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一章「俺がやらなきゃ誰がやる!」
それはつまりは絶望の
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オーコが周囲に注意を払うために押し黙ってしまった。つまらなそうに見えた顔はなんだったのか、秋の実りを謳歌する田んぼへと、冷たい視線を向けていた。俺も同じように周囲を監察するが、稲穂を揺らして吹く風が生ぬるくて不気味――それだけしか分からない。嵐の前の静けさってやつだろうか、クラウドが見えなくなると周囲はいきなり静かになっていた。近いのか遠いのかはわからないが、カエルの鳴き声がどこからか届いていた。
「……なあオーコ」
「……なに?」
「昨日のニエモノの名前ってなんだったっけ?」
「いきなりどうしたの? わたしが相手したのがカメサキスで、ドーマくんのほうがギョギョん」
「ギョギョん……毎度のことながらいいセンスしてるわ……」
「そう? ありがと」
いや、逆の意味でなんだが……それにしても、今日はオーコの態度がなんかおかしい。顔を赤くしたり、つまらなそうな顔をしたり、いきなり不機嫌だしな。そういや朝のテンションもなんか高すぎた気がする。それでいまは? そもそもクイモノに『機嫌』なんてあったかなと、俺は周囲を警戒するフリをしながらオーコを見た。
(不機嫌は不機嫌なんだけど……なんか、焦ってないか?)
「余計なことを考えてないで集中して」
「おう……すんません……」
俺はすねた感じで警戒に戻る。あたりをキョロキョロとし、視線が遠くにあるロイヤルヒルに止まった。すっかり夜になってしまった風景に、駐車場や本館を下のほうから照らしているライトがロイヤルヒルを浮かび上がらせる。そういや取材は進んでるんだろうか。早めに戦いを終わらせて戻らないと、二人はどこ行ったみたいな騒ぎにならないか?
ちょっと右を見ると県道に並んでいる街灯が、ぼうっと浮かんでいる。普段なら田舎なもんで車の台数はたいしたことないんだが、ロイヤルヒルの影響か、今日はひっきりなしに車が通っているみたいだ。
静かだな……本当に静かだ。現代社会的な喧騒なんてここにはない。まるでこの田んぼ一帯が、別の世界になっているような感覚すらある――お? なんか暗くなったけど?
「え……?」
俺はいきなりのことで頭が一瞬だけ真っ白になった。俺達の前に、いきなりそいつはあらわれた。で……でけぇ! 身の丈が三メートルはある巨体。不細工な粘土細工みたいな外見は、泥で作った首がない雪だるまに見える。足がなく、泥がスカートの裾みたいに広がっているそいつは、ゆっくりとした動作で月に向かって重低音を響かせながら吠えた。オオオオオオオオッ! てな感じで。
「ななななな……! なんだよこのデカいのは!」
「……やっぱりそうだった……!」
て、言うかデカすぎだろ! ほんとにニエモノかこいつ! なんかヒキョーだぞ! いやそんなことより!
「やっぱりってなんだよオーコ!」
「ニエモノだけどニエモノじゃない……」
ごめん分かんない! 俺はベレッタの銃口をデカいのに向けた。いつでも撃てるようにしておかないと不安に押し潰されそうだった。が、
「え……?」
俺にはなにが起きたのか理解できなかった。デカいニエモノが、三メートルはある巨体が、消えた。
「ドーマくん!」
次にはオーコに突き飛ばされて、俺は稲穂を倒しながら転がっていた。ゴガァンッ! という音が聞こえ、俺はなんとか体勢を整えて顔を上げる。
ニエモノがデカい拳をオーコに叩きつけていた。ブワッと衝撃波が風のように吹き抜け、その威力を示す。だがデカい拳を叩きつけられたオーコにダメージはなさそうで、軽々と受け止めていた――しかしそのことに安心したのもつかの間、俺は近くの稲穂が激しく揺れた音を耳にしてその場から離れた。そのすぐ後をヒュゴッとなにかが飛んでいく……攻撃だ。 敵はデカいのだけじゃない!
