病に苦しむラシュエルにヘヴンズゲート家の連中は口を揃えてリナリアは男と逃げたとしか言わなかった。痛みに苦しみ、疲れた心は抗えず、またリナリアがいないのは本当だったから信じてしまった。祈りの花を持って現れたリナリアが必死に真実を訴えてもラシュエルの心は憎しみが上回って伸ばされた手を振り払ってしまう。
リナリアが城を追い出された後、婚約者になったからとベタベタと纏わりつくイデリーナを無理矢理引き剥がして床に突き飛ばし、ヘヴンズゲート侯爵から非難されようがリナリアを諦められないラシュエルは喚く二人を黙らせ移動した。
密偵を即ヘヴンズゲート家へ飛ばしてリナリアが何処へ行くか探らせた。他の男の許へ行くのなら、居場所を突き止めたらすぐに向かう。
「リナリア……」
本当に男といるなら、見つけたらすぐに男は殺す。リナリアは捕まえて二度と他の男の所へ行けなくし閉じ込める。早急に部屋の手配をし、内装をリナリア好みに作り替えている。リナリアが好きな物は何でも知っている。リナリアの事で知らない物はないと思っていたのに……。
けれど密偵から連絡を受けたラシュエルはヘヴンズゲート家が嘘偽りを言っていたのではないかと疑った。
「リナリアが聖域に向かったのなら……祈りの花は本物だった……」
祈りの花は皇帝が密かに回収したのは知っている。それはつまり、本物だと知っていたのだ。
ラシュエルはすぐに聖域へ向かった。途中、まだいたイデリーナに付き纏われるが強引に引き剥がし、用意した馬車に乗り込んだ。
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