上 下
3 / 18
一章「俺がやらなきゃ誰がやる!」

新聞部やってます

しおりを挟む
                               ※

「今日の活動内容は?  はい、撮影担当のシャータくんっ」
「空海駅からバスで二十分のあたりに、商店街泣かせの商業施設ロイヤルヒルとやらができたのだよ。その施設や内部店舗をくまなくリサーチし、商品販売における低価格の実現の裏にある反社会的、反商店街的な悪徳思想を暴くために我々が……」

「うんっ、全然違うけど正解っ!  では経理担当のゲゲさんっ。予算の限界は?」
「すべての店舗を回るには少し心もとないねぇ。だから事前に活動予算内におさまるように、どんな店舗があるかなどをチェックして、どこを回り調査するかは決めてある。高校生向けということで、レジャーに集中してるよぉ」

「うん、さすがっ!  ではロケハン担当のカゲちょんっ!」
「とりあえずオーナーさんにはオーケーもらってるよ。んで、ゲゲさんと話して事前に目的の店舗の撮影許可は出てる。オーナーさんが各店舗の店長には話をとおしてくれるらしいから、ほかに気になるお店があったらその都度、撮影交渉してって。久しぶりに第三ボタン開けちゃうぜ?☆」

「カゲちょんサイコーっ!  その色気で同性も落とすっ!  そして荷物担当のドーマくんっ!  準備はいかが?」
「……おー」
「テンション低いっ!  はいっ、もっと元気よくっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!  重いし暑いんだよバカ野郎っ!  ミーティングする前から全部持ってる必要はないだろうおぉ!」

  授業はとっくに終わって放課後。場所は空海駅前の広場。時刻は午後四時半。雑踏の熱気やら、オフィスビルとアスファルトの照り返しが強烈になる時刻。

  俺はよく分からん取材道具の入ったでかいスポーツバッグを二つ、肩からかけている。歩くたびにガッチャガッチャ言うし、でかいの二つを両脇に抱えてるおかげで熱がこもる。心頭滅却しんとうめっきゃくなどやすやすと上回るほど暑い!

  そんななか、我が『空海高校新聞部』は活動を開始しようとしていた。活動指針はライズ&トゥルース。嘘と真実だ。俺にはまっっっっったく意味が分からない目標のもと、新聞部は新設の商業施設に向かおうとしている。

  一番タチが悪いのは、校内で出版する俺達の新聞が高評価なところだ。内容は若者向けの情報誌みたいなものばかりだったが、おすすめの学習塾を紹介したり、勉強の進めかたのレクチャーをコラムにしてみたり、スポーツ施設の案内など、学生を応援するような内容が生徒の人気になっている。それが地域に知れ渡り、校外でも読者がいるくらいだ。

  そのせいで調子に乗っている状態に新聞部はある。活動が認められているせいで予算委員会がかなり多めに予算を割りあてたり、学校新聞コンクールとやらに出してみないかと校長に言われたりと、立ち上げて一年近くでかなり高ランクの位置づけになってしまった。

  その予算と世論(生徒とか教師)の評価の結果を俺が抱えているわけだ。カメラオタクのシャータが購入した組み立て式の三脚やらなんやら!  左側のチャックからはヌイグルミの手がはみ出てるけどっ!  なにに使うんだよぉ!

  ……と、俺のクレームをまったく無視する形で新聞部はバスに乗りこんだ。向かうは山側の方向で、一番近くの市境しざかいにあるロイヤルヒルだ。県道沿いに建てられていて、となりの市からの客も見込んで造られたらしいが、田んぼのなかでは浮いている建造物に見えるだろう。

「最初はオーナーからコメント貰うんだよね?」

  俺達はガラッガラの車内で最後方あたりを陣取った。一番後ろに四人が座り、俺はその前の二人がけのシートで荷物と仲良し。この疎外感そがいかんはスゴイ!  俺のあつかいはほぼ運搬車うんぱんしゃだ。

