俺はどうなろうとも彼女を愛することをやめられない

イヌカミ

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一章「俺がやらなきゃ誰がやる!」

逢魔ヶ刻が来やがった

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  俺はベッドに寝かされていた。涼しいと感じたのは氷枕に頭を乗せて、エアコン神様の恩恵にあずかっていたからだった。

「悪い……」
「謝らなくていいよ。はい、お水買ってきた」
「……悪い」

  俺はオーコからペットボトルを受け取ると上半身を起こした。頭は少しクラクラするが、オーコの心配そうな顔を見たら弱っているわけにはいかなくなった。大丈夫?  と優しい声。俺はペットボトルに口をつけるとせきこんだ。

「ゆっくり飲まなきゃっ。脱水症状を治すのは普通のケガを治すのとはわけが違うんだからっ」
「え?  おまえ力を使ったのか?」
「けっこう危なかったんだよドーマくん。本当なら救急車が必要なくらいだったんだからねっ。だから少しずつ水を飲ませて症状を緩和かんわさせたのっ」
「水を……?  気絶してても飲めるのか……」

  オーコはそこで、かぁっと顔を赤くした。そのリアクションはよく分からんが、人間は生きるために寝ていても水を飲むみたいだな。まあそうだよな、ギリギリだったもんな。いろんな意味で。

「それはそうといま何時ごろなんだ」
「今日の日の入りは五時五十分くらい。あと五分しかない。早くニエモノを特定しないとだよ」

  熱中症回復に約二十分くらいだったわけだ。さすがはクイモノの力だな。

  俺はオーコの力に感心しながらペットボトルの水を飲みほした。こっからは本格的な狩りが始まる。新聞部アシスタントから平和を守る戦士になるぜ!  ごばはぁっ!

「もう!  だからゆっくり飲むって言ったのにぃっ!」
「げはっ、ごほっ……ずびばぜん……」

  オーコがかいがいしくハンカチでカッターシャツを拭いてくれる。情けない姿は見せてしまったが、なんだこの幸福感はっ!  いやいや、そんなことより時間だよ……っておい、ニエモノが出てくるまであと三分かよ!

「時間がないよドーマくん。わたしの食欲が増してる。変化する前に建物から出ないと」
「お……おう!  変化した姿は一般人には見せられねえよな」

  俺はあたりまえのことを言いながらベッドから降りた。不思議と脱力感みたいなものはない。オーコが警備員室のドアを開け放ち、飛び出すのを追いかける。廊下に出るとスタッフオンリー的な雰囲気のドアがいくつもあり、途中にはビニールカーテンがゆらゆらとしていた。なるほど、スーパーの裏か。てことは一階だな。

「あいつらは?」
「みんなは取材で四階にいるよ。本屋さんにいる」

  俺達は走りながら会話する。急がなきゃオーコの変化する姿が世間に知れてしまう。廊下を歩いているスタッフに謝罪しながら走り抜け、両側が開くようになっている鉄の扉を開ける。開けた先は本館のメインストリートだ。

「あと二分だよっ」
「どこに身を隠すんだ!  外に出てもライトとかあってまる見えだぞ!」

  あーくそ、邪魔だよお客さん!  どうやら夕方のタイムセール中のようで、体格のいいおばちゃん達がすし詰め状態だ。日頃から農業で鍛えきたてるもんだから足腰半端ねぇ!  しかも流れに対して逆走なもんだからよけいにキツい。あ、ごめんおばちゃん!  ぶつかったおばちゃんに頭をさげつつ出口に向かってひた走る。昨日は稲をダメにしてすみませんでした!

  そんななかでもオーコはすいすいと、隙間すきまを縫うように走っていた。俺はただ急いでいるが、オーコはラグビー選手のようにおばちゃんの群れをかわしながら風のように走る。そのせいでオーコとの距離は離れていった。

  俺が外に出る自動ドアに着いた時には、オーコの姿は見えなくなっていた。いきおいで外に飛び出すと駐車場のはしっこだと分かる。夕景を眺めると田んぼの向こうの山に、陽がゆっくりと沈んで行くのが見えた。マジックアワーはもう終わり、あらわれているのは夜のとばりだ――オーマガトキが迫っている。だいたいあと四十秒くらいか。オーコはどこだ!

