白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第1品「始まりはいつも勘違い」

錬金術師→神性錬成術師に……焼きで

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「ソヨギさま、どちらへ?」
「漫喫っすね……あ、醤油が消えてません?」

  ソヨギは破壊された民家や駐車場の車なんかを眺めつつ、駅前の方向へ歩いている。そっちにはひとがいそうな気配もしていた。豆腐は皿に乗って着いてきていた。

  空は明るくなり始めていて、朝焼けの雰囲気だった。空気の冷たさが顔を刺激し、頭痛はあるし酒のせいでかすみがかったようだが、眠気はなんとなく覚めていた。携帯を見ると5:32。

「ええ。アニミスを完全に吸収した証拠かと思います。ですが相性のよいソーマだったのか、力を発揮できるのは一度だけみたいですね。吸収がよすぎるせいでエネルギー効率が最大以上になり、その放出も限界以上になるみたいです……あっ、ソヨギさま?」

  ソヨギはアニミスの吸収と消費とやらを聞いて、皿を持ってやった。すると豆腐は恥じらいを見せ、ちょっとだけ皿の隅によった。

「……いま知ったんすけど、絹ごしなんすね」
「まあ……そんな……!  殿方にそんなことを言われるなんて……もう食べていただくしか!」
「いや、腹の調子悪いんで……」

  欠伸をしながらやんわりとお断りし、だらだらと歩いていく。めちゃくちゃになった住宅街のなかを進んでいくと、小さな公園がある。本来ならフェンスで区切られているはずだったが、フェンスは薙ぎ倒され、植木なんかも燃えたり割れたりしていた。

  ソヨギはちら見しつつ豆腐を片手に通り過ぎて行き、角を曲がると声が聞こえてきた。

「このぉ……たかだか地上派魔兵の分際でえぇぇぇ!」
「グハハッ!  おまえを殺して破滅王さまに献上すれば、一気に軍師になれるってもんだ!」

  小さな公園からである。なんとなく気になって見てみると、赤い炎の光に照らされながら、鉄棒のうえに立っている女の子が見えた。それに対抗するためか、すべり台のうえに毛むくじゃらの熊みたいなモンスターが立っていた。豆腐が喋る。

「あれは勇者パーティーのシーフさま!  なぜこんなところに!」
「……公園は子供の遊び場だからじゃないすか?」
「そんなことありません!  勇者さまたちは破滅王の牙城に向かっているはず!  ソヨギさま、どうかお助けください。シーフさまは戦闘には不向きなお方なのです!」
「……まあ、見ちゃいましたから……つってもなんもできませんけど」

  ソヨギは二日酔いである。派手に動いたりは絶対に嫌だった。てくてくと豆腐と一緒に公園にはいる。

精盗せいとうの短剣があれば……あんな奴に負けないのに!」

  シーフの少女が悔しそうに言った。毛先の跳ねた赤い髪にグリーンのバンダナを巻いていて、サバゲーなんかで着てそうなポケットがたくさんついたベストを着用。グリーンのスカートに黒のスパッツ。

「なんと脆弱な小娘なのだ!  精魔せいまの加護がなければなにもできんとはなっ!」

  青に近い毛並みの熊っぽいモンスターは、ゲラゲラと笑っていた。モンスターのなかで流行しているのか、ズボンに腰巻き、ブーツを履いて、その全部が紺色だった。二メートルくらいの背丈なので、ザコキャラなのだろうと勝手に判断する。

「あんたが背後から襲ってきたから無くしちゃったんだからね!  この公園にあるはずなのに……」
「ソヨギさま、探してさしあげましょうよ」
「……なんすかね、すげぇ説明口調な感じが……」

  まあでも、短剣探しくらいならいいか。ソヨギは公園内の散歩を始めた。外周をぐるっとまわれば見つかるだろう……と勝手に決める。見つからなければ豆腐を置いて行こう。

  燃えている場所をさけて歩く。背後では会話イベント的なシーンが続いていた。

「貴様は勇者の仲間なのだろう?  さあ、我輩と戦ってみろぃ!」
「わたしの役目はトラップ解除とか勇者のサポート役……精魔にもらった短剣がなければまともに戦うこともできない……!」

  なんか説明くさいセリフを無視してブランコの囲いを過ぎる。

  すると燃え盛っている植木の根元に、キラリと光るなにかがあった。

「……あれっすかね」
「そうです!  あれはまさに精盗の短剣!  しかし炎が邪魔で取ることができない!  なんという運命の残酷なこと――え?  ソヨギさま?  ソヨ――!」

  ぽいっ。

  ソヨギは豆腐をナイフに向けて放り投げた。ボジュウゥゥゥゥ!  と豆腐の水分が蒸発し、周囲の炎が消えていく。さすがは含水がんすいが高い絹ごしである。

「熱っ!  アチチチッ!  なんてことをソヨギさま!」
「……いや、なんとなく」
「なんとなくですること!?  信じられな――え……嘘……これはアニミス……?  あ……あぁぁぁぁぁ!」

