俺はどうなろうとも彼女を愛することをやめられない

イヌカミ

文字の大きさ
11 / 18
another

herf year ago3

しおりを挟む
  まさか芦屋は昔テレビアニメでやっていた月夜からの使者『ネイビームーン』だったのでは……月にかわって大テロル!  の決まり文句で有名なあれだ。あれの必殺技スゴかったなぁ……なんせ主力艦を肩にかついで一斉掃射してたもんなぁ……月の力ってスゲェよって騒いだよ。あと、どこからともなくあらわれるオフィサー仮面様が良かったよな。

  それはともかく、影が飛んでいったのは例のいかがわしい噂のある公園のほうだった。その公園はけっこう広めで、森になっている丘をチョチョイといじって造られている。そのせいで死角が多いし、それが隠れて犯罪が起きている原因のようになっているのだ。まあ噂だけど。

  ある意味その公園は別世界への入り口だった。なにせ都市のスパイクヒルズにいきなり自然の丘が配置されているんだ。なかにはいればうっそうとした森。電線も引いてあるが、遊具なんかがある中央広場にしか電灯がないからかなり暗い。なんでそこに行くまで電灯がないのか意味が分からない。予算を渋りやがったのかもしれない。

  とにかく俺は公園に着くと石段を登り始めた。なんて言うのかその雰囲気は神社っぽい。心霊関係が苦手な俺はそういうことを考えると進めなくなる――いつもはな。しかし俺は飛んでいった影が芦屋かどうかを確認しないことには、どうにも落ち着かなくなっていた。

  暗い森に俺の足音が反響している。すげえ恐い。鳥も虫も鳴いていない。そして寒い。石段を一つ登るたびに冷気が増していく気がした。森のなかは闇に埋もれていてなにも見えなかった。なにかがいるんじゃないかという恐怖……ひとりで来るんじゃなかったか?  と長い石段を登っていく。

  そもそも確信があるってわけじゃない。現実的に考えて人間が空を飛ぶってアホかって感じだが、芦屋の姿を見た直後だったし、空海高校の制服っぽい切れはしだって持ってる。しかも血に見える染み……いや、そこまでそろってても馬鹿げてるんだが……。

  結局はまあ、好きな女子を見かけちまって、その相手がなんでこんな夜に出歩いてんだ?  ていう疑心暗鬼だった。なんかやじゃん。想いを寄せてる女の子に実は彼氏いました、みたいな展開は嫌じゃん。

  しかも相手が大学生とかでさ。車とか金銭面で負けててさ。アイツのどこがいいんだよって聞くと、『大人だしカッコいい』とか言われてさ。それはムリだわ、うん、敵わないよね。だって君と僕は同い年だもんねっ。いきなり年齢三つ増しとか出来ないしね。そんなラーメンのトッピングみたいにマシマシでっ!  とかいきなりムリだし。

  え?  嘘……そうなのか芦屋?  大学生とお付き合いしてんのか?   うわぁどうしよう俺。勝てる見込みないんですけど。だって気持ち以外に武器ないもの。ただのしがないエロ高校生以外の取り柄ないもの!

  俺はどこか重い足どりで石段を登っていった。石段を登りきると固くした土の地面が真っ直ぐの道になり、周囲は相変わらずの暗い森だ。だが俺にはもはや芦屋と大学生がどこまでの関係なのか、それを考えるほうが恐ろしくなっていて、真っ暗で不気味な自然など眼中にない。

  ざっざっと歩きながら、芦屋の初めてはどこまで初めてじゃなくなっているのかを考える。どのくらいまで初めてを終えたのか――いや違うぜ斗真!  まだ芦屋は清いはずだ!  まだ勇気がないとか言って断ってるよ色んな初めてをね!

  夜空のお星様を見上げてガッツポーズし、理想と可能性を追い求めて俺は広場になっている場所へと向かった。そこは夏とか正月くらいになると、祭りをやるようなスペースだった。学校の校庭くらいの広さがあり、やぐらを建てたりキャンプファイヤーのような篝火かがりびを焚いたり、女の体目当ての男が色々とタテたりする場所だ。あと三十メートルほどすればたどり着く――という場所でそれは聞こえた。ドスンッ……!

「……えーとぉ?」

  芦屋への想いよりも心霊系への恐怖が勝った。今しがた背後から聞こえた物音は?  妖怪とかか?  上から妖怪ラッカサンか?  どんな妖怪か聞かれても思いつきだから説明は出来ない。あう……でもポルターガイスト現象とか、そんなんだったらもう死にたいぞ……?

  説明すると恐いから言いたくなかったが、ドスンッ!  のあとから、ずっとさっきからはぁはぁ言ってるんだよね。あっちのはぁはぁならともかく、このはぁはぁは俺は嫌いだなっ。あームリ、マジムリ!  色んなの思い出しちゃうから!  毎晩押し入れから這い出てくる髪の長い女とか、うーうー唸って歩き回る髪の長い女とか、天井からだらんと逆さまに出てくる髪の長い女とか……なんで髪型のバリエーション統一なんだよ!  季節ごとに髪型くらい変えろよ!   色気ねーなー!  

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...