  ざしゅっ――と、キョロキョロしている俺の耳に植木が枝を揺らす音が聞こえてきた。本館の裏側あたりに視線を向けると緑の葉っぱがヒラヒラと舞い落ちている一本に気づく。まさか木の上……いや、屋上か!

「浮かびしあざ逆覩げきとこうし――」

  俺はよく分からん言葉を囁きながら揺れた植木へと走った。

鑽仰さんごうを危ぶませしモノ――!」

  走りながら黒いもやがあふれる右手をひたいに近づける。俺は深く息を吸いこんで膝を深く曲げた。叫ぶ。

「――鑽覩之字サントノアザだ!」

  どんっ!  とアスファルトを蹴って飛ぶ。二メートルくらいの植木のてっぺんに足を着き、さらにみきを蹴りくだく勢いで上空へと飛び上がる。

  俺は垂直に、ロイヤルヒルの壁を沿うように飛び上がった。ビュオウッ!  と風を切る音は、それほどまでに強烈な跳躍ちょうやくであることを物語っている。そのまま一気に四階を過ぎ、屋上を見下ろすくらいの高さで跳躍の上昇は終わった。

  俺は上昇と下降がプラマイゼロの空中浮遊の状態で屋上を見渡した。屋上は遊具広場のようになっていて、広さはまあまあ確保されているみたいだった。右奥にエレベーターの出入口だろう四角い建物があり、子供広場みたいなスペースには遊具がパラパラと見える。左手にはヒーローショーとかやりそうな小さなステージがあり、オープンイベントでも披露ひろうしていたのかもしれない。

  オーコがいたのは遊具広場のなかだった。小さな遊具に身を隠すように背中を丸めていたオーコを、黒いうずがジジジ……パンッパンッ!  と帯電たいでんしながら全身を包んでいく。オーコは胎児のように膝をかかえて丸くなったかと思うと、瞬きまばたのちには、その夕陽のような赤い髪をふわりと広げて立ち上がっていた。その光景はまるで、メタモルフォーゼを完了させた蝶のようにあでやかだった。クイモノの降臨こうりんだ。

  そして俺は……落下していた。

「垂直飛びだったからなあぁぁぁぁぁ!」

  そうだよね上にまっすぐ飛んだから落ちていくに決まってるよね屋上のへりつかま――スカッ――ムリかチキショウォォォッ!  着地か?  着地だな!  よしサントノアザだ……ムリだ!  イメージが浮かばない!

「……もう、ドーマくんてば」

  俺が自由落下の恐怖に発狂しかけていると、鈴の音のような声とともにオーコが降ってきた。俺より速く動くオーコは手をまわして体を支え、ロイヤルヒルの壁をタンッと軽やかに蹴る。

「サントノアザはドーマくんの意識と密接みっせつなんだから。ちゃんと出来るって確信しないと力は発揮はっきされないよ」
「言うのは簡単なんだよ……」

  俺は何度も聞かされた説教よりも、背中にあたるやわらかい感触に意識を集中させている。あー俺をもっと強く抱えて!  じらさないでもっと……もっと強く!  頼むよおぉぉぉ!

  そんなことを考えているあいだに、俺の幸福時間ゴールデンタイムは終了した。オーコは俺が地面に足を着けると手を離し、星がかがやき始めた西の空を見上げた。

「とにかく、わたしの食欲がクラウドを捕捉ほそくしかけてる。クラウドの現出げんしゅつはもうすぐなんだけど……」

  俺も立ち上がってオーコの見ている西の空を見上げる。夜の闇が侵食しんしょくするように、夕陽の光を封じこめつつある。かすかな光はうっすらとして、押し潰されたミカンみたいだ。これがオーコの言うオーマガトキの刻限こくげんだった。

  クラウドがあふれる時間だが、オーコにはまだ明確な位置は把握はあく出来ていない。クラウドは土地からあふれてくるわけだから、集合体のようにならないとオーコにとっては世界地図を眺めてるような感覚だ。ここっていうピンポイントでは感じることが出来ない。ここらへん一帯のクラウドが集まって、初めて明確な場所が分かるということだ。

  オーコは後手後手ごてごてになってしまうことをなげいていた。クラウドが集合体になるか、人間に憑依しなければカンペキなニエモノの探知が出来ないことをだ。そりゃあそうだ。オーコが守りたいのは空海の土地だけじゃなく、ここに住んでる人々もなんだからな。