「オーナーにアイサツがてらインタビューだぜ☆  企業理念きぎょうりねんとか経営方針けいえいほうしんとかを聞いたりする」
「それだと文章が固くなっちゃうねっ。高校生の新聞なんだからライトな質問しなくちゃっ」
「オーコくんの文才なら問題ないのではないだろうか。でもなんで事前にインタビューの内容を決めてこなかったんだい?  いままでは事前に質問の内容は決めていただろう」
「効率よく取材するためのタイムテーブルを作るのに時間をついやしたからさぁ。インタビューの内容を細かく決める時間がなかったんだぁ。フリーのインタビューはオーコの得意とするところだし、心配はしてないねぇ」
「ふむ……まあ僕も心配はしてないけれど。カゲチヨくん、ロイヤルヒル全景を撮るのにいいアングルはあっただろうか」
「まわりの田んぼのなか歩き回ったけど、あんましピンとこないかなぁ。それに一面の写真が全景だと、社内報しゃないほうみたいな雰囲気になるぞ」
「そうだねっ、あくまでも伝えたいのはどんなお店があってそれがどんな風に学生生活に利用できるのかだもんっ。あーでも一面に載せる写真どうしようかなぁ」

  四人がそれっぽい会話をしているなか、俺はアクビを噛み殺していた。俺はほとんどの場合で記事とは無関係の仕事をする。撮影機材の運搬に設置、撮影時に被写体ひしゃたい以外が写りこんでしまわないように周辺を整理したり、取材中に邪魔が入らないように人の誘導したり……アシスタントってやつだ。

  それともう一つ。新聞部の活動にかこつけて、オーコの食欲に反応したニエモノを倒すことだ。

  ようするにそれが新聞部が発足された理由というわけだ。はっきり言って俺もオーコもいまの裏の仕事をみんなに知られたくない。オーコの飢餓感に反応があれば新聞部をよそおって下見に行く。そしてニエモノに変化してしまう人間を特定し、変化したら浄化する。まあ浄化という名の食事なわけだが、それをしないと大変なことが起こるから、確実に遂行すいこうしなくちゃならない。

  オーコがニエモノを食べる行為は、じつのところ自分へと回帰かいきさせる『御祓みそぎ』なんだそうだ。

  クラウドのことは覚えてるか?  あれが人間に寄生してニエモノになるわけだが、あれは空海の土地からあふれだした瘴気しょうきみたいなものだ。地球ってのはあらゆる汚物を雨とかで流し、循環させることによってキレイな状態をたもってる。自然浄化作用ってやつだ。

  でもそれにより、物質として俺達が科学で認識できるものと、それ以外に認識不可能に近い『凶真マガツココロ』とかいう悪い気も大地に取りこんでいて、それをキレイな状態にして大地に還す役割もある。それをするのがクイモノ――つまりはオーコだ。

  オーコいわく、クイモノは土地神の一つ『地母神じぼしん』に該当がいとうする。クラウドは地球の大気に放出された瘴気で、それは人間を狂わせてしまい、クラウドがはびこる大地には天変地異によって大がかりな浄化が行われる。それは地球の意思だから俺達にはどうしようもない。

  マガツココロってのは悪意とかそういうものだ。 その土地に住むひとびとの負の感情はつねに大気にあふれ、そしてそれがいつしかクラウドという悪の瘴気に形をなし、ひとびとの負の感情に反応して寄生する。寄生された人間は凶暴化――凶心ココログルイっていうらしい――し、それで人間の持つ善悪二つの心性しんせいのうち、悪の部分が解放されてニエモノ化する。その負の感情はさらに瘴気を呼び、どんどんニエモノが出てくるってわけだ。

  そして起こるのが天変地異。まあこの国に多いのは地震だろうな。そして津波だ。地球意思が無理やりにおこなう浄化――それはその土地になにを残すかってのは誰でも分かることだ。徹底的な破壊……。

  オーコはそう、土地の守り神ってやつなんだよ。地球意思の浄化が起きて破壊されるのは自然も同じだろ?  だから守ろうとしてるんだ。空海市は近代文明と自然界がきっちり両立されている土地だからな。

  そして守り神と言っても人間なんだオーコは。友達とかいろいろと大切なものが空海ここにはあるんだ。だから必死に守ろうとしてる。それを俺は手助けしてやりたいんだよ。これも惚れた弱みか?