  炎に焼かれてエクスタシーな声を発しながら、豆腐が強烈に輝き始めた。表面がこんがりとした焼き豆腐の完成である。

「……狙いどおりっすね」
「まさかソヨギさまは……炎のアニミスをわたしに与えるために?」

  発光しながら焼き豆腐が空中停滞する。凄まじい力の余波か、風が炎をゆらゆらと揺らす。

「あ、そうっす。それでいいっす」
「……なんだか引っかかる言葉ですが、まあいいでしょう。よし……シーフさまをお助けします!」

  ズギュンッ!  と豆腐が高速で走った。早すぎてソニックブームが発生し、ソヨギの服がバタバタとはためく。すぐ近くにあった精盗の短剣が刺さっていた植木が、ドゴオァッ!  とフェンスにぶつかった。

「な……なんだ貴様は!」
「わたしは護神!  シーフさまを手にかけようなどとは不届き千万!  消えなさい!」
「助けてくれるのね豆腐の女神!  ああ……なんという神々しさなの……」

  ソヨギは歩き疲れてブランコの囲いに座った。冷蔵庫から持ってきていたソルマックを開ける。飲むが、その不味さに思わず嘔吐えずく。次から二日酔い対策は別のものにしようと固く誓った。

「護神!  な……なぜこんなところにぃ!」
「ふふふ……勇者パーティーを守るために集結した護神は一万を越えていますよ!  それも武に長けた超神ばかりがです!」
「ぐ……ぐぬぅ……!  護神相手では我輩にはどうすることも……こうなれば!  ふっ、ぐぬあぁぁぁぁぁ!」
「ベアディケスの魔力が膨れあがっていく!  危ないシーフさまっ!」
「きゃあぁぁぁ!」

  ソヨギはすかさずタバコに火をつけた。口のなかが気持ち悪いのだ。背後ではブワァッ!  とかジシャアッ!  とかいっている。そしてカッと光が一瞬で爆発した。

「ベアディケスめ……いまの光はまさか……?」
「いまのは照明魔法だったわ……おそらく地上派魔軍を呼んだんだよ」
「ということは最低でも団長クラスが来てしまう。シーフさま、急ぎ勇者さまのいる牙城へ!」
「でも精盗の短剣がないのよ……」

  ソヨギはああそうかと腰をあげた。気持ち悪さが増してしまい、うっぷとかしながら精盗の短剣をつまんだ。しっかりと消火もされ、金属特有の熱伝導率の高さでも熱さは解消されていた。

「ご安心をシーフさま。すでに五聖剣のひとつは見つけております」
「ああ……よかった。ありがとうね女神」
「ととととんでもない!  わたしではなくこの世界でのアルケミスト……いいえ、エルアニミストであるソヨギさまが」
「……神性錬成術師エルアニミスト?  こんな複雑なアニミスを錬成や変換できる人間が――しかも神質オリジンから錬成できる人間がいるの?  この低俗な世界に」

  シーフの少女はちょっと小馬鹿にしていた。しかもアルケミストからエルアニミストに役職が変わってしまった。エルアニミストってなんですか?

  しかしその疑問を口にするまえに、ソヨギは歩くのをやめていた――ついに奴が現れたのだ。ドスンッ!  と。

「なんだなんだ……火急信号を追って来てみれば、ただの護神か。ん?  そこにいるのは……勇者の一員だな!?」
「ちっ!  地上派魔軍の一級士官だよ!  あいつを倒すの手伝って!」

  その一級士官とやらは人間みたいな外見で、やはりマッチョだった。ふさふさとした暗い青のかぶりものは、目元を隠すようなマスクにぼわっとした長い獣の毛を使用している。上半身は裸、下半身はさっきのと一緒だ。

「あいつが『英霊の雫石』を持ってるのよ!  だからわたしは町を探しまわっていたの!」
「英霊の雫石を!  それがなければ破滅王の膨大な魔力を抑えることができない!  こちらの世界に来たときに奪われたのですね!」
「そうよ!  こちらに着いたとたんに猛攻にあってしまったの。そして勇者から英霊の雫石を――」

  ソヨギは突然に現れたそいつに苦しめられていた。とてつもなく吐きそうだったのだ。二日酔い対策のソルマックによる後遺症である。しっかりと用法用量を守り、自分の体にあっているのかを吟味しておけば、こんなことにはならなかったはずだ。

「いくぞ善神の使いども!  この体術の申し子インナマッソが相手してやる!」
「そこのお兄さん……エルアニミストさま!  早く精盗の短剣をちょうだい!」
「ソヨギさま……ソヨギさまっ!?  まさか体調が悪化して……」
「おおおぁぁぁぁぁ!  パーフェクト鋼体こうたい術うぅぅぅぅ!」

  第一級士官インナマッソの魔力が大地を震撼させた。

「揺らすのはちょっと……キツイっすね……」

  こうしてソヨギの真の闘いが幕を開けたのである。

  



  
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