「運よく見つけられることもあるんだけどね」
「おまえはロイヤルヒルのなかを歩いてみたんだよな?  なんかそれらしい人物とかいなかったのか?」
「ううん……悪性はみんなが持ってるモノだから難しいんだ。もちろん善性もね。お客さんがいっぱいいたから、万引きしてやろうかって人くらいはいるだろうけど、その程度の悪性じゃあクラウドはよりつかないよ。もっと強烈でふつふつと燃えるような悪性じゃないと……まあそれも、ふだんは善性でおおい隠されてるからダメなんだけどね……」
「なるほど、簡単に本心が分かる人間なんざいないってことだな」

  土地神の感性で分からないことが、俺に分かるわけがない。そういや悪性についてくわしくは知らないな。

「なあオーコさ、悪性ってのはどこまでその……なんて言うかかたむいてればクラウドが反応するんだ?」
「そうだなぁ、一番分かりやすいのは『殺意』かな。負の感情のなかではもっともポピュラーなものだから。それ以外だと煩悩ぼんのうみたいなやつ。怒り、おろか、慢心まんしん怠慢たいまん偏執へんしつ貪欲どんよく――」
「待て……貪欲?  ようするに欲求とかだよな。なにかが欲しいってやつ」

  俺は思わずオーコの言葉をさえぎっていた。なにかが閃く。

「オーコは食欲全開だよな?  それには反応しないのか?」
「いままで一緒にいたんだから分かるでしょ?  わたしの食欲は人間のとは別次元のモノなんだよ」
「だよな……じゃあ、もっと地方に店舗を拡げて業務拡大してやるぞー、てのはどうだ。オーナーってつまり経営のトップだよな?  実業家の精神状態なんざ分からないが、メチャクチャ強烈な感情がなけりゃそもそも起業すらしないんじゃないか?」
「ウソ……あの優しそうな人が……?」

  オーコは俺の予想を上回る反応をした。クイモノ化したオーコは表情があまり変わらなくなる。そのためいつものオーコスマイルも封印されてしまうが、なんと言っても冷たい感じのするオーコも嫌いじゃない。てゆーか好きだ。それはそれとして、オーコは俺の発言にかなり驚いたようすだった。

「ひょっとして……おまえも似たようなこと考えてたのか?」
「……うん。ドーマくんはいなかったけど、オーナーに取材した時に欲望の波が強い人だなぁって」
「じゃあオーナーのところ行ってみるか?」
「そうだね。クラウドがあらわれる理由としては充分だし、そもそもクラウドがロイヤルヒルに集まってしまったのも、自然が壊されたからだもん」

  俺はオーコにうなずく。ロイヤルヒルが田畑を壊して建設されたもんだから、大地の還元率かんげんりつが低下したわけだ。通常のクラウドは自然浄化により洗い流せなかったモノだが、今回のは自然の浄化作用がいちじるしく低下したために湧き出すモノだ。

  明確な違いは故意か過失かってところか。もしくは人災なのか天災なのか、かな?  まあなんでもいい。

「オーナーはきっと部屋にいるよ。事務仕事が終わらないって言ってたからね」
「よし、案内はおまえに任せた……ん?  オーコのケータイ鳴ってないか?」

  クラシックが着信音か……全然キャラじゃないぞ?  オーコはケータイをポケットから取り出すと、なぜか俺に渡してきた。あ、そうだよな。いまのオーコはいつもとキャラが違いすぎる。

「テキトーにね」
「ああ……もしもし……なんだシャータか」
『おお、ドーマくんか。調子はよくなったみたいだね。それよりなぜ君がオーコくんのケータイに?』
「あー……俺が風にあたりたくなったもんで外なんだけど、オーコはちょっとツワリがきつくてトイレだ」
『ツツツツ……ツワリ!?  なんだ君はオーコくんとつき合って半年ほどでもうハラマセ――!』
「はい。じゃーなー……よし!  いてぇっ!」
「よしじゃないでしょ?  もう、あとでみんなに質問攻めにされちゃうよ……」 