「あー見えてきたねっ」

  俺はその声でハッと顔を上げた。なんかバスって寝心地いいんだよなぁ。

  視線の先にはロイヤルヒルがあった。田んぼのなかに不自然に押しこまれ、バカに広い駐車場があり、学校よりもでかい四階建てコンクリートの白い建造物が見えた。有名ブランドのショップなんかが入っているL字型の本館に加え、さらに奥に渡り通路でつながる別館がある。そっちはレジャースポットになっていて、ゲーセンやらがあるらしい。

  バスがロイヤルヒル前に停車する。この商業施設のためにバス停と、県道を渡るための歩道橋も造られた。空海市長の気合いの入れようが怖い。

  俺達はまだ明るい太陽を背に、歩道橋を渡ってロイヤルヒル駐車場に到着した。シャータが首からさげていた一眼レフでロイヤルヒル全景を撮る。他の三人はなにやら新聞作りのアイデアを出し合っていた。

  俺も頑張っている。重さと暑さに耐えながら、その仕事ぶりを拝見はいけんしてますっ!  早く入ろうぜ!  いまの俺にとっての神であるエアコン神様しんさまがいらっしゃるからさ!  もうお告げが聞こえてるから早く入ろうぜ!

「……でいいんじゃね☆  基本的に学生の立場からの質問ていう形式で」
「そっかっ。それならオーナーさんの答えも自然にライトになるっ。カゲちょん頭いー♪」
「いいと思うよぉ。オーナーさんに時間があるなら風景と一緒に写ってもらってもいいかもねぇ」
「ふむ、それなら僕はいいアングルを探しに行こう。屋上で……いや、渡り通路を利用しようか。強い西日をうまく抑えられるかもしれない。では行こうかドーマくん」
「それってどれだ。二階から四階の部分が渡り通路だぞ」
「決まっているじゃないか。室内で風景を撮らないんだから窓ガラスと壁のある二階と三階の渡り通路は使わない。屋上のようになっている四階部分で撮るのだよ。あそこなら建物が影を作るからうまいぐあいに陽光を遮断――」
「うわぁ……神いねーよ……」

  エアコン神様に見放された俺は、シャータと一緒に渡り通路に向かうことになってしまった。

  オーコ、ゲゲさん、カゲチヨの三人は別行動でオーナーの取材に。そのあいだに俺達は撮影のロケーションを探すわけだ。どこぞのオッサンのいい顔を撮るためにエアコン神様をスルーかよ。罰当たりだ!

  俺とシャータは車が規則的に並んでいる駐車場を横切り、ロイヤルヒルの正面ではなく建物の横にある入り口に向かった。シャータが用意していたロイヤルヒルのパンフでマップを確認している。なんで俺には渡されなかったのか理由は聞かない。こんなところで泣きたくないからだ。

  駐車場の隅には出店でみせが並んでいて、アイスクリームのノボリを横目に本館に向かう。いやぁうまそうだ。冷たいアイスクリームってなんかうまそうだ。はい、シャータ先生は無視です。

  入り口に着いて自動ドアが開き、出迎えたのはエアコン神様のお恵みに加えてお祭り騒ぎの人混みだ。本日オープンというだけあって、ロイヤルヒルのにぎわいは大変なことになっていた。風船を配るキノコのマスコットキャラには子供達が群がり、オープンセールの品物には大人が群がっている。ロイヤルヒルの内部は店舗ごとの店構えが異なり、木目調だったりカフェみたいな造りだったりと、見た目も騒がしい。

  一階フロアは飲食店とスーパーがあるらしい。だがそんなものはスルーで、すぐ真横にあるエレベーターに乗って四階へ。エレベーターについている案内板を見ると、一階はフード、二階はインテリア、三階はアパレル関係、四階は家電と本屋と区分されている。

  チン……と四階でエレベーターが止まる。

  四階で降りるとすぐに電気屋になっていて、なかにはケータイショップが入っていた。そういや昨日、ガラケーを亡きものにしたことを思い出す。

「なあシャータ。部活動以外の行動ってしていいのか?」

  俺の目線より下にあるつむじに聞くと、シャータは肩をすくめた。

「撮影のポイントを見つけたらしばらくは待機だよ。オーコくん達がオーナーを連れてくるまでは自由でいいんじゃないかな。僕も電気屋を見てみたいのだよ……父に敵情視察てきじょうしさつを命じられているからね」

  シャータは眼鏡のレンズを光らせながら、ふふふ……と不気味に笑った。シャータの実家は駅前商店街にある電気屋だ。そして地方にある商店街が割りを食うのがこういった大手の地方進出のせいだ。シャッター商店街の元凶ってやつだな。だから商店街の電気屋の息子としては、このロイヤルヒルを無視できないんだろうな。

  小難しい話はさておき、俺とシャータは家電量販店を通りすぎ、本館の中央付近で曲がって四階渡り通路に向かった。渡り通路に出る自動ドアが開いた瞬間、熱気が押しよせてくる。早く撮影ポイントを見つけてくれよ、シャータ先生!

