白すぎる女神と破滅と勇者

イヌカミ

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第3品「買い物に利用したことないんすよ、ここ」

見つからないソヨギ……ソーサラー?

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「ギョフッ……ギャギョッ……!」
「死にざまも下品だねぇ……」

  ドサッ……ビデガンのまえで魚人系クリーチャーが倒れた。

  半魚人のようなモンスターである。獣人系アニマリーたちとは違い、地上での動きは鈍いが水辺では厄介なモンスターだ。こんなやつを見張りにしているところを見ると、したっぱの派魔兵しか残っていないんじゃないだろうか。

  ビデガンはやれやれと周囲を見まわす。鉄の棺桶のような箱に、魚がつめこんである場所である。クリーチャーの倒れている付近には、食べ残した魚の残骸が散らばっていた。

「ビデガン……終わったのか?」
「そっちはどうでぇ」
「死角は多いがおそらくは全滅させた」

  シンディラが奥から歩いてくる。彼女の言葉の意味するところは、わたし小さくなって棚とか邪魔で見渡せないけど、たぶん倒したよね全部、だろう。シンディラは背筋を伸ばし、凛とした女のように歩く。見た目は少女でも、中身は何百年と生きた神である。

「本当に雑魚ばっかだぜ」
「そのようだ。下層には力をいれていないんだろう」
「思ったのですが……」

  豆腐が天井のあたりを飛行している。ビデガンがその姿を見つけると、豆腐はひよーんと降りてきた。豆腐がそんな目立つ行動をしているということは、監視は全滅させたと思っていい。

「魔空戦隊は飛行可能な種族の集まりです。ならば下層部分には注力せずともよいのではないでしょうか。むしろ重要なのはいつでも飛び立てる上層階なのでは?」
「なるほどねぇ……一理あらぁ」
「派魔兵どもとは逆の発想なわけだ。なにかを守るためになら、やつらは敵を一階で止めないとならないものね」
「そうです。なので三階くらいまでは難なく進めるのではないかと。なので二階からはふたり一組で動きましょう。クリアリングとやらをしたら――」

  豆腐は黒い階段を指(?)さした。角がちょっと伸びているのだ。

「あの黒い階段に集まる。いろいろと有益ですからね」
「戻りが遅ければなにかあったのかとすぐに考えられるし、緊急の事態におちいってもすぐに逃げられる。なんなら潰してしまえば敵は追ってこられない……ところでフィアはどこ?」
「……迷子かぃ?」
「広いですからね。さすがはデッドプリズンと言うだけあります。しかしフィアさまとて勇者。むやみに勝手な行動はしないでしょう」
「そんなこと言ってて怪我でもしたらどうするのよ……!」

  と、シンディラは憤然と歩きだした。ビデガンはその背中を見送りながら、こっそりと嘆息たんそくする。

「過保護だねぇ……なんつぅ変わりようだぃ」
「アルラさまは育みを司る護神王さま。なので母性が強く、その影響をシンディラも受けているのです。まあ、もとから面倒見のよいお姉さまでしたが」
「なんにせよ別行動はなしだ。行くぜ」

  ビデガンはシンディラを追う。豆腐もひよよーんと進みだした。

  デッドプリズン一階には食糧が溜めこんであるようだった。ところ狭しと棚が並び、そこにはなにに使うのか分からない食材などがおさめられている。フロアの半分は食糧庫になっているが、もう半分にはソファなどが置いてあったり、出店のようなものが並んでいた。ビデガンはそれを見て、商業都市アプレルを思い出さずにはいられなかった。

「なぁ豆腐の女神よ。このデッドプリズンなんだが、城に見えねぇと思わねぇか?  なんだか商業都市みてぇだ」

  シンディラの小さな背中を追いながらそんなことを言ってみる。豆腐も同じ意見のようだった。

「ええ確かに。食糧庫かとも思いましたが、こちらの世界の値段をあらわすような紙が張りつけてあるのです。ほら、棚のすべてに」
「……みてぇだな。てこたぁここは城じゃなく、こっちの世界の商業施設か?  いやにバカでけぇがな」
「裕福な世界なのでしょう。棚の素材を見たところ、鉄のようですし」