「オーコ!」
「そいつらはクラウドだからニエモノじゃない! さっきみたいに蹴散らして!」
「イコンはねえからぶっ飛ばせってことだな!」
俺はベレッタを構え、さっき揺れた稲穂へと見えない弾丸を撃つ。白光の軌跡が稲穂を走り、パァンッという破裂音が聞こえた。でもそれで終わりじゃない。
「……今度は化けて出やがったな」
稲穂の陰からユラリと頭を出したニエモノは、デカい奴のミニチュアバージョンだ。それだとわかりにくいか? じゃあもう……ドローレムでいっか。泥のゴーレムって感じだから。
俺は次から次へと顔を出すドローレムを撃ちまくった。たまにドローレムが吐き出すクラウドをかわし、時には撃ち抜き、倒して倒して倒して……だあ! いつ終わるんだこれ!
俺の後ろのほうでは轟音が連続して響いている。ドゴォンッ! ガゴォンッ! ドドドドンッ! てな具合に、オーコとニエモノの激しい戦闘が繰り広げられていた。俺は少し不安になる。あのデカいのはおそらくオーコと同じぐらい速い。それは俺なんかじゃ反応できない速さだ。てことはつまり、俺じゃあ敵わない相手なんじゃないか?
……と、俺はそこまで考えてからなに言ってんだと自分を叱責した。サントノアザは最強だ。倒せない奴なんかいない。その確信が揺らいじまったらオーコのそばにいる意味がない。
「しかしこいつら……次から次へと!」
ドローレムを何体倒したか分からない。でもひっきりなしにクラウドを吐きつけてきやがる。一体ずつやってたら埒があかない。見渡してみれば田んぼじゅうにドローレムが顔を出していた。俺が手をつけられないやつは、オーコがデカいのと闘り合いながら倒してるみたいだった。よし……もう一度やってみるか!
俺は適当に一体を撃ち抜くと、脚に力を溜めてダンッ! と飛び上がった。生ぬるい風を体で感じながら上昇し、五メートルほどの高さまで来ると下を見る。げ……百体以上いるんじゃねーか?
俺とオーコを中心にしてドローレムは現出していた。その景色は芸能人に野次馬が集まるような、祭の櫓に踊り手が輪を作るような、そんな風に見える。
(視界に映れば『狙える』!)
「喰らえええぇぇぇぇぇっ!」
俺は攻撃した。やつら全部に向けて一度だけトリガーを引く。その狙いは成功し、発射音は一発だが見えない弾丸は数えきれない光の束となる。光の束はほどけ、展開し、高速でドローレムを撃ち抜いていった。ドボベバボボボバボゴォッ――! その凄まじい破壊音は表現できないほどだ。
その花火大会みたいな光景を見おろしながら自由落下が始まる。だが俺に不安はない。自由落下からの着地を体験済みだからな。
オーコはロイヤルヒルの壁を蹴ってスピードを殺して着地した。俺もそれと同じことをすればいいわけだ。よし――壁はどこですかねぇぇぇ!
あるわけないよ、うん、田んぼの真ん中に壁なんてないっ! あぁぁぁくっそおぉぉぉ!
(そ……そうだ! 落下速度を抑えればいいんだよ! だったらこいつで!)
確信というか、それは当然のことだ。基本的に銃を撃てば『反動が返ってくる』! 俺はほとんど真下に迫った稲穂に向けてトリガーを引く。銃口から発射されたのは白光の軌跡ではなく、飛行機のエンジンから噴出されるような炎のカタマリだった。キュゴウッ! と吐き出された炎で稲穂が燃え上がり、俺は逆噴射で浮き上がったのを利用して横へ飛んで着地する。
「ブースターみたいなことか……」
よかったガンディム観てて! ロボットアニメに救われるとは思わなかった! ともかくこれでザコは片づいた。あとはあのデカいのだけだ。
オーコとニエモノが衝突する音が響いていた。そっちに顔を向けると、俺がちょっかい出してもいいのかってくらいの闘いが繰り広げられていた。稲穂が台風に吹き飛ばされているみたいにそこらじゅうで舞っていた。そりゃあんな高速で闘ってればメチャメチャになるわ。
オーコは優勢でも劣勢でもなさそうだった。だが、俺がイコンを解放してやらないとオーコは御祓ができない。いや、俺なしでもできるんだが、オーコはイコンを解放しない。そのニエモノ『ほとんど』をイコンごと食らう。それがクイモノと呼ばれる所以だ。
俺は契約の時にそれをやめてくれと頼んだ。オーコは了承したがその代わりに、『俺が役に立てればしない』と言った。昨夜のもう一体をオーコが食べてしまったのは俺の力不足ってことだ。
俺はオーコとデカいのへ走りながら叫ぶ。
「そいつのイコンはどこにある!」
オーコは俺をちらりと一瞥したが答えなかった。なんだいまの顔――
(苦しんでる? オーコが?)
いや、じっさいそこまではっきりと顔が見えたわけじゃない。夜なうえ明かりはないし、まだ三十メートルは離れてる。それにオーコが苦しむってのはおかしい。人間じゃないんだ。
俺はかなり近づくまでそんなことを考えていたが、近づいてみるとオーコの状態がいつもと違うことに気づいた。やっぱり苦しんでる! 俺には焦りが浮かんだ。
「イコンはどこだよオーコ!」
「心臓の……真横……!」
オーコと視線が合い、その顔には汗が流れていた。息まであがってるじゃねえか! いままでなかったぞそんなこと。俺がいくらもたもたやってても、オーコに疲労なんて――!
「ばかやろっこっちばっかり見るな!」
ニエモノが拳を振り上げても、オーコは俺を見つめていた。わずかに唇が動き――ズガァン! とオーコが横殴りの一撃をモロに喰らった。そして俺のほうへと一直線に飛んでくる!
「やべえ! サントノアザ!」
思わず叫んでいた。運動能力を上げてオーコを抱き止めるが、ぐはっ! と息がつまった。そのまま巻き添えをくう形で俺も吹き飛ばされる。十数メートルは空中疾走し、足から着地できのは奇跡だった。ズザザザザザッ! と滑走しながらなんとかバランスをたもち、そこでようやく停止する。
「大丈夫かよ!」
「まだ死んでないよ……」
俺は冗談を言いながら病に冒されたような顔を向けるオーコを地面に降ろした。なにがどうなってるんだ……こんなに衰弱したオーコは初めて見た。
「名前……あのニエモノの名前は『ウツシガミ』……」
「俺的にドローレムなんだが」
「それもいいね……だけど固有の名称があるんだ……ごめんねドーマくん……」
「謝るなよ……おまえ今日おかしいぞ?」
「ごめん……ごめんね……ウツシガミが来る……わたしにかまわず倒して!」
「ぐっ……! オーコ!」
俺をドン! と突き飛ばしてオーコは後ろに跳んだ。その直後にデカい奴――ウツシガミがの一撃が振り降ろされる。ドゴォッ! と拳が地面を割り、突風のような衝撃が俺をさらに弾き飛ばした。吹き飛ばされながら俺は思考する。
(わけが分かんねぇ……! オーコはいったいどうしちまったんだ!)
俺は体勢をたてなおして銃口をウツシガミへと向ける。分からないことを考えていても死ぬだけだ。
(攻撃直後なら!)
撃つ――ズダンッ! 見えない弾丸はウツシガミを捉えていたが、とっさのことでイコンは狙えていない。だがウツシガミは攻撃姿勢のままだ。当たる――!
――だがウツシガミが消えた。ありえねえぞ、よけられんのかよ! 驚いたままの俺の前にウツシガミは出現した。俺に向かって右のストレートを放とうとしている……そして振り降ろす。攻撃自体はたいした速さじゃない。しかも振り降ろす瞬間にウツシガミの右腕がズバッと裂けた。攻撃が当たらなかったわけじゃない!
俺はその手応えを感じながら、体を捻って拳をかわした。ブワッと通りすぎていく拳圧にビビりながらさらに銃口を向ける。攻撃直後の隙なら当たると確信していた……しかしウツシガミは俺を上回る。奴は攻撃直後、すぐに高速で移動していた。
その巨大かつ異様な姿は、トリガーを引こうとした瞬間には俺の死角にあった。視界にかかる影で左にいることは分かった。だが左にいることしか分からない。それはつまり、俺の『攻撃する隙』を狙われていたってことだ。俺がウツシガミを見ようと顔を動かした時には巨大な拳が視界を埋めていた。
(よけらんねえ!)
俺は死ぬことすら覚悟したが、その窮地をオーコに救われる。オーコが俺を抱えて拳から助けてくれた。高速で移動しながらその疲弊が色濃い表情に詫びる。でも、俺はそのあとすぐに驚くことになる。着地してすぐ。
「……ドーマくん大丈夫?」
「ああ。こっからは二人でやれば――おい、おまえいつそんな怪我したんだ? まさかいまので?」
「違うよ。大丈夫だから二人でやろう」
オーコの右腕が負傷していた。二の腕が制服ごと肩のほうまで裂けていた。オーコはそれを隠すように笑った……え?
(……は? 笑う? クイモノ化したオーコが笑う? そんなことはいままでなかったぞ!)
オーコはクイモノ化すると笑わなくなる。どうやらクイモノの意識であるイコンへの執着が、人間らしい感情なんかを抑えこんでしまうらしかった。ニエモノ狩りに倫理観とかそういったものは不要なのかもしれない。ただし土地を守るという根幹は揺るがないから、人間を見殺しにとかはしない。とにかく、本当にオーコかと思うくらいに声の抑揚や感情の起伏は平坦なものになる。それがクイモノだ。
いまのオーコはクイモノじゃないんじゃないか? しかしその疑問を投げかけることも、ウジウジと考えていることもできない。ウツシガミが迫っていた。
「ドーマくん新しい武器を出して! それはウツシガミには向いてないから!」
「イメージが浮かばない! どんな武器なら倒せるんだ!」
「さきに確信して! いつもと同じだよ。イメージがなくても確信があればサントノアザは応える!」
「それをやると……」
俺とウツシガミのあいだにオーコは立ちふさがる。俺がウツシガミを倒せる武器を出すまで、時間稼ぎをしてくれるんだろう――いつもみたいに……。
(違うんじゃないか? いつもと同じじゃあダメなんじゃないか? こいつはいままでと違うんだ。いつもみたいに武器の使いかたに翻弄されてるあいだに、全部が終わっちまうんじゃないか?)
ダメだ……疑心暗鬼はサントノアザの天敵みたいなもんだ。確信に慣れてる運動能力アップくらいなら問題ないが、新たな武器を出すとなると、この疑心暗鬼は致命的だ。出来ない!
そんなことをしていると、オーコとウツシガミの激突が始まってしまった。オーコは受け、かわし、ウツシガミは攻撃を連打する。それを見ていてさらに疑問が俺を襲う。オーコはなんで攻撃しないんだ?
「……なあオーコ」
「……なに?」
「昨日のニエモノの名前ってなんだったっけ?」
「いきなりどうしたの? わたしが相手したのがカメサキスで、ドーマくんのほうがギョギョん」
「ギョギョん……毎度のことながらいいセンスしてるわ……」
「そう? ありがと」
いや、逆の意味でなんだが……それにしても、今日はオーコの態度がなんかおかしい。顔を赤くしたり、つまらなそうな顔をしたり、いきなり不機嫌だしな。そういや朝のテンションもなんか高すぎた気がする。それでいまは? そもそもクイモノに『機嫌』なんてあったかなと、俺は周囲を警戒するフリをしながらオーコを見た。
(不機嫌は不機嫌なんだけど……なんか、焦ってないか?)
「余計なことを考えてないで集中して」
「おう……すんません……」
俺はすねた感じで警戒に戻る。あたりをキョロキョロとし、視線が遠くにあるロイヤルヒルに止まった。すっかり夜になってしまった風景に、駐車場や本館を下のほうから照らしているライトがロイヤルヒルを浮かび上がらせる。そういや取材は進んでるんだろうか。早めに戦いを終わらせて戻らないと、二人はどこ行ったみたいな騒ぎにならないか?
ちょっと右を見ると県道に並んでいる街灯が、ぼうっと浮かんでいる。普段なら田舎なもんで車の台数はたいしたことないんだが、ロイヤルヒルの影響か、今日はひっきりなしに車が通っているみたいだ。
静かだな……本当に静かだ。現代社会的な喧騒なんてここにはない。まるでこの田んぼ一帯が、別の世界になっているような感覚すらある――お? なんか暗くなったけど?
「え……?」
俺はいきなりのことで頭が一瞬だけ真っ白になった。俺達の前に、いきなりそいつはあらわれた。で……でけぇ! 身の丈が三メートルはある巨体。不細工な粘土細工みたいな外見は、泥で作った首がない雪だるまに見える。足がなく、泥がスカートの裾みたいに広がっているそいつは、ゆっくりとした動作で月に向かって重低音を響かせながら吠えた。オオオオオオオオッ! てな感じで。
「ななななな……! なんだよこのデカいのは!」
「……やっぱりそうだった……!」
て、言うかデカすぎだろ! ほんとにニエモノかこいつ! なんかヒキョーだぞ! いやそんなことより!
「やっぱりってなんだよオーコ!」
「ニエモノだけどニエモノじゃない……」
ごめん分かんない! 俺はベレッタの銃口をデカいのに向けた。いつでも撃てるようにしておかないと不安に押し潰されそうだった。が、
「え……?」
俺にはなにが起きたのか理解できなかった。デカいニエモノが、三メートルはある巨体が、消えた。
「ドーマくん!」
次にはオーコに突き飛ばされて、俺は稲穂を倒しながら転がっていた。ゴガァンッ! という音が聞こえ、俺はなんとか体勢を整えて顔を上げる。
ニエモノがデカい拳をオーコに叩きつけていた。ブワッと衝撃波が風のように吹き抜け、その威力を示す。だがデカい拳を叩きつけられたオーコにダメージはなさそうで、軽々と受け止めていた――しかしそのことに安心したのもつかの間、俺は近くの稲穂が激しく揺れた音を耳にしてその場から離れた。そのすぐ後をヒュゴッとなにかが飛んでいく……攻撃だ。 敵はデカいのだけじゃない!
「オーコ!」
「そいつらはクラウドだからニエモノじゃない! さっきみたいに蹴散らして!」
「イコンはねえからぶっ飛ばせってことだな!」
俺はベレッタを構え、さっき揺れた稲穂へと見えない弾丸を撃つ。白光の軌跡が稲穂を走り、パァンッという破裂音が聞こえた。でもそれで終わりじゃない。
「……今度は化けて出やがったな」
稲穂の陰からユラリと頭を出したニエモノは、デカい奴のミニチュアバージョンだ。それだとわかりにくいか? じゃあもう……ドローレムでいっか。泥のゴーレムって感じだから。
俺は次から次へと顔を出すドローレムを撃ちまくった。たまにドローレムが吐き出すクラウドをかわし、時には撃ち抜き、倒して倒して倒して……だあ! いつ終わるんだこれ!
俺の後ろのほうでは轟音が連続して響いている。ドゴォンッ! ガゴォンッ! ドドドドンッ! てな具合に、オーコとニエモノの激しい戦闘が繰り広げられていた。俺は少し不安になる。あのデカいのはおそらくオーコと同じぐらい速い。それは俺なんかじゃ反応できない速さだ。てことはつまり、俺じゃあ敵わない相手なんじゃないか?
……と、俺はそこまで考えてからなに言ってんだと自分を叱責した。サントノアザは最強だ。倒せない奴なんかいない。その確信が揺らいじまったらオーコのそばにいる意味がない。
「しかしこいつら……次から次へと!」
ドローレムを何体倒したか分からない。でもひっきりなしにクラウドを吐きつけてきやがる。一体ずつやってたら埒があかない。見渡してみれば田んぼじゅうにドローレムが顔を出していた。俺が手をつけられないやつは、オーコがデカいのと闘り合いながら倒してるみたいだった。よし……もう一度やってみるか!
俺は適当に一体を撃ち抜くと、脚に力を溜めてダンッ! と飛び上がった。生ぬるい風を体で感じながら上昇し、五メートルほどの高さまで来ると下を見る。げ……百体以上いるんじゃねーか?
俺とオーコを中心にしてドローレムは現出していた。その景色は芸能人に野次馬が集まるような、祭の櫓に踊り手が輪を作るような、そんな風に見える。
(視界に映れば『狙える』!)
「喰らえええぇぇぇぇぇっ!」
俺は攻撃した。やつら全部に向けて一度だけトリガーを引く。その狙いは成功し、発射音は一発だが見えない弾丸は数えきれない光の束となる。光の束はほどけ、展開し、高速でドローレムを撃ち抜いていった。ドボベバボボボバボゴォッ――! その凄まじい破壊音は表現できないほどだ。
その花火大会みたいな光景を見おろしながら自由落下が始まる。だが俺に不安はない。自由落下からの着地を体験済みだからな。
オーコはロイヤルヒルの壁を蹴ってスピードを殺して着地した。俺もそれと同じことをすればいいわけだ。よし――壁はどこですかねぇぇぇ!
あるわけないよ、うん、田んぼの真ん中に壁なんてないっ! あぁぁぁくっそおぉぉぉ!
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確信というか、それは当然のことだ。基本的に銃を撃てば『反動が返ってくる』! 俺はほとんど真下に迫った稲穂に向けてトリガーを引く。銃口から発射されたのは白光の軌跡ではなく、飛行機のエンジンから噴出されるような炎のカタマリだった。キュゴウッ! と吐き出された炎で稲穂が燃え上がり、俺は逆噴射で浮き上がったのを利用して横へ飛んで着地する。
「ブースターみたいなことか……」
よかったガンディム観てて! ロボットアニメに救われるとは思わなかった! ともかくこれでザコは片づいた。あとはあのデカいのだけだ。
オーコとニエモノが衝突する音が響いていた。そっちに顔を向けると、俺がちょっかい出してもいいのかってくらいの闘いが繰り広げられていた。稲穂が台風に吹き飛ばされているみたいにそこらじゅうで舞っていた。そりゃあんな高速で闘ってればメチャメチャになるわ。
オーコは優勢でも劣勢でもなさそうだった。だが、俺がイコンを解放してやらないとオーコは御祓ができない。いや、俺なしでもできるんだが、オーコはイコンを解放しない。そのニエモノ『ほとんど』をイコンごと食らう。それがクイモノと呼ばれる所以だ。
俺は契約の時にそれをやめてくれと頼んだ。オーコは了承したがその代わりに、『俺が役に立てればしない』と言った。昨夜のもう一体をオーコが食べてしまったのは俺の力不足ってことだ。
俺はオーコとデカいのへ走りながら叫ぶ。
「そいつのイコンはどこにある!」
オーコは俺をちらりと一瞥したが答えなかった。なんだいまの顔――
(苦しんでる? オーコが?)
いや、じっさいそこまではっきりと顔が見えたわけじゃない。夜なうえ明かりはないし、まだ三十メートルは離れてる。それにオーコが苦しむってのはおかしい。人間じゃないんだ。
俺はかなり近づくまでそんなことを考えていたが、近づいてみるとオーコの状態がいつもと違うことに気づいた。やっぱり苦しんでる! 俺には焦りが浮かんだ。
「イコンはどこだよオーコ!」
「心臓の……真横……!」
オーコと視線が合い、その顔には汗が流れていた。息まであがってるじゃねえか! いままでなかったぞそんなこと。俺がいくらもたもたやってても、オーコに疲労なんて――!
「ばかやろっこっちばっかり見るな!」
ニエモノが拳を振り上げても、オーコは俺を見つめていた。わずかに唇が動き――ズガァン! とオーコが横殴りの一撃をモロに喰らった。そして俺のほうへと一直線に飛んでくる!
「やべえ! サントノアザ!」
思わず叫んでいた。運動能力を上げてオーコを抱き止めるが、ぐはっ! と息がつまった。そのまま巻き添えをくう形で俺も吹き飛ばされる。十数メートルは空中疾走し、足から着地できのは奇跡だった。ズザザザザザッ! と滑走しながらなんとかバランスをたもち、そこでようやく停止する。
「大丈夫かよ!」
「まだ死んでないよ……」
俺は冗談を言いながら病に冒されたような顔を向けるオーコを地面に降ろした。なにがどうなってるんだ……こんなに衰弱したオーコは初めて見た。
「名前……あのニエモノの名前は『ウツシガミ』……」
「俺的にドローレムなんだが」
「それもいいね……だけど固有の名称があるんだ……ごめんねドーマくん……」
「謝るなよ……おまえ今日おかしいぞ?」
「ごめん……ごめんね……ウツシガミが来る……わたしにかまわず倒して!」
「ぐっ……! オーコ!」
俺をドン! と突き飛ばしてオーコは後ろに跳んだ。その直後にデカい奴――ウツシガミがの一撃が振り降ろされる。ドゴォッ! と拳が地面を割り、突風のような衝撃が俺をさらに弾き飛ばした。吹き飛ばされながら俺は思考する。
(わけが分かんねぇ……! オーコはいったいどうしちまったんだ!)
俺は体勢をたてなおして銃口をウツシガミへと向ける。分からないことを考えていても死ぬだけだ。
(攻撃直後なら!)
撃つ――ズダンッ! 見えない弾丸はウツシガミを捉えていたが、とっさのことでイコンは狙えていない。だがウツシガミは攻撃姿勢のままだ。当たる――!
――だがウツシガミが消えた。ありえねえぞ、よけられんのかよ! 驚いたままの俺の前にウツシガミは出現した。俺に向かって右のストレートを放とうとしている……そして振り降ろす。攻撃自体はたいした速さじゃない。しかも振り降ろす瞬間にウツシガミの右腕がズバッと裂けた。攻撃が当たらなかったわけじゃない!
俺はその手応えを感じながら、体を捻って拳をかわした。ブワッと通りすぎていく拳圧にビビりながらさらに銃口を向ける。攻撃直後の隙なら当たると確信していた……しかしウツシガミは俺を上回る。奴は攻撃直後、すぐに高速で移動していた。
その巨大かつ異様な姿は、トリガーを引こうとした瞬間には俺の死角にあった。視界にかかる影で左にいることは分かった。だが左にいることしか分からない。それはつまり、俺の『攻撃する隙』を狙われていたってことだ。俺がウツシガミを見ようと顔を動かした時には巨大な拳が視界を埋めていた。
(よけらんねえ!)
俺は死ぬことすら覚悟したが、その窮地をオーコに救われる。オーコが俺を抱えて拳から助けてくれた。高速で移動しながらその疲弊が色濃い表情に詫びる。でも、俺はそのあとすぐに驚くことになる。着地してすぐ。
「……ドーマくん大丈夫?」
「ああ。こっからは二人でやれば――おい、おまえいつそんな怪我したんだ? まさかいまので?」
「違うよ。大丈夫だから二人でやろう」
オーコの右腕が負傷していた。二の腕が制服ごと肩のほうまで裂けていた。オーコはそれを隠すように笑った……え?
(……は? 笑う? クイモノ化したオーコが笑う? そんなことはいままでなかったぞ!)
オーコはクイモノ化すると笑わなくなる。どうやらクイモノの意識であるイコンへの執着が、人間らしい感情なんかを抑えこんでしまうらしかった。ニエモノ狩りに倫理観とかそういったものは不要なのかもしれない。ただし土地を守るという根幹は揺るがないから、人間を見殺しにとかはしない。とにかく、本当にオーコかと思うくらいに声の抑揚や感情の起伏は平坦なものになる。それがクイモノだ。
いまのオーコはクイモノじゃないんじゃないか? しかしその疑問を投げかけることも、ウジウジと考えていることもできない。ウツシガミが迫っていた。
「ドーマくん新しい武器を出して! それはウツシガミには向いてないから!」
「イメージが浮かばない! どんな武器なら倒せるんだ!」
「さきに確信して! いつもと同じだよ。イメージがなくても確信があればサントノアザは応える!」
「それをやると……」
俺とウツシガミのあいだにオーコは立ちふさがる。俺がウツシガミを倒せる武器を出すまで、時間稼ぎをしてくれるんだろう――いつもみたいに……。
(違うんじゃないか? いつもと同じじゃあダメなんじゃないか? こいつはいままでと違うんだ。いつもみたいに武器の使いかたに翻弄されてるあいだに、全部が終わっちまうんじゃないか?)
ダメだ……疑心暗鬼はサントノアザの天敵みたいなもんだ。確信に慣れてる運動能力アップくらいなら問題ないが、新たな武器を出すとなると、この疑心暗鬼は致命的だ。出来ない!
そんなことをしていると、オーコとウツシガミの激突が始まってしまった。オーコは受け、かわし、ウツシガミは攻撃を連打する。それを見ていてさらに疑問が俺を襲う。オーコはなんで攻撃しないんだ?
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