「ふむ……本館側は日陰になっているね。通路からの景色は……右手に都市部、左手は山と田畑か……やはり都市のビル並みと田畑が映るようにして、さも商店街を潰します、というような写真に……」

  すげえ悪意を感じる……だが写真オタクはダテじゃない。きっちりいいアングルを探す。落下防止柵に背中をつけて、別館のほうへと一歩ずつ移動していき、立ち止まるたびにファインダーを覗いている。俺にはよく分からんが光の加減とかいろいろあるんだろう。しかしあれだな、一歩が小さいな。小走りで作業を終わらせようぜ。なかに戻ろうぜ早めに!  暑いから!

  そういやなんで俺は一緒にいるんだろうと考えつつ、重さと暑さに耐える。ちょい自動ドアよりに立って、ほかの客が開けるたびにエアコンの冷気を浴びる。あーもうおまえら、まとめて出入りしないで一列に並んで開けろよ。いちいち閉めんなよ。僕を助けてよ。

  シャータがひと通りのチェックを終わらせたのは十五分くらい経ってからだった。

「どうだ?」
「僕の身長ではあまりよくないことに気づいたのだよ。だからドーマくん。僕を抱き上げてくれないか」
「なに?  おまえを抱えかかていまのと同じ作業するのか?」
「君にカメラを持たせて探してもらってもかまわないが、写真というものに精通していたかなドーマくんは」

  してねーよ。してないからやらせていただきますよ!  俺は作業の邪魔になる荷物を降ろそうと肩ヒモに手をかけた。すると、

「ドーマくん、悪いが荷物は持っていてもらいたい」
「んなバカな……この重いのを持ちながらおまえを持つのか?」
「新聞部の部費で購入した道具達を地べたに置くというのか君は。置き引きにあったらどうする?  かなり高額な道具ばかりなんだぞ」
「いやだって……おまえなんキロあるんだよ……」
「そういったことよりもだ。まず新聞部としての仕事をまっとうすることをしたらどうだい?  君は今日ずっと文句ばかりを言っているね。いいかい、僕達はいずれ社会に巣立つのだよ?  君は自分のやりたいことではないと、そうやって駄々をこねて仕事を投げ出すつもりなのだろうか。まあいまは未成年だからそれでも通用するだろうね。しかし、社会人として立派な人間というのは与えられた仕事を文句は言えどまっとうして――」
「はい、分かった!  もう分かった!  俺がすげえ間違ってた!  ホントすんませんでしたっ!  ほらシャータくん高い高ーい」

  俺はなかばヤケクソにシャータを持ち上げた。ん……以外と軽いなこいつ。だが、それは通常の状態ならばだ!  なんだこれ!  荷物の重さを支えているのだろう俺の肩、そして二の腕あたりの筋肉やらなんやらがわなないている!  武者震いってやつか!?  断じていな!  昨日の卓上扇風機みたいなやつだ!  俺の筋力を上回るプレッシャーが肉体を震わせている!

  俺はシャータを持ち上げながら本館から別館へと一歩ずつ移動していく。三歩目まではなんとかなったがそろそろ休みたい!

「シャータ……一回休ませてくれ……!」
「うむ……もう少し左」

  いや意味わかんねえ!  休ませてくれに対してもう少し左ってなんだよ!