  じっさい棚に使われているのはスチールであり純粋な鉄とは異なる。だがその違いが異世界人たちに分かるわけもなかった。

  高価な棚たちを横目にしながらシンディラを追い、たどり着いたのは黒い階段である。途中でクロスするように伸びた黒い階段で、シンディラはキョロキョロとし始めた。

「フィア……フィア!」
「おいおい……あんまりでけぇ声はだすなよ。アニミスで追えばいいんじゃねぇのか?」
「それはできません。ゼファーさまがシエルネットワークを閉じています。アニミスを高揚させない限りは探知が難しい。シエルネットワークで生きているのは最低限の情報送信、それと言語変換アニミスのみです」
「使えるんだか使えねぇんだか……おい、食糧庫なんだから腹減って飯でも食ってるんじゃあねぇのかぃ?」
「よくそんな悠長なことを言っていられる。まあだがフィアは育ち盛り……昼食の刻限に食事はさせないとならない!  だが、あまり好きなものばかりを食べさせては、今後の成長に支障がでるかもしれないじゃないか!」

  と、シンディラはいろいろな心配をしながら食糧庫に戻っていく。ビデガンはどうすればいいのか分からず、もうとにかく溜め息である。

「大変なミッションになっちまったなぁ……」
「ビデガン。フィアさまの捜索はシンディラに任せ、わたしたちは上階に進みませんか」
「そうすっか……二階にいるモンスターも雑魚だろうしな」

  一階の鉄の扉は施錠済み。正面の大扉もなにかの仕掛けか、鉄の防護柵のようなものが降りている。当面は外部からの侵入者などを心配せずともよい。ビデガンと豆腐は二階を目指し、黒い階段をあがり始めた。

「……ただの人質ってこたぁねぇよなぁ」
「異世界の人間たちのことですか?」
「ああ……」
「あまり考えたくはありませんが、モンスターたちのエサである可能性も」
「……それは俺も考えた。だがわざわざ破滅王から遠く離れた場所に、モンスターの巣を作るかねぇ?  けっきょくのところザコってなぁ勇者を足止めする兵隊なんだぜ。なら破滅王の近くに置かなきゃならねぇ。魔空戦隊の本拠地だとしてもだ」
「人間を捕らえたのは人質に利用するためではないと?」
「消えた飾神……その隠れミノってのが最有力じゃねぇかい?」
「……そうでしょうか。わたしには別の狙いがあるように思えます。人間を人質にするというのは確かに勇者さまの足止めには有効です。英霊の雫石しかり、破滅王までの道のりを邪魔する行為になる。じっさいに勇者リオンさまと賢者さまは破滅王の城にいながら、進めなくなっている状態です」
「……つまり?  なにが言いてぇんだ」

  ビデガンは分からずに聞き返した。ちょうどそこで二階にたどり着く。豆腐はひよーんと追い越すと、

「シンディラの言っていた魔導師の輝石が気になります。それがあれば魔族たちにとって、人間の利用価値があがる」
「するってぇと……こっちの世界の人間を魔性化ましょうかするってことだな?  戦力の増強だ。呪術師に堕とすってわけか……」
「それならまだマシです。魂の在り方を変えてしまうのならば、魔物にだってできるはずです。それだけは回避しなければなりません」

  とりあえずそのへんのことは可能性の話だ、とビデガンは苦笑した。ビデガンは豆腐の考えすぎだと思ったのである。

  それをやるメリットが魔族たちにあるのかが疑問であるからだ。なぜならその行為をするにあたり、膨大な魔力を必要とするはずだ。それをやって魔神クラスの化け物を創れるならいざ知らず、たかだか人間を魔に堕とすていどのことで、魔神クラスの魔族が創れるとは思えない。つまり、戦力にならない魔物ザコを創るというのは、採算さいさんにあわない行為だろう。

「まあなんにせよ、あんたのためにもまずソヨギを探すぜ」
「ではわたしは右まわり、ビデガンは左から行きましょうか」

  豆腐の提案にこくりとうなずき、ビデガンは歩き始めた。

  デッドプリズン二階も、置いてある品が変わったくらいで一階と似たような造りである。監視が仮眠でもするのか、大きなベッドが通路脇に置いてあったりする。そのさきには大量のマクラが鉄のカゴにつめこんであった。ビデガンはそのへんをチラリと見ながら歩いていく。