  オーコに頭をハタかれてケータイを返す。と思ったらまた着信が来た。出る。

「もしもーし……ああカゲチヨか?」
『ドーマくん……いまシャータくんから聞いたけど……あんたオーコに……なんかしたんだって?』
「怖い怖いっ!  ドスを効かせるなドスをっ!  んなもん冗談に決まってんだろ!」
『……あーなんだぁ☆  責任も取れないのにケイソツなことしやがったと思ってさ。あんたの大事もんを切り落としてやろうかってさぁ☆』
「大事なもんてなんだ?  まさかカゲチヨ……俺がガンディムプラモを大事にしてることをっ!?」
『あ、全然わかんない。そんでさ、オーコが戻ったらオーナーさんを見なかったか聞いて欲しいんだよ。なんか事務長って人が来て、オーナー知りませんかーって。わたしらも取材以降は会ってないって言ったんだけどさ』
「おー了解。じゃあまた……よし。今度はハタくなよ?」
「意味もないのにやらないってば。それでなんだって?」
「俺達の考えが当たったかもしれない。オーナーが行方知れずみたいだぜ?」

  ケータイを渡しながら言うと、オーコはどこか悲しげな目で田んぼを見た。方向としては都市部とは反対の、市境のほうだ。なにかを感じているのか?

「来る……ドーマくん行こう」
「オーナーはどうすんだ」
「前にも説明はしたけど、オーマガトキはあくまでもクラウドがあふれる時間だよ。マガツココロとしての憑依はそれ以前から始まってるから、対象の人間は操られてしまう。その憑依自体はマガツココロのせいで精神に働きかける毒電波みたいなものだから、わたしの食欲じゃあ見つけられないんだよ。通常の悪性の波動と大差ないからね。じゃあ行こう」

  そうだった。クラウドは瘴気みたいなモノだ。つねにあるモノだ――それ以前がマガツココロ。形にならなくても人間に影響を及ぼす。まるで寄生虫のように隠れながら這いより、いつのまにか操られている。これは憑依のイチパターンだ。マガツココロがクラウドとして現出する場所に人間を呼びよせて、肉体に憑依するわけだ。 

  オーコが地面を蹴って走り出したのに俺も続く……はえぇなおい!  クイモノ化したオーコは尋常じんじょうじゃない。つーか人智を越えている。あっと言うまに五十メートルは置いていかれる。これでもサントノアザで走力は強化してんだぜ?

  クイモノはクイモノだが、通常時のオーコ状態といまのクイモノ状態とでは少し勝手が違う。オーコ状態でもクイモノとしての能力ちからはかなり使えるが、なんつーかクイモノ状態は鎖から解放された獰猛な犬って感じだ。ほかの例えだと、空腹すぎて人間まで襲うオオカミ――それっぽいのだと真オーコって感じか?  もういいや真オーコで。

  いまの説明のあいだにロイヤルヒルの敷地を区切っているフェンスを越えて田んぼに入った。昨夜の田んぼと同じようにまだ刈り取られていない稲穂がたくさん実っている。ここを走るのか?  また米をムダにするのかと思うと気が進まないが、真オーコはとっくに百メートル以上離れている。いや、真オーコはなんかやだな。カワイクないな。うーん……あ、いいやオーコで。

  オーコが走ったあとなら被害は少ないだろうと思いきや、なぜか稲穂は一本たりとも踏み倒されていなかった。さすがはジボシンだということだろう。自分の守護する土地のものは傷つけないってわけだ……と、オーコが立ち止まった。豆粒ってわけじゃないが、稲穂が腰のあたりまで隠しているから距離感が掴みづらい。その姿は夜闇にまぎれていてうっすらとしている。

  オーコは広大な田んぼのなかにぽつんと立っていた。田んぼの敷地の広さは例えようがない。一町いっちょうがだいたい一ヘクタールだから……悪いムリだ。とにかくはしっこが分からないくらいの広さがある。そりゃ稲刈りも進まないわな。

「あ……?  なんだこの寒気……」

  俺がオーコをめざして走り続けていると、突然にそんな感じがした。寒気というよりは、なにかとんでもないことが起きそうな前触れみたいなモノだ。虫の知らせってこういうことなのか?  寒気を感じてからは心がざわついてしょうがなかった。なんだかいつもとようすが違う。

「――マくん!  オーナーじゃないよ!」
「はあ!?  じゃあなんだっていう――」

  んだ!  て、なんだこれ!  なにかを踏んでいる気がして見てみると、おわんをひっくり返したような黒いゼリーが落ちていた。 違う違う、クラウドだよこれ!  俺はとにかくオーコのいる場所に急いだ。