「ドーマくんまだ降ろさないでくれたまえ。なにかが掴めそうだ」
「そんなこと……言ったってぇ……!」

  俺は左に一歩移動する。もう暑いとか重いとかはどうでもよくなってきた。とにかく降ろしたい。

「ドーマくんあまり揺れないでくれたまえ」

  俺が揺れてんじゃねーよ!  勝手に震えるんだよ!  俺はもう一歩移動する。

「ドーマくん、カチカチという音が耳障りなんだがね」

  しょうがねえだろ!  食いしばってる歯が勝手に鳴るんだよ!  俺はもう一歩移動する。

「うむ……このあたりだな。この位置ならオーナーを左に立たせて悪どい笑みを浮かべてもらい、さも都市部を透過とうかして商店街を嘲笑あざわらうかのような一枚が撮れる」

  ごめんシャータ。たぶんオーナーは商店街を狙ってないよ……おまえと父親が危機感を抱いているだけだよ!  被害妄想ひがいもうそうだよきっと!  だから早く降りて!  俺は指示を受けてもう半歩分だけ左に移動した。と、

「む……?  ちょっと降ろしてくれたまえ。僕の下腹部のあたりでバイブレーションが起きている」

  なんかやだなそれ!  その言い回しやだな!  ケータイ鳴ってるでよくないかっ!?  俺はシャータを降ろし、さすがに限界が来て荷物を足元に置いた。近くなら別にいいだろう。

「はい、車折です」
「ぜえ……ぜえ……おま……!」

  なんで自分のケータイ出るのに名字だ!  着信画面で相手はわかるよね!?  礼儀がしっかりしててイイ子だねシャータはっ!

「ふむオーコくん。ふむふむ……なるほど。いや、ドーマくんと一緒によさそうなアングルは見つけられた。いつでも行ける。え……ああ、なるほど」

  なに、アングルは決まったのか……よし、とりあえずこれで苦行からは解放されるんだな?  よくやったぞ俺!  だって頑張ったもの!  あーなんか腕がまだ震えてるよ。しかしこの仕事を終えた爽快感そうかいかんはたまりませんな。それはウソです!  全っ然爽快じゃないわっ!  ただただ苦痛だよチキショウ!

  シャータはそれからまた少し会話を続けてから通話を終わらせた。ケータイを下腹部に――というかポケットにしまうと、カメラを覗いてパシャリと景色を収めた。おそらく報告用だろう。シャータはよしとつぶやいて、俺へと顔を向けた。

「オーナーは忙しいので写真は撮らないそうだよ」

  なんでそうなるんだよおぉぉぉぉっ!  俺の頑張りはなんだったんだあぁぁぁぁっ!  まあなんとなくは予想してたけどな!  こういうオチだって知ってたけどな!

「ぜえ……ぜえ……ごほっ!  もう……限界みてえだ……」
「え!  おい!  ドーマくん!  ドーマくん!」

  あれ?  と、俺はなにが起きたのかまったくわからなかった。視界が暗転し、そのまま倒れているみたいだった。

  あーこれあれだ。噂の熱中症ってやつだ。だって暑かったし。水分とかこまめに取ってなかったし。いやぁ……仕事って大変だなぁ……。

  どさっ………………。
  ………………………………。

                                   ※

  ………………………………。
  …………。

  あれ?  なんか涼しい……嘘だろ……死んだのか俺?

「ドー…………」

  どー?  どーもこーもねーよ。ダメだろ主人公が熱中症とか。せめて敵にやられようよ。だってこれじゃあ貧血女子じゃん。いや、男尊女卑とかではなくてだよ。主人公がだよ。まがりなりにも主人公が熱中症で死にかけるってのはどうなんすか?

「ドーマ……」

  あーなに?  俺を呼んでるのか?  なんか知らないけど三十代くらいの人に『なに、野球やってんの?』とか聞かれるんだよ。アダ名教えたらほぼそうやってさ。意味わからないけど野球なんかやってないからね?  なんなら帰宅部だよ。帰宅部のエースだよ!

「ドーマくん!」

  オーコ?  オーコなのか?  そうか新聞部か俺。いや……新聞部って言ってもビミョーなんだよなぁ。なにがビミョーって立ち位置だよね。俺のやることって新聞作るのに必要か?  新聞出来たら校内に貼って歩いたり、部室でせっせと作業してる四人の横でマンガ読んだり、あまつさえ変な小眼鏡を抱えて熱中症……なにこれ、俺の人生なにこれ?

「ドーマくん!  オーマガトキになっちゃうよ!」

  オーマガトキ……?  逢魔ヶ刻おうまがとき

「あ……オーコ……ここは……?」
「ドーマくん倒れたの。だからロイヤルヒルの警備員室のベッド借りたの」  
しおりを挟む

処理中です...