  ……しかし、ビデガンはしばらく進んだところで足をとめた。大量のマクラから細い通路を進んださきに、なにかを見たような気がしたのである。

「……なんかいたような気がするが?」

  ビデガンはくるりとまわれ右をして、そのなんかいた細い通路に向かった。マクラのカゴを曲がり、シーツが棚に並んでいる通路にはいる。と、

鳥人バーダー?」

  鳥の人型モンスターである。なんだか白眼になり、泡を吐いてバッタリしているのだ。ビデガンはかがむと、手をクチバシに近づけた。

  ……死んでいる。しかし不思議なことに外傷はまったく見つからない。着ている鎧は無傷。それどころか体毛ひとつ落ちていない。あまつさえバーダーは剣をしまっていたようだ。

「どんな手練てだれだ?  俺でも無傷じゃ殺せねぇぞ……」
「ビデガン!  こちらに来てください!」
「……潜入ミッションじゃなかったかねぇ」

  ビデガンは豆腐の大声に舌打ちし、バーダーを放って声のほうに向かった。よく分からない品物をながめつつ、一応は周囲を警戒しながら歩いていく。通路を挟んで区画のようになっていて、区画ごとに置いてあるものが違うようだ。あっちの世界では見たこともないものや、高価すぎて触ったことがないものが並ぶ。この鉄で加工された大きな箱はいくらすんだ?  とてつもなく値打ちがあるもんに違ぇねぇや……ザンネン。それはゴミ箱です。

「こちらですビデガン」
「あ……?  こんなとこ歩けってか?」

  ビデガンは正直ゾッとしていた。パッと見だけで分かる。紙、紙、紙……紙の山である。ソヨギが腹にしまっていた紙属性と、酷似するものが並んでいたのだ。その紙の結界のずっと奥で、豆腐が浮いているのが見えた。

「ビデガン、早く」
「……状況だけ知らせてくれや。こんなとこ歩いちまったらご先祖に顔向けできねぇ」
「なにを怯えているのですか!」
「しかたねぇだろ。墨の悪魔インカースが封じられたのは紙属性の束だったんだよ。それにつけられた名前が……災厄カース封印インしたっつーんでインカースの魔書ときたもんだ。偉大なはずのご先祖がダジャレで片づけられちまうんだぜ?  泣けてくらぁ」
「……まったくもう!  しかたありませんね!  ここには猿人モンカーがいます。ですが生命の息吹を感じません。しかし不思議なことに外傷がなにひとつないのです」
「それと同じもんが向こうに転がってるぜ。バーダーだけどな。なぁ……とりあえずこっち来いや。声が響いてしょうがねぇ」

  豆腐は、情けない護神ですね、とか悪態をつきながら飛んできた。しかたねぇだろ。属性相性だきゃあどうにもならねぇって。

「豆腐の女神よぉ、この状況はいったいなんだ?」
「分かりません。ですが考えられるのはひとつじゃありませんか?」
「あぁ?  魔物と対立してるうえ、俺たちより技量に優れたやつがいるって?」
「そうです。わたしたちよりさきに潜入した、こちらがわの人間と言えば……ひとりだけ」
「……まさかソヨギだってのか!  だっておまえ……こんなことができんのはソーサラーくれぇだぜ?  傷つけずに殺すなんてなぁ呪術しかねぇ」
「ソヨギさまな数々の霊級をお持ちの方です。その才には善も悪もない……バッドデビラスだとシンディラが言っていたじゃありませんか。ソヨギさまはソーサラーでもあった。そうであっても不思議ではありません。さすがはソヨギさまっ!」
「いやいや……おまえはそれでいいのかもしれねぇがよ……」

  ソヨギはなんと言ってもトリックスターである。トリックスターがトリックスターであるゆえんは、神さえも恐れない裏切りと欺きのおこないにほかならない。つまりソヨギの気まぐれで魔族のほうにつかれたら、こちらの脅威にしかならないのだ。

  『王なきデビロイドたち。しかし王になろうとする愚か者はいない』――どっかの詩人の歌には、そんな皮肉めいたものまである。つまり、その王の資質そのものが、逆にデビロイドをつぶしかねない諸刃の剣なのである。

