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herf year ago2

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  俺は大通りの信号に阻まれ、落ち着けずにうろうろした。早く早く!  見失うだろ!  俺は歩行者信号のボタンを連打した。エレベーターのボタンを連打するのと一緒で、まったく効果はないけどな。そのあいだに芦屋の背中はどんどん遠くなっていく。その歩き方には躊躇いってのがない。つまり目的があるってことだろう。

「車がまったくいないくせに、なんで変わらないんだこの信号は!」

  道は片側二車線の広い道路。たまに酔っぱらいが帰宅するためのタクシーが通るくらいだ。やるか。赤信号、みんなで渡れば恐くない理論で行くか!  まあ俺はひとりだけどねっ!

  さあ行くぞ……というときに最終っぽいバスが駅のほうから来やがった。しかも行きたい方向とは違う歩行者信号が点滅を始めた。俺の覚悟はなんだった!?  空海市が俺をもてあそんでんのか?  そういう条令が出来たか!  すげえな俺ハンパねえ!

  信号が青になり、俺はダッシュで芦屋の背中を追いかけた。あれ……背中?  芦屋がいない。さっきまで歩道を歩いてたんだぞ?  芦屋が歩いていた付近には、マンションなんだかちっさいビルなんだかわからない建物が並んでいる。俺が必ず見ているあの番組『ポリス24H!』によれば、そういう援助をやっている店はこういう怪しいビルの一室を借りて行われているのもある。くそ……どれだ。どれに芦屋は入ったんだ。性犯罪は撲滅しなければなりません!  あわよくば俺がひと晩だけ撲滅してあげる!  

「……え?」

   必要以上にどきどきしながらビルの群れを見上げたりしていると、影のようななにかが屋上から飛び去るのが見えた。七階建てくらいのビルから飛んだのは一つじゃない。二つだ。都合よく都市の光が届かないせいで、それは鳥かなにかにしか見えなかった。でもなんか……鳥にしてはでかくないか?

  いきなり頭のなかでカメラオタクの功太が喋った。斗真くん、UMAユーマはどこにでもいるのだよ……うっそマジか!  あれが空海市に潜んでいると言われている米の化身コメリマスヨさまっ!?  ありがてえぇぇぇぇ!

「見ちまったよ……絶対コメリマスヨさまだよあれ。だって鳴き声してたよ。ソンナコトイワレテモ、コメリマスヨーって言ってた!」

  俺はヒーローショーを見に行った少年達のように高揚していた。芦屋が気になる。しかしコメリマスヨさまの実態も気になる。俺はコメリマスヨさまが飛んでいった夜空を見上げていた。すると、

「あ……?」

  なんかヒラヒラと宙を舞う物体があった。それは落ち葉のようにふわふわと舞い、大通りの真んなかに落ちた。おいおい、見つけた瞬間にもう物的証拠が?  噂によればコメリマスヨさまは実りを象徴する稲穂を常備、手にしている。それを口にすれば、一生を米にだけは苦労せずに生きていけると言う――欲しい!  それ欲しい!  いいんだよ朝昼晩に米があれば!  おかずが欲しい奴はチャーハンと合わせろ!  汁物?  んなもんは米のポタージュにしろ!  米は無限だ!  おやつ?  煎餅せんべいでいいんだよ!  何度も言わせんな!  デザートはおかゆだよっ!

「うおぉぉぉぉ!  コメリマスヨさまの恩恵ぃぃぃぃぃぃ!」 

  俺は車道を左右確認して走り出した。すまん芦屋、この瞬間は逃せない!  ちょっと待ってて!  あの人生のバランスブレイカー(稲)を手にいれたら助け出すから!  あの伝説のアイテムを手にしてね!

  伝説の稲を掲げた勇者俺……?  すげえぇぇぇぇぇカッコいいぃぃぃぃぃ!  稲が武器とかマジでカッコいい!  敵はなんだろうな。やっぱり麦だろうな。その世界ではパンとか邪道なんだよ。あとビールね。酒の戦士長が俺を鍛え、ビール魔軍長との決戦に片膝をついてしまう俺を酒戦士長が命をかけて助け出す!  あ……なんか泣けてきた。かっけぇよ酒戦士長……俺が倒します!  絶対倒しますよ!  うおぉぉぉぉビール許さな――

「あれ?  稲穂じゃない……」

  俺は車道に落ちたものが稲ではないことを知ってガックリしていた。まあ……伝説の稲がそんな簡単には見つからないよな。いやそれよりも、

「布……だな。切れはしか?」

  なんか本当に破けましたみたいな布切れが落ちていた。ダイヤのマークの形に近く、黒っぽい赤色の布だ。ちょ待っ……!  このはしっこだけ色が濃いけど、血じゃないかこれ?  そこで閃く。

「制服の切れはし……に見えるんだが。こんなところに?  まさか芦屋の制服が破けましたってことか?  じゃあもうパンチラどころかパンモロ!?  いいのかそれ、いいんですか!  もうコメリマスヨさまは後回しだ!  芦屋を追うぞ!」

  食欲、性欲――純朴な少年のココロが俺を翻弄ほんろうする!  制服が破けたってことは事件だよな。そう、これはあくまでも芦屋が心配だからだよ。べつに期待はしてないし、ラッキーのフラグが立ったとは思っていない。断じて!

  俺は制服の切れはしを拾って影が飛んでいった方向に走った――ん?  飛んでたんだよな……切れはしは空からヒラヒラってしてたんだから。は?  芦屋が飛んでた?  んなバカな……。
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