「なんだかいつもと違うみたいだぞ!  ニエモノがいてもいい時間じゃないのかよ!」
「そうだね……依代がなんなのかわからない。悪性は強いのに一点を成さない。これは……これはアッシュクラウドだよ」
「あ……アッシュ?  灰とかそういう?」
「通常とはことなる現出をするクラウドのこと。こんな現出は何年かに一度くらいしかない。この状態だとニエモノの核である鋳魂イコンが形成されるのが遅いの」
「つまりはあれか?  ニエモノが造られないのにクラウドだけ出てきちまって……いや、それってどうなるんだ?」
「早くなんでもいいから武器を出して。イコンが形成されないうちからわたしの食欲がマックスになったんだよ?  ということは、ニエモノが造形される以前の状態でも、ニエモノとしての存在が確立している……イコンはまだバラバラだけど、ニエモノはもういるってこと!」

  オーコがいきなり赤い爪を一閃いっせんした。空中でバラバラになっているのは黒いゼリーだった。なんだなんだ!  いつもはなにかしらに化けて出るんじゃないのか!

  俺の疑問をまったく無視する形で黒いゼリーは次々と稲穂から姿をあらわす。まるでバッタが飛び出して来るように、まるで弾丸の嵐のように……そこかしこからクラウドが攻撃してくる!  痛いぞバカ!  俺の左肩にクラウドがぶち当たった。痛い痛い痛いっ!

  シュウゥゥッ……とまるで酸が物を溶かすみたいな白煙があがる。溶かされ――違う、喰われてる!  クラウドをサントノアザで強化した拳で叩き落とすと、カッターシャツが焦げたように穴が開き、皮膚は火傷のようになっていた。

「ドーマくん!」
「分かってるよ!」

  クラウドが次々とオーコに降りかかる。ズドドドドドドドドッ!   みたいな、いやもう弾幕で見えないって感じだ。

  だがオーコは一発も食らわない。動きが速すぎる!  体勢を変えて前後上下左右のクラウドを赤い爪で切り裂いているが、瞬間移動しているようにしか見えない。俺も負けてられないな。俺は右手のサントノアザを額にかざした。

「これが――おまえ達にざんを課す!」

  いつもの決めゼリフにはいちおうだが意味がある。サントノアザは俺の意識と密接で、さらに発動するのに絶対不可欠なモノがあり、それを円滑えんかつにするためのおまじないだ。

  それは『確信力』。それそのまんまの意味で、俺が力を使うには確信が必要だ。いまの状態で言うなら、このクラウド達を絶対に倒せる力を俺は出せる!  っていう確信だな。武器の形状とかは意味がない。昨夜は卓上扇風機でニエモノを倒し、イコンの解放に成功しただろ?  だから俺の確信には絶対の力があり、なおかつ『なにが出てこようと』絶対に倒すことが出来るってわけだ。

  まあそれで苦労させられるわけなんだけどな。武器らしい武器が出てこないわけじゃないんだが、使い方が分からないのがほとんどだ。オーコに言わせりゃ『具現力』が足りないってことらしいが、確信を持つってのは並大抵の意識じゃないんだ。ほんの少しでも『倒せんのか?』と疑問を持っているとサントノアザは力を発揮しないんだからな。

  サントノアザでの運動能力アップも同じことだ。俺は人間じゃ考えられないジャンプをしたが、『着地できんのか?』と疑い、確信を得ていなかった。あのまま落ちてれば死んでいただろう。サントノアザはそういう使いづらい力だ。だが最強の力でもある。

  俺の確信はサントノアザの条件を成し、手には武器が握られていた。お?  おい!  なんだこりゃ!  まともすぎて逆に不安だ!

  俺の手にはベレッタとおぼしき自動拳銃が握られていた。映画とかモデルガンでは拝見したことはあるが、やたら重い。まさに鉄のカタマリだ。これはホンモノか?