(そうならねぇように祈るしかねぇわけだ)

  ビデガンは苦笑した。この悲愴感ひそうかんすらただよってくるソヨギへの懇望こんもう――矛盾だねぇ……

「よし、とにかく二階を見たらうえに行くぜ。ソヨギが無事な証拠だ」
「そうですね。まあソヨギさまの霊級に敵う者などおりませんけど。わたしは心配などまったくしておりません」

  よく言うぜ……とは口にせず、ビデガンと豆腐は黒い階段で落ちあうことにして、クリアリングを開始した。

  だがこのあと三階にあがっても、ソヨギは見つからなかったのである。

                     ※

  スーツである。

  ソヨギは格安なスーツを選んでいた。三階の、エスカレーターからはかなり離れた区画である。なんだか高そうなスーツはエスカレーター近くにあった。なのでブランドショップから離れてくると、だいぶ奥まった場所に格安スーツコーナーを見つけたのだ。もちろんブランドではない。

「……暗いな」

  そう、暗いのである。スーツの色が紺なのか黒なのか分からないのだ。うむ……せっかくの買い物で失敗したくはない。懐中電灯でも探しに行くか。ソヨギは格安スーツコーナーから離れて、ガッサガッサしながら歩き始めた。

  三階はスーツコーナーが半分。そのなかにはビジネス用品であふれている。もう半分はアクセサリー関係の店が並んでいる。こちらも高価なものばかりがそろっているようだった。時計とか香水とかネックレスなんかだ。つまり社会人向けのフロアなんだろう。

  だがソヨギは手とか首になんかつけているのは嫌いである。邪魔くさいのだ。しかしちゃっかり香水はゲットしている。大学でサム○イが人気だったのだ!  なにげにソヨギはホクホクである。

  ガッサガッサと歩いていき、エスカレーターを昇っていく。

  ダルい。なぜ非常電源がないんだろうか。エスカレーターの反対がわにはエレベーターもあるが、動く気配はない。停電中なので当然だが、正直なところ体が重くてしょうがなかった。

  うむ……順調に頭がガンガンしている。ちょっと頑張って歩きすぎたかもしれない。四階は確かドラッグストアがあったのだ。ソルマック以外の二日酔い対策を考えるチャンスである。

  ソヨギは四階にあがった……そして、

「……めんどくさ」

  思わずつぶやく。

  なぜなら四階には、モンスターがそこかしこにいたのである。エスカレーター付近にこそいないものの、あがって左手のドラッグストアあたりに数体いる。さらには通路を行き交うモンスター。各ショップの区画に数体。雑貨屋がある奥のほうにも頭だけが見えたり、仕切りの壁から出たりひっこんだり――おそらく三十はいそうだった。しかも、

「おまえ!  なんでニンゲンがいる!」

  ドラッグストアから反対の方向である。蛇の人型モンスターが、舌をチロチロさせながら叫んだ。その声に気づいたのは一体ではない。今しがた確認したモンスターのほとんどである。それが声をあげるとほかのモンスターも気づく……なのであれだ。四面楚歌ってやつです。

「……まいったな」

  ソヨギはさすがに困った。袋からメッシちゃんをだしておく。ヘビモン(略した)はそれで動きをとめた。しかしいろんなところからモンスターが近づいてきていた。

「う……さすがにこれはキツい……」

  ソヨギはやってきたモンスターに冷や汗を浮かべていた。とりあえずエスカレーターをあがってすぐのファンシーショップにはいっていく。そしてソヨギは天井をキョロキョロとし始めた。

  ――お腹が痛い!  トイレがどこにあるのか把握しておけばよかった!  おそらくポテチとコー○の食べすぎ飲みすぎによる胃のムカつき、それからの腹クダシに違いない。さすがのソヨギもそのモンスターには太刀打ちできないのだ。

  ドラッグストアに急がなくてはならない……モンスターだらけとはいえ、二十歳をすぎた大人が!  うえからは酸属性のゴマカシでどうにかなったが、したからは無理だろう。同じ酸属性かもしれないが!  それはちょっと意味合いが違うだろう!

  ……と、そんな感じでソヨギによる勘違い無双がショータイムだった。

  ゴロゴロピー。

                        続く
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