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青出 風太

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File 5

剪定し薄青 5

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―ヘキサ―

 2人は話を終え、リコリスが部屋を出るためドアノブに手をかけようとしたその時、ドアがノックされた。

「俺だ。……六花起きてるか?」

 それは2人にも聞き覚えのあるオクタの声だった。

 落ち着いた声。どこか遠慮が見え隠れするものの、いつもとそう変わった様子はない。思い返してみれば六花は工作員殺しに敗れてからというものオクタとろくに話していなかった。


「もしかして、アンタ。センセの生徒なの?」

「私は作られた孤児よ」

「アンタは何のために戦ってるの?」


 工作員殺しの放った言葉が六花の頭を支配していた。

 彼女の言うようにこれまで戦ってきたことに意味は無かったのかと悩み、そんな自分が剣を取りそれを振るってしまったことに苦しみ、他のことが見えなくなっていた。

 六花はまだ幼い。15歳の少女であり、敵の言葉の真偽が分からない状態であっても、その巧みな誘導に心を揺さぶられてしまうのも無理ないことだった。

 仮に彼女がオクタの生徒であり、ライースの右腕であるリエールを殺したのだとすれば、それがオクタに伝わっていないはずがない。

(少し考えれば、わかったはずなのに……)

 オクタも苦しんでいるのだ。六花は返事を返す。

「はい。います。開けるので少し待ってください」

 トレーニングで乱れた服のすそを直し、タオルで汗をぬぐい、ドアノブに手を伸ばす。

 直前、耳元にリコリスのささやく声が聞こえた。

「気を付けて、味方とは限らないから」

 その一言が六花の手を止めた。が、六花はすぐに頭を振って扉を開けた。




 オクタは部屋の中にリコリスがいたことに若干驚いた様子を見せたが、気にせず話し始めた。

「最近、また走りに行ってるって聞いてな。……もう傷は大丈夫か?」
「え、ええ。師匠はその……どう、ですか?私を助けるとき戦ったって聞きましたが」

「傷はない。お前が無事もどって来てくれて良かったよ」
「……そうですか」

「病み上がりなんだ。無理はするな」
「わかってます」

 ぎこちない会話。もともと六花の知るオクタは多くを語る性格ではないし、世間話が得意そうにも思えない。 

 何を話したものか六花は言葉を探していた。オクタの方も珍しく訪ねてきたものの何か話す用があったというよりも、最近顔を見れていなかったから様子を見に来たといった感じで、言葉を探していたのはオクタも同じらしかった。

 何を話すでもなく、時間だけが過ぎる。

「何?2人して見つめ合っちゃってんの?私居るんだけど」

 リコリスの声に六花はハッとし、視線を下げる。

「変なこと言わないでください。まったく」

「あはは~ごめんて」

 そう言って笑うリコリスだったが、スマホに通知が来ると画面を見るなり顔をスッと仕事モードに切り替えた。

「なんだ?」

「オクタさん。これ」

 六花には画面は見えなかったが、その必要はなかった。

「ライースの奴も勝手だな――ったく。もっと事前に連絡いれられたろ」

 オクタは頭を掻きながら部屋から出て行く。六花は慌てて後を追う。

「……仕事ですか」


「あぁ。“殺し”だ」




10:30

 六花、リコリス、オクタ、ラーレの4人は久しぶりに仕事の話をするためにアジトのリビングに集まった。

 各々適当なカップに飲み物を入れ席に着く。壁につけた長方形のテーブルに4人。傍から見れば家族と言えなくもないのだろうか。

 六花はテーブルの長辺の右端。つまり壁側に、そしてその左隣にリコリス。六花の向かいにラーレ、ラーレから見て右隣にオクタが座っていた。

 以前はこうして集まることもあったが、ここ数回は場所が遠方だったり、作戦に参加するメンバーが限られていたりとリビングで仕事前に話す機会もなくなっていた。

 初めに声をあげたのはリコリスだった。

「よし、じゃあ仕事の話をしよっか。まずは」

 リコリスは手元の端末で資料を確認しながら話す。

「仕事は明日から。期限は未定。えっとターゲットは――」

「なんだ?この前あった選挙絡みか?それともどこぞのお偉いさん?美人だけは勘弁してほしいな」

 ラーレの相変わらずの軽口に六花は多少心配していたことを後悔しつつもリコリスの続く言葉を待った。

「――えっと話には聞いてたけど、これ、うちに回されることってあんの?」

「どういうことですか?」

 リコリスは六花の問いには答えずに、部屋の明かりを消すとm.a.p.l.e.を呼び出した。

「これを壁にお願い」

〈オッケ―!〉

 壁に映し出される端末の画面。瞬間全員の視線が壁の画像に釘付けになる。ターゲットの名は



――――――――O1508

 組織の工作員を表すコードが表示されていた。

「えっ」

 六花は息を呑む。知らない人物のコードだ。“殺し”のターゲットに仲間の名が入るとは思ってもみなかった。

 聞いたことがなかったわけではない。身内の工作員や組織の協力者であった者を専門に始末する部隊、綱紀粛正部隊の噂を。

 六花は今に至るまで数多の任務をこなし、殺してきた。が、そのターゲットはどれもまごうことなく敵であった。

(もしかしたら、私も?)

 背筋に冷たいものを感じ、身体を震わせた。

「こういうのはその部隊に回されることになっているはずだろ?どーなってんだよ。味方殺しなんて気持ち悪い。寝覚めが悪いだろが」

 真っ先に文句を言い始めたのはラーレだった。

「私に言われても知らないよ。あれじゃない?」

「人手不足ってか?」

「そうそれ」

 リコリスが画面を下にスクロールするとターゲットの顔写真と所属、そして“殺し”を決定づけた要因についての文面が表れた。

「内通者の疑いあり……」

 六花の目にその文字がはっきりと映った。

「って司令部じゃないですかこの人」

「ん?あぁホントだ。とすると結構やばい情報が洩れてんのか?」

「その可能性は捨てられないだろうな」

 司令部に内通者がいるとすると、ライースとリエールが襲撃を受けたことにも納得がいく。ライースはその線から内通者の可能性がある者を探し出したのではないだろうかと六花は推理した。

 「へぇ、この人組織の外で調整やら交渉やらを担当してるんだってさ。毎日本部には行くけどそれも数分みたい」

「本部で抑えたり、調査することが難しいからうちにってことですか」

 六花にもようやく話が見えてきた。

 そして最後に。

「一応殺し、とは書いてあるけど調査次第で変わるかもしれないってさ」

「それは……」

 微かな希望を胸に六花は尋ねた。そしてそれをリコリスも汲み取ったからこそ強い言葉を選んだ。

「良くて餌ってところじゃないかな。ライースも殺しと書いてる以上、何かしら掴んでいるはずだし、上手いこと漏れた先が分かれば被害を軽くできる」

「まぁ、ライースに見逃すって選択肢はないだろうな」

 ライースを良く知るオクタもそれで間違いないだろうとリコリスの言葉に同意した。





 チームの次の仕事は組織という一つの木を守るための剪定作業であった。
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