「準備はできたかな!」
「あ……ああ!」
「じゃあ手伝って!」

  俺は不安なまま、しかし考える暇がない。クラウドはオーコを集中的に狙っているみたいだったが、俺のほうにも十匹くらい襲いかかって来た。よっしゃあ!  ゲーセンのガンシューテイングできたえ抜かれた俺の技を見やがれ!  俺は狙いを定めてトリガーを引いた。

  カチ……………………。

「なんかデジャヴなんですけどおぉぉぉぉぉ!」

  やっぱ使いにくいわサントノアザ!  俺はしかたなく正面からのクラウドを拳銃でハタき落とした。横から後ろからどんどんクラウドが飛んでくるが、ステップとか横っ飛びとかでかわす。

「くそっなんだってんだ?  使う前から弾切れかよ!」
「サントノアザで出てきた武器に、弾なんか入ってるわけないよ」
「はいぃ?  じゃあどうすりゃいいんだ!」
内撃心鉄ココロガネだよ」
「言葉よりも意味をください!」
「簡単に言えば確信で引くの。ニュアンスで言えば心で撃つ!」
「言うはやすしパターンねっ!」

  心で撃つってのは言葉のあやってやつだよな?  ようするにこいつらを倒す弾が出るって確信すればいいのか。なるほど、確かにさっきは半信半疑でトリガー引いた!

  俺はクラウドの猛攻をかわしながら確信のとっかかりを探した。経験に基づく言葉に説得力があるように、実経験は確信を手助けする。つまるところ、やってみたら『出来た』っていうあの感覚だ。

  俺は高校に入学するまで友達がいなかった。その原因は『笑えない』せいだ。クラスメイトが冗談を言っても眉ひとつ動かさないで、面白いなそれ、で終わる。クールを通り越してつまんねー奴だったんだろう。必然的に一人になるわけで、遊ぶのも一人。それでゲーセンに通いつめた。

  初めてゲーセンに行った時、なにをすればいいのかわからなくてウロウロしていた。そして見つけたのがガンシューテイングだ。緊張しながらガンシューテイングの筐体きょうたいにコインを入れて、初めてトリガーを引いた。ヘッドショットは大ダメージで、緊張で一発しか撃ってなかったのに、敵はその一回で倒せた。そのあとは散々な結果だったが、あの一発は忘れもしない。

(すげえくだらない経験かもしれない。でも俺には一人でもなんとかなるって思えた瞬間だ!  俺の一撃でこいつらは倒せる!)

  ――俺は確信してトリガーを引いた。

  ……ドンッ!  と派手な音が田んぼに響き、ベレッタから発射されたのは弾丸の軌跡だ。白光しろびかりする見えない弾丸の軌跡がクラウドを捉え、あっさりと撃ち抜く。風穴が空いたクラウドは、パァンッ!  と風船が割れるみたいに爆発した。

「しゃあ!  出来たぞオーコ……オーコ!」

  俺はオーコの姿が見つけられずに叫んだ。いや……いつのまにかクラウドが一つになり、でかいスライムみたいなのが出来ていた。オーコ……!  まさか喰われてるのか!?

「てめぇらオーコになにしやがるっ!」

  怒号どごうとともに、でかいスライムに向けてベレッタをぶっ放す。一度しか引いていないのに、発射された見えない弾丸は何百にもなっていた。それはまるで自動追尾レーザーのようにでかいスライムに飛んでいき、集合体になっているクラウドを一斉いっせいに爆発させる。キュバボバババババッ!  とかん高い着弾音――って、すげえ威力だけどオーコは大丈夫なのか?

  俺はクラウドが粉々になり、爆心地みたいになっている場所にオーコの姿がなくてあせ った。まさか……俺の攻撃くらいじゃ死なないよな?

  俺のなかで不安が絶望になろうとしていた。が――ボゴォンッ!  と爆心地の地面が割れてなにかが飛び出してきた。ニエモノかとかまえるが、空を舞う美しい少女がオーコだと分かり、俺は安堵あんどの息を吐いた。

「凄いねドーマくん……確信力が上がってるみたい」

  俺の前に華麗に降り立ったオーコはそう言ってくれた。その言葉は素直に嬉しいぞ!  いやいや、それよりもオーコの心配だ。

「いま、喰われてたのか?」
「違うよ。個体だと面倒だったから一箇所に集めてただけ。うまくいったね」
「な……なんだよ……すげえ心配したんだけどな……」
「ふうん……心配だったんだ?」
「いいいいいや!  バカッ!  そんなわけないだろう!」

  俺はオーコに顔を覗きこまれてぶんぶかと手を振りながら後退していた。は……恥ずかしいぞ!  と、オーコは必死に弁解する俺につまらなそうな視線を向けた。ん?  なんだそのリアクションは?

「……そろそろ出てくるよニエモノが。いまのはただの前座。イコンがもうすぐ一つになる」
「お……